(023) 初デート③
オレとアイミーは原宿のとある
オシャレなカフェにいる。
窓際の景色が良いテーブルでランチが
来るまでの間、他愛もない会話を楽しんで
盛り上がっていたところ。
「失礼します」
注文したランチが来た。
また料理もオシャレだこと。
お皿といい、盛り付けといい。
食べるのがもったいない。
お店の雰囲気と、オシャレな料理を前にした
アイミーは凄く絵になる。
目に入るもの全てがマッチしている。
"映える"という言葉の意味をやっと理解できた。
この光景を永遠に写真に残したい。
初めて感じる感覚だ。
オレは無意識に携帯を手に取り、
カメラアプリを起動してしまった。
「写真撮っていいですか?」
「撮ろう撮ろう」
言えた。写真撮ろうって。
無意識だったからよかった。
「お皿持って」
「こんな感じ?」
アイミーは両手でお皿を持ち、
料理が見えるよう少し傾ける。
♪カシャ、カシャ
携帯のモニタから見るアイミーは芸能人だ。
嘘のない笑顔。
カメラを向けたらアイミーは別人だ。
この年頃の女子はみな、撮り慣れてるのだろう。
自分が良く見える表情や角度を分かってる。
ただでさえ可愛いのに、大人の表情へと変貌してる。
美人だ。その一言に尽きる。
この時間が夢のようだ。
「もう少し持ち上げて」
♪カシャ、カシャ
やばい。オレ、アイミーが好きだ。
告白するか。
いや待て!あの地獄を思い出すんだ。
冷静になれ。
彼女は間違いなくモテる。
オレが彼氏になったら彼女をリードできるのか。
無理だろう。
貧乏学生で金がない。着る服もない。
ランチですらおごれない。
どこにも連れて行けない。
オシャレな店も知らない。
そもそも外見的に釣り合ってない。
ないない尽くしだ。
なぜオレは高校生なのだろう。
学生であることに無力感を感じている。
社会人であれば解決できることが沢山あるのに。
人生最大のチャンスをものにできないのか。
オレは、ショックで携帯をテーブルに置く。
アイミーも合わせ、お皿をテーブルに置いた。
「食べよう!」
アイミーの笑顔が眩しい。
オレは自分のテンションを悟られないよう
頑張って微笑を見せるも、
ちゃんと笑えているだろうか。
その時である。
アイミーの背後に靄が現れた。
この感じ見覚えがある。
堀北さんの時と同じだ。
靄は人の形へと変化し、更に実体化した。
それはパンクな格好をした女の子。
「ノノン!」
「ノノ?
え、何て言いました?」
アイミーはオレの目線を辿って後ろを振り向く。
靄は実体化したとたん消えてしまった。
それは一瞬の出来事で顔までは
はっきりとは確認できなかった。
だが、おれは見逃さない。
この世にパンクな服装をした霊なんて
1人しか存在しない。
「後ろに何かあるの?」
ノノンが再度現れる気配はない。
落ち着けオレ。動揺するな。呼吸を整えろ。
今は、アイミーに集中するんだ!
「ごめんなさい。
後ろの置き時計なんだけど。
懐かしいなと思って。
思わず声が出てしまった」
「あれね。変わった時計よね」
突然何を言い出してるんだオレは!
見たままの事を正直に言えばいいのに。
「同じ物が実家にもあったんですよ。
中学時代に。
目覚まし時計として使ってて、
ある日アラームがうるさくて寝ぼけて
投げちゃったんです。
そしたら壊れちゃって、
二度と動かなくなりました。」
「あらあぶない。
誰かに当たらなかったの?」
「1人部屋だったから大丈夫でした」
「ならよかった」
「その時計。
おじいちゃんが大事にしてたやつなんだ。
何かの記念品かなんかでもらった
非売品だったようで、修理しても治らない
レベルな壊しかたをしてしまって。
その時計を手に持ったおじいちゃんが
寂しそうで。
あの時の顔がフラッシュバックして」
「だから急に真顔になったのね。
誰しもあるよね。
楽しいことは直ぐ忘れちゃうけど、
そいう悪いことって、ずっと覚えてるよね」
ゴメン、全て出まかせの作り話です。
バカだなオレ、正直に幽霊を見たと言えば
いいものを。
幽霊というかアイミーの前で何となく
ノノンの話をしたくなかったのが本音だ。
まさか、目に入った置時計で、
こんなストーリになるとは我ながら驚き。
アイミーに同情されたけどメチャメチャ
後ろめたい。
でもこの子。見た目と違って性格がいい。
オレが、勝手に性格が悪いと決めつけてたんだな。
「ごめん。どうでもいい話しでした」
「ハルって優しいよね。
辛い過去だったけど、人の痛みを
忘れてないって素敵だと思う」
この話は広げたくないです。
ぼろが出そうだ。
話題を変えないと。スマイル、スマイル。
「写真見て」
オレは携帯を手に取り、さっき取った
アイミーの写真を見せる。
「うまく取れたと思うよ」
「いい。ハルキ、センスある」
「モデルがいいんですよ」
「私も取ってあげる。お皿持って」
「オレはいいですよ。
魂の抜き取られるから」
「何それ。フフ」
別に写真を撮られることは嫌いではない。
だけど、アイミーの携帯に田舎臭い男の
画像が残るのに抵抗があった。
絶対に黒歴史になる。
もっと格好良い男になってから撮られたい。
「あら、撮られるの嫌いな派ね。
取った写真、あとでLineして」
おぉ!Lineはこうやって使うのか。
フレンド登録がゴールじゃないんだ。




