(194) 学校退学したい。マジで!
◇◇◇ 自宅 ◇◇◇
時刻は朝7時。
オレの部屋。
「ハル?朝ですよ」
「ん~ん」
「ハルってば...朝ですよ」
・・・
「起きないならくすぐるぞ。
こちょ、こちょ、こちょぉ~」
「朝から何してるんだ!ノノン」
ノノンが馬乗りになって、オレの脇をくすぐってる。
「幽霊がそんなことしても何も感じない」
「ノノンは天使です」
「はいはい。で、何の用?」
「朝ご飯できたから呼びに来たよ」
なるほどね。
恐らく白川さんが手が離せないから
ノノンに頼んだってことか。
「電話しろよ。携帯あるだろう?」
「だって電話恥ずかしいじゃん」
意味分からん。
「半裸な幽霊の方が恥ずかしいだろう?」
「天使です」
◇◇◇ 白川宅 ◇◇◇
時刻は朝7時10分。
オレは白川さん宅で朝ご飯を頂いてる。
寮を出たらずさんな食生活が待っていると
覚悟してたが、ふたを開けたら寮より最高。
白川さんの手料理が食べれる。
オレが幸せです。
今日は土曜日、学校は午前までだ。
「お昼は2人でどこか食べ行きなよ。
授業終わったら、カイと2人で
生徒会室に乗り込んでくる」
「例のバンドの件?」
「そう。だから何時に終わるか分からない。
話しがこじれたら夕方まで戦う事になるかも」
昨夜のこと、学校のグループLineで文化祭実施
の許可について話題に出したら
カイが『クーデターを起こすぞ』と言い出した。
生徒会を乗っ取るつもり?
目的が達成できるならどうでもいいが、
カイに任せたら出来るものも出来なくなる気がする。
「終わったらここに来るけど。
何時になるか分からない」
「学校出たらLineちょうだい」
白川さんが連絡をくれだとさ。カワイイ。
おぉ、恋人同士って感じがする。
別々の学校に通う学生カップルって
気分になってきた。
「了解」
◇◇◇ 学校の教室 ◇◇◇
時刻は8時20分。
教室に一歩足を踏み入れると
オレに100トンもの重圧がのしかかる。
1歩1歩が重い。なぜだ?
オレが見てる先に鬼軍曹の姿が映ってるからだ。
ここからは気が抜けない。
1ミリのミスも許されない。失敗は命取り。
オレはロボットのようなぎこちない動作で
自席へ到着し、腰かける。
座ったところで重圧は変わらない。
ここは地獄だ。再認識した。
オレの背中をツンツンと刺す者がいる。
振り向くと真後ろ席の須藤さんであった。
「お友達じゃない?」
彼女がシャーペンで入口を差す。
その先に廊下ら教室の中を覗くカイの姿があった。
どうやらオレを探してるらしい。
そう言えば、新しい席の場所を伝えてなかったか。
「カーイ、ここだ!」
座ったまま手を振ってアピール。
カイがオレに気付くと同時に
隣の軍曹にも気づいたようだ。
そう言えば、カイにとっては水と油。
宿敵のライバルだったか。
珍しくしかめっ面な表情をみせた。
分かる。分かるぞカイ!
今ならお前と朝まで語り明かせそうだ。
頼む、鬼軍曹にデカい顔できないよう教育してくれ。
だが、カイは入り口から一歩も動かず
ジェスチャーで頭の上に人差し指を2本立てて
『鬼が居るから帰る』と返答。
そして姿が消えた。
えぇぇぇ。
カイも鬼だと認識したのか。
気が合うな。
もう、二度とこの教室に入ることはないだろう。
さらば戦友。
オレは捕虜として独房の中で生きていくよ。
「あなた達、ちょっと失礼じゃありません?
人を指差して何んなの?」
オレの背中に鬼軍曹の言葉が突き刺さる。
振り向きたくねぇ。
鬼の顔、見たくない。
カイに直接抗議してくれません?
もう帰りたい。
なぜオレはオドオドしてる?
自分のクラスだろ。
とりあえず、無視無視。
オレは聞こえなかったふりして
須藤さんと会話を続ける。
「お友達、面白いね」
鬼軍曹に聞こえる。もっと小さい声!
須藤さんもカイのジェスチャーを
理解したようだ。
ってことは、鬼軍曹も同様だろう。
オレは須藤さんに、隣が鬼ババぁだから、
それに触れないでと指でジェスチャーする。
その仕草は鬼軍曹には見えないよう小さく
伝えたつもりだが。
「ちょっと!言いたいことがあるなら
直接言いなさいよ」
背中に散弾銃を浴びたような感覚だ。
頼むからオレに話し掛けないで!
そんな焦るオレを見て、須藤さんは笑いを
こらえるので必死だ。
今日の授業はずーっと須藤さんを見てようかな。
♪ガラガラ
先生が入って来ると教室が静寂に包まれる。
オレは、前を向き教壇の先生に一点集中。
隣からの鋭く尖った視線を感じる。
目が合ったら刺される。
気を抜いたら殺される。
白川さん、ハルキは今、最前線で戦ってます。
早くあなたに会いたい。
◇◇◇ 4時限目授業終了 ◇◇◇
ふぅ~、終わった終わった。
オレはノノンと共に廊下に出ると
手を振ってお互い別々の道へ。
ノノンは下駄箱へ向かい、
オレは隣であるC組の教室へと入り
カイの座席へ。
カイがオレの顔を見るなり
「どうした?楽しそうだな」
「まぁな」
おっと、笑みがこぼれてましたか。
そりゃそうだろう。
難攻不落な監獄から生還したのだから。
これは決して大げさな話しではない。
っていうか、学校退学したい。マジで!