(197) 営業活動頑張ります①
◇◇◇ RSテクノロジー社 ◇◇◇
時刻は15時半。
オレは田中の身体に乗り換え、
舞台演出の設計製作してる会社に来てる。
オレが会長を務めるRSテクノロジー社だ。
再来週決行されるアイミーの武道館ライブ
についての打合せに来ている。
ライブまでの時間はもうない。
本日は、進捗の確認と最終調整である。
アイミーの武道館ライブはオレがプロヂューサー
となって全体を仕切ってる。
元々は違っていた。
事の経緯は、ライブ演出を確認した所、
アイドルライブでよく見かける騙し騙しの
構成で普通だったのがガマンならなかった
ところにある。
正直、オレにしてみれば
しょぼすぎると感じたのだ。
アイミーにとってはグループ最初で最後の
コンサートになる。
しかも、白川さんは凄く楽しみにしている。
それを思うとこのまま実施させる訳にはいかない。
金を出すから演出を変えさせてくれと申し出
したところ、ライブに関する全権限をオレに
与えさせてくれてた。
なので自由にやらせてもらってる。
手始めに発注先の演出会社へキャンセル料を払い
全ての作業を中止させた。
そして、オレが会長を務めるここの社で
全面的に演出を引き受けることとしたのだ。
会議室に入ると、2人が会話中してる。
その人物は、社長とカイ父である。
じゃましたかな。
「お待ちしておりました
本日は岳中さんもいらしてます」
「ご無沙汰しております」
「岳中さんのおかげで大変助かってます」
オレも、さっき息子さんに助けられましたよ。
「全て社長に任せってしまって申し訳ない。
では始めましょうか」
「では、早速本題に入ります。
内容はメールでお伝えした通り。
模型を作りましたので、
見ながら議論しましょう」
この後、3時間くらいだろうか、
プログラムと演出の流れを一つ一つ確認。
おおむねOKで、会場までの動線部分と
ラスト10分ついて追加要望を出した。
社長はそれに対して即OKをし打合せは終了。
「決まりだな。これで進めよう。
大きな変更はなさそうだ。
お金はいくら掛かってもいい。
問題は間に合うかどうかだが」
「間に合わせます。
これが出来なかったら私が後悔するでしょう」
「それは心強い」
絶対に妥協しない社長の姿勢が好きだ。
途中まで製作しても、もっと良くなるなら
ぶち壊してでも作り直してしまう人だから。
今回も最高の演出にしてくれた。
感謝しかない。
オレがやれる事は全てやった。
あとは、アイミーのパフォーマンス次第。
頼む、期待を裏切らせるなよ。
◇◇◇ 神楽芸能事務所 ◇◇◇
時刻は20時半。
次にオレが向かった先は神楽芸能。
現在、社長室前に立っている。
どうもノックをためらってしまう。
あの人の絡みが最近怖いからだ。
頼み事があるので仕方ない。
♪コンコン
「これは田中さん、
お待ちしておりましたわ」
「すみません。突然押しかけてしまって」
彼女は芸能事務の社長、大盛さんである。
先日テレビスタジオで会話した人だ。
「田中さんならアポなしで、
いつ、いらっしゃても構わないですよ」
えらく気に入られたものだ。
オレはソファーに腰かけると
社長も対面に座る。
「それで要件は何かしら。
まさかお食事の誘いではありませんよね?」
誘うかよ。
それこそ週刊誌のスクープになる。
「アーツファクトリ芸能事務のタレントで
現在アイドルをしてる石川凛々華さん
について、お聞きしたい」
アイミーの相方だ。
アーツとの契約はライブ最終日までとなってる。
他の芸能事務所へ移籍するということで
次の武道館ライブで引退を発表する予定だ。
「引き抜いたのは内よ」
「隠されないのですね」
「どうせ、調べ上げてるのでしょ?」
もちらん。
オレには優秀なスタッフが付いてるもんでね。
「隠してても数カ月経てば発覚することですし。
それで?
彼女との契約を廃棄させるために
いらしたのかしら?」
「いえ、その逆です。
彼女の後押しに伺いました。
神楽にとっても美味しい話しかと」
「それは興味深いです。
お聞きしましょか?」
オレは社長にある提案を持って来た。
それはアーツにとってもプラスになる
ことで、お互いWinWinになる内容。
「なるほど。
田中さんの提案に乗りますわ」
「今答えなくても、一旦持ち帰って
社内で検討してもらって構いません」
「内にデメリットはありませんもの。
そのまま進めてください。
全面的に協力させてもらいます」
「ありがとう御座います。
では進めさせて頂きます」
「ところで田中さんは現在どのような
お仕事をなされてるのかしら?」
「今回のような雑用くらいで
特定の仕事はしてません。
どちらかというと勉強中です」
学生やってます。
「もったいないわ。
弊社の顧問としてお迎えする
準備がありますけど」
面倒臭いです。
前田といい。オレに仕事持ってくるな。
でも学生もなぁ。鬼軍曹怖ぇし。
学園生活に魅力を失ってるところはある。
◇◇◇ 自宅マンション ◇◇◇
時刻は22時半。
オレは田中のまま帰宅した。
今日中に終わらせるつもりでいたが、
明日も営業は続く。
せっかくの日曜日だというのに仕事とは。
トホホ。
白川さんには明日も仕事だと伝えてある。
ハグして元気をもらいたいところだか、
田中の身体ではちょっと抵抗がある。
明日までガマン。
久しぶりに仕事して疲れた。
オレ、研究室戻ったら復帰できるのだろうか。