(026) イチャイチャな朝
月曜、時刻は朝5時。
「起きて。朝ですよ」
・・・
「ハルく~ん」
「ん~ん。
ノノンか?あと10分寝かせて」
「ハルってばぁ。
お寝坊さんなんだから、もう」
・・・
「起きないならチューするぞっ」
「わぁー」
オレは、耳元のささやき声がノノンである
ことに気付き飛び起きる。
そして音の方向を向いて確認。ノノンだ。
夢じゃない。ノノンがここに居る。
もう二度と会えないと思っていたのに。
「何で居るんだよ?」
「酷いよぉ。それ」
凄く会いたかったのに、第一声にして
何て事を口走ってしまったんだオレは。
感動の再会のはずが台無。
「ごめんごめん。
悪い意味じゃない。
良い意味で言ってる」
「何で居るんだよ!
に良い意味なんかないよ」
「悪かったって。会いたかったんだ。
凄く会いたかった」
「大げさね」
「本当だって!
ノノンのいない間、寂しかったんだ。
嘘じゃない」
「それじゃ私がずーっと居なかった
みたいじゃない」
「確かに居なかったのは
土日だけだったけど」
「あれぇ!?
ハルの部屋に居るよ、どうして?」
ノノンの話によると、つい先ほどまで部室に
居たという記憶だそうだ。
要するに、ノノンには土日の記憶がなく、
教室中が煙で充満され、気付いたら
オレの部屋だったということらしい。
通りで会話がかみ合わないはずだ。
「だからもう会えないと思ってた」
「ノノンは天使だよ。
消えるはずないでしょ」
「なに、ニヤケてるの?」
「いや、まだ天使だって言ってるから」
「どうして?
どこからどう見ても天使でしょ」
「最近の天使はロックなんだな」
天使はおいといて。
オレもノノンがあんな煙で消えるとは
心のどこかで信じていなかった。
まぁ、成仏して欲しかったのは嘘ではない。
こうして会えて心の底から嬉しい。
だが、再会するならもっと感動的であって
欲しかった。
オレが悪いのか。
などと考えてるうちに、安心したのか急に
眠気が襲い掛かってきた。
冷静に考えれば、まだ明け方の5時だ。
起きるには早すぎる。
「ごめん。1時間寝かせてくれ!」
「だめぇ。お話ししよ?」
「頼む、寝ないと死んじゃう」
「わかったわよ。
1時間したら起こすからね」
オレはノノンの顔を見て、
そのまま目をつむる。
・・・ 無音が続く
10秒も経たないうちに気になって
目を開けてしまう。
すると、ノノンが覗き込んでいて目が合う。
「お休み。ハル!」
オレはノノンの存在を再確認して、
再び目をつむる。
・・・ 無音が続く。
10秒も経たないうちにまた目を開ける。
ノノンと目が合う。
「寝ないの?」
「寝れねぇよ」
気になって寝れやしない。
しかも次、目を覚ましたらノノンが
居ないかもという不安もある。
オレは、上半身を起こす。
「なんでよ」
「自分でもわからん。
眠いけど寝れないんだ」
「意味分からない」
「走り行くか!」
オレは、寝起きの格好のまま外へと出て行く。
ラニングコースは1時間で戻って来れる
中距離を選択。
どれも人通りが少なく、車もほとんど
走らない住宅街を通るルートだ。
お願いした訳ではないが、
ノノンも一緒に付き合ってくれた。
女子とのランニング。
オレが先頭を走り。
彼女が後ろから自転車で付いて来る。
心が折れないよう「ガンバレ!」と
エールを送り続ける。
童貞男子なら誰しもが憧れるシチュエーション。
「ファイト!ハル。ファイト!ハル」
ノノンを肩車してでのランニングである。
イメージが違~う。
夢見た状況ではないものの、これもありだ。
ノノンの太ももが真横にあるのだから。
たまんねぇな。
触れられたらもっと最高なんだけど。
「ハッハッハッ、楽しいか?」
「楽しい。気持ちいよ」
「そうかい」
ランニングは基本辛い。
なんでこんな苦しい思いをする必要あるのか
走る度に感じてる。
でも今朝は違う。
辛さは変わらなけどノノンが応援してくれる。
励ましてくれる。太ももがある。
モクモクと1人で走るのとは訳が違う。
オレは人付き合いが苦手だ。
特に会話が途切れないよう適当な会話を
続けるのが苦痛で仕方ない。
相手に合わせて行動するのもそうだ。
一生1人でいいと思っていた。
だけど、こうしてノノンが居ると違う。
側に居続けて欲しいと願ってる。
人って変わるもんだな。
ノノンが見てる手前、結果頑張り過ぎた感はある。
全身汗でびっしょりでベトベトのヘトヘト。
シャワーを浴びたあとの爽快感は、
辛いランニングを打ち消してくれる。
その後、寮の食堂で朝食を済ませて自室へと戻る。
そして、布団の上に転がり仰向けとなる。
ノノンはオレの横に寄り添う。
あぁ、これよこれ。この感じを求めてた。
「ふぅ。動きたくねー」
「疲れた?
ハル、凄く頑張ったもんね」
「食い過ぎて気持ち悪ぃ」
「そっち!」
「あのさ、昨日のお昼だけど。
ノノンが一瞬現れたの覚えてない?」
「知らない。別の人じゃないの?」
「そっか。ならいい」
あれは確かにノノンだった。
一瞬しか現れてないから記憶にないのかな。
深追いは止めておこう。
「どこか行こうよ」
「どこかって?公園とか?」
「電車乗って遠いところ」
「金がない」
「えぇ。つまんない」
「確かにたまには電車乗って遠出したいな。
ずーっとこの周辺しかうろついてないし。
夏休みにバイトでもすっか。
ノノンはどこ行きたい?」
「海が見たい。沖縄!」
「沖縄?バカじゃねぇ」
「ノノンはいつだって真面目です」
「沖縄まで付いて来れるのかよ。
地縛霊なんだろう?」
「ノノンは天使です。
宇宙の外だって付いて行けますよ」
「水着に変身できるか?
それなら考えなくもない」
「あら!ノノンの水着姿見たいの?」
「ビーチでその格好は変だと言ってる」
「素直になりなよ。
ハルはエッチさんなんだから」
「見たいと言ったら水着になってくれるか?」
「ノノンは天使だからのこの服しかないよ」
「そうですか。その格好が天使ねぇ。
オレのイメージと違うんだけどなぁ」
「どういう服装が天使なのよ?」
「説明がムズイ。ん~ん。
ウエディングドレスみたいなやつ?」
「なにそれ!
変な雑誌見過ぎなんじゃない」
「そろそろ着替えるとするか」
オレは立ち上がる。
「えー、遊ぼうよ」
「学校だ!準備しないと」
「つまんない」
「遊ぶったって、することないだろ?」
「ゲームしよう!」
「夜でいいだろう。学校行かないと」
「いいじゃん行かなくたって。
ハル、頭良いんだから」
「そういう問題じゃない。
出席日数、つうのもあるの」
♪ガチャ (扉が開く)
「ハル、学校行こうぜ!」
・・・
「なんだよ、まだ準備できてねぇのかよ。
芸能人を彼女に持つと余裕だねぇ」
「おい、それやめろ!彼女じゃねぇし」
<<ハルって、彼女いるの?>>
ノノン、割り込まないで。
オレは急いでシャツのボタンをとめる。
アイミーの事すっかり忘れてた。
こいつ、みんなに言いふらすぞ。
ノノンの言う通り、今日は学校をさぼった方がよさげた。
「いつもより早いじゃないか。
今日は何かあったっけ?」
「ハル君。オレは勉学に目覚めたのだよ」
「嘘つけ。分かった。
金沢さんところに行く気だな?」
「分かる?」
「やめとけ。進学クラスだぞ、迷惑だ」
「いいじゃねぇか」
オレは急いでズボンを履く。
「下 (玄関)で待っててくれ」
「急げよ」
カイは、扉を閉めて去って行く。
「ハル!芸能人の彼女が出来たの?」
「彼女なんていない。
大体、どうやったら貧乏学生が
芸能人に出会えるんだよ。
教えて欲しい」
なんでオレはノノンにいい訳してるんだ!?




