(192) 2学期、長い初日でした
◇◇◇ 教室 ◇◇◇
お昼が終わり5時限目が始まろうとしてる。
「なんだよ。午後は選択科目か」
「今知ったの?」
午後の授業は科学からのスタート。
選択科目は、同学年で同じ選択をした者達が
クラスをまたいで集まる授業である。
座席は決まってなく毎回自由。
なので、あの地獄の座席から解放されたのである。
「やっと平和が訪れた」
「言ってる意味が分からないけど」
オレとノノンは、教室の中央に
横並びに陣取っていた。
「新しい座席が地獄だってこと」
「分かるかも」
共感してくれるか。
女子にも評判悪いんだな。
「オレの横の鬼軍曹。
なんとかしてくれ。視線が怖ぇんだ」
「へぇ、そんな人いるんだ。誰だろう?」
あれ?知ってて同意したのでは?
「私も隣の男子が質問責めしてくるから
ウザいなって」
ちょっと待った!
うちの娘に手を出そうとしてる輩がいるのか!
けしからん。お父さんは許しませんよ。
横を通り過ぎる女子に、ノノンが手を振る。
その女子もノノンへ手を振って返えす。
女子同士のこのような他愛もない挨拶っていいよな。
オレまでほっこりしてくる。
「知り合い?」
「1学期隣だった子」
ほう、同じクラスですか。
その子はノノンの真後ろに座る。
「ねぇねぇ、茂木さん」
「ん?」
ノノンは振り向きく。
茂木?ノノンの名か。
「2人って仲いいよね」
あぁ~、来ました。
オレとノノンが付き合ってないか
確認したいのね。ハイハイ。
「幼馴染だから」
「2人は付き合ってるの?」
はい、ビンゴ!
そこの女子、ニヤケるな。
オレとノノンの関係が気になりますか。
「付き合ってないよ」
はい、残念。
おっと!
その表情はまだ信じてないご様子。
「ハルキには彼女がいますから」
「バカ!余計なこと言わなくていい」
ノノンは危険だ。釘を刺しておかないと。
「そうなんだ。意外」
どっちの意味?
オレとノノンが付き合ってなかったのが意外?
それともオレに彼女が居たのが意外?
「堀北さんとも仲いいから
どちらかと付き合ってるのかなって」
そっうきたか。
もしかしてクラス内では、オレと堀北さんが
付き合ってる説が広まってるのか?
「期待に答えられず。もう分けない」
「茂木さんは彼氏しないの?」
どうなんだ?ノノンさん。
白状したまえ。
オレの居ないところで、イチャイチャしてたりするのか。
「居ないよ。須藤さんは?」
この子、須藤っていうんだ。
「居ない居ない。うちの学校って
カッコいい男子居ないよね」
言い切るな!
自分がモテないからって興味ない的な発言は
控えないさい。
あなたのためです。
♪ガラガラ
先生が入って来た。
教室は静寂につつまれ、我々も正面に向く。
授業はたんたんと進み、終了。
6限目も選択科目であり、ノノンと同じ教室だ。
というか選択科目は全てノノンと同じにしてある。
なのでノノンと教室が分かれることはない。
6限目も終わり、苦痛のホームルームが始まる。
自席に座る時のこと。
「あれ!後ろだったの?」
「今、気付いたんですか?」
「はい」
5限でノノンと会話した須藤さんが居る。
オレの真後ろだった。
世間って狭いなぁ。こんな偶然ある?
あるある。
「私、存在感薄いもんね」
「そんなことないですよ」
独房だと思われてたこの場所に光が舞い込んだ。
軍曹さえなんとかすれば2学期もいける。
「これから宜しくね」
「細倉!始まってるぞ」
しまった。オレは上半身を黒板へと向ける。
「あなたのために、みんな
待ってるんですけど!」
そんな言い方しなくていいじゃん。
鬼軍曹の目が怖い。謝りたくないわ。
一瞬、天国に来たかと思ったけど、
そこからバンジージャンプした気分だ。
ふとノノンの席に目が行く。
確かに隣の男がノノンに話し掛けてる。
ノノンも嫌なら鬼軍曹のように
言えばいいのに。
と思い軍曹をチラ見すると。
「なに!キモイ!」
最悪だ。
胃が痛い。ゲロでそう。
ホームルームが終わると休憩する間もなく、
ノノンがスタスタとオレの所に来る。
「帰ろう」
早く帰りたい雰囲気満載だ。同感です。
オレもさっさとこんな場所から離れたい。
オレ達は直ちに教室を出る。
下駄箱へ向かう廊下で
「帰りも車だよね?」
「もちろん」
描いていた学園生活が、2学期初日して
絶望へと変貌した。
本気で退学しようかと考えなら、
下駄箱で靴に履き替え、校門を出る。
とりあえず、白川さんに会いたい。
オレを癒してくれ!
◇◇◇ マンション ◇◇◇
自宅に着くと荷物を置いて着替えをし、
急いで8階へ。
「お帰り」
そうそう、その笑顔だよ。
女神がそこに居る。
「ただいま」
嫁だけだオレを癒してくれるのは。
お弁当箱を手渡す。
「美味しかったです」
「よかった。明日も作るね」
白川さんは両手を伸ばし前に出す。
要するにハグしてってことだ。
明日も頑張れそう。