(027) 話題はやっぱアイドルでしょ
◇◇◇ 教室 ◇◇◇
ホームルーム開始前。
いつも邪魔なカイの姿が見えない。
金沢さんのところへ直行してるのだろう。
すげぇなぁ。
そのグイグイ行く感じ、オレも欲しいわ。
「来週から期末テストだよね。凄く憂鬱」
「分かるぅ。」
「嘘だぁ。細倉くん、頭いいじゃん。」
「最近勉強してなくて。
中間が良かったから点数悪いと
親がうるさいんだよ。」
<<寮住まいで親と連絡取ってないでしょ。
いつ怒られるの?>>
ノノンさん、シャラップ!
女子との会話は同情が大事だから。
「分かるぅ。家もです。
私の場合、進学なんて考えてなくて
卒業できればいいのに、成績悪いと
トレーニングの時間が減らされちゃうの。」
「そうなんだ。どこの家もいっしょだね」
いつのまにか女子との会話ができてる。
ワクワクというか、この感覚はどう
表現したらいいんだ。
ノノンよりも先にオレが天に登りそうだぜ。
くぅー、ドラマで見てた夢の高校生活が
オレの身に起こってる。
オレは光よりも早く進化してるような気がする。
思い返せば、あの告白未遂がきっかけだ。
次の日は最悪な事態であったが、
勇気出してホントよかった。
ノノンもその一人。
学校生活が楽しくなった。
あのまま何もしなかったら高校時代は
黒歴史で終わっていたことだろう。
卒業したらどんな思い出になるか分からないが
一生刻み込まれる高校時代になるのは確実だ。
「ごめん、ごめん、待った?」
「誰も待ってない」
カイが突然現れて、会話に割り込んで来た。
楽しい時間が壊される。
まぁ、堀北さんがクスクスする
ところを見れたのでいいか。
「堀北さん聞いてくださいよ。
ハルの事なんだけど。
彼女、出来たらしいよ」
バカバカ、声がデカい。
オレは、小さい声でお願いとジェスチャー。
ていうか帰ってくんないかなぁ。
「私の知っている人?」
「彼女じゃないです」
<<あ~あ。ハル、ノノンに嘘ついた。
彼女居るんだ>>
頼むからノノンも参加しないでくれ。
「お相手は何とエルピースのエミリンです」
「知らない」
知らない?
「ほらアイドルの北篠愛美梨って
聞いたことありません?」
「アイドル!?ごめんなさい。
私、そういうのに疎いの」
なんだよ、堀北さん知らないじゃん。
国民的アイドルじゃないんだ。
オレだけが知らないのかと思ってたよ。
「そのアイドルさんが細倉くんの彼女なの?」
<<どうなのハル?>>
くっそ、アイミーと知り合いになったことを
肯定も否定もできないじゃないか。
肯定したら会わせろよと言い出すだろうし、
否定したら卒業までこのネタが使われる。
頼むから周囲の人たちはオレ達の会話聞かないで!
「あれぇ?
昨日デートしたんですよね?
細倉春輝くん。
説明、お願いします」
最悪。
「カイは信じてないんだろう?」
<<デート?もう彼女じゃん>>
ノノン、今は黙っててくれ!
気が狂いそうだ。
「信じてるに決まってるだろ。
オレもどうやったらアイドルと
お近づきになれるか興味ある」
なんだ、こいつ。
<<どんな関係か正直に答えなさい>>
「そのアイドルさんと知り合いなのは
本当なの?」
あれれ?堀北さん、関係気になりますか?
それって嫉妬してるってことですよね。
「困ってるところを助けたら、
そのお礼にって、昨日お昼ご飯をご馳走
してくれたんです。
それだけで、それ以上もありません。
彼女でもなんでもないし。
カイに言われるまで、その人がアイドル
だとは知らなかったんだ」
「あのさぁ。
もうちょっと納得のいく説明してくれよ」
はいはい、作り話だと言いたいのね。
事実なんですけど。
「ならエミリンの連絡先知ってるんだよな?」
「知らねぇよ。
芸能人が教えてくれる訳ないだろう」
知ってるだなんて口が裂けても言えねぇ。
絶対に今すぐに連絡しろとか、
声を聞かせろとか言い出すからな。
「なら、昨日はどうやって
待ち合わせしたんだよ?」
おっと、痛いところを突いてきたね。
「助けたのが土曜日で。
待ち合わせ場所と時間を
一方的に言われて去っていったんだ。
知らねぇけど、仕事があったんじゃねぇの?
断る隙を与えずに去っていったから、
日曜は会うしかなかったんだ」
オレ、天才じゃね?
良くまぁ、こんなデタラメがスラスタと
口から出て来たものもだ。
「あるんだね。
そんなドラマみたいなこと」
「信じちゃダメですよ。
これハルの妄想だから」
信じるとか、信じないとか。
面白がってるだけだろう。
<<なんだ。全部嘘なの?>>
ノノンさん?そこは信じるんですね。
「どんなアイドルさん?
顔見れば分かるのかなぁ」
「ハル、昨日の写真見せてやれよ」
<<見たい見たい>>
こいつ余計なことを。
「これが昼食べてた時に取った写真です」
「すごい美人さん。
アイドルというより雑誌モデルって感じ」
ですよね。同感です。
「オレもアイドルだとは思わなかった。
未だに歌って踊るところが想像できない」
「もう、会う事はないの?」
本当に信じてくれてるんじゃ。
「ないでしょ。別世界の人だし」
「もったいない」
「そうだよ。Lineくらい交換しとけよ」
ドキッとさせるな!
あんたは鋭い。
「お前はこの話し信じてないんだろう?」
「信じてるよ。決まってんじゃん」
半笑いで言うな。もう振り回さないでれ!
そんな会話をしてるうちに担任の登場。
周囲のやつらは絶対にウチらの会話が
耳に入ってるはず。
頼むから騒ぐなよ。
学校が楽しいと言ったのを撤回します。
やはり、今日サボればよかった。




