(190) 退学しようかなぁ
◇◇◇ 教室 ◇◇◇
時刻は8時10分。
オレとノノンは一緒に校門を抜け、仲良く登校。
他の生徒からはカップルだと思われてるだろう。
ちょっと早く来過ぎたかな。
明日はもうちょっと遅くても良さそうだ。
下駄箱で上履きに履き替えて、廊下を歩く。
そして我が教室の入り口前へと到着。
3年B組の立て札を目にして懐かしさが
込み上げて来る。
オレは教室に足を踏み入れる。
ノノンもオレの後に続く。
教室を見渡して、ちょっと感動を覚える。
当たり前だが、クラスメイトが居て自分の席がある。
そして、その先に堀北さんがいる。
おぉ!
夏休み前は、ノノンは幽霊として、
オレは記憶喪失で登校していた。
何も変わってないハズなのに風景が違って見える。
ノノンは乃々佳として登校するのだから
もっと久しぶりなのだろう。
大丈夫なのか?
クラスメイトと仲良くできるのか?
心配だ。
「おはよう」
「おはよう」
ノノンはクラスメイト達と挨拶を交わす。
「あれ?茂木さん。
今までどうしてたの?」
乃々佳の苗字は茂木だったか。
新鮮。
そう言えば休んでた理由をクラスメイトに
伝えられてなかったけか。
「病気で休んでたんです」
コミニケションは心配無用のようだ。
クラスメイトと馴染めてる。
どちらかというとオレの方が心配。
「おはよう」
堀北さんに挨拶する。
オレから声を掛けるなんて出来なかったのにな。
成長したな。
「細倉くん、おはよう。
また学校が始まって憂鬱だよ」
そうなの?
オレは楽しみにしてたけど。
「分かる。
初日くらい半日にして欲しいよね」
「本当だよ」
このやり取りも懐かしい。
やはり堀北さんは話し易い。
ジムで会うとスターな感じだけど、
学校ではオレにかまってくれる優し女子って
感じがして全然雰囲気が違って見える。
また、この日常が戻って来た。
いつもならここにカイの奴がいるが、
流石に初日は来ないか。
「手首の方はどう?」
「凄く調子いいよ。見て?」
堀北さんはオレに手首を見せてグー、パー
を繰り返す。
一昨日もジムで同じことを聞いた。
同じ質問をしても嫌がらずに新鮮な対応で
返してくれるところが好きだ。
「もう痛みもないし、
手術の跡もほとんど残ってない。
ほら見て!」
良い子だなぁ。
「用事のない日は応援団全員で
手伝いに行きますから」
「応援団って細倉くん1人でしょ?」
クスクスと笑う堀北さん、笑顔がカワイイ。
白川さんとまた違った魅力を持っている。
アスリート選手としてはカリスマ性があり
1人の女性としても最高の人です。
ノノンをチラ見すると、仲良く周囲と会話してる。
問題ないな。
♪ガラガラ
先生が入って来た。
ホームルールの始まり。
直ぐに出欠の確認が始まる。
ノノンの名前を呼んだ時、今まで病気で欠席
してたこと。病気は完治し、これからは
毎日登校できることを先生の口から説明され
クラス全員から拍手を受ける。
よかったなノノン。
オレと違って仲間だと認識されてる。
そして。9時ジャストになると
校長先生による館内放送が始まった。
♪生徒の見なさん。おはようございます。
2学期が始まりました。
充実した夏休みが過ごせましたか?
眠くなる時間だ。必要か、この放送?
♪バレーボール女子は惜しくも2回戦敗退
長い。早く終わってくれ。
♪ここで大事なお話しがあります。
既にニュースとかでご存じの
生徒もいるかと思われますが、
3年C組の岩井友璃さんが
事件に巻き込まれ、お亡くなりになられました
え!岩井さんの事件についてだ。
オレをかばって亡くなったんだよ。
♪・・・ということで、
1分間の黙とうを致します。
では、黙とう
白川さんが学校に来てたらどんな気持ちに
なっただろうか。
そう言えば、自分の葬式にも来てたっけか。
どんな心境だったのだろう。
自分の祭壇を目の前にしてどんな感情に
なったか聞きたい、が聞けねぇな。
放送が終わると。
さっそく席替えをすることとなる。
え!聞いてないです。嫌です。
堀北さんと離れたくありません。
ね?
堀北さんが振り向き、オレと目が合う。
やはり同じ気持ちだったか。
「一番前には行きたくないよね?」
だよね。オレと同じじゃん。
違~~~う。
ヤダヤダ、堀北さんと離れたくない。
席替えの方法は、くじ引きで決定。
BOXから番号が書かれた紙を取るというもの。
黒板に数値が書かれた座席位置が描かれている。
番号の割当ては左先頭を1番として、
左から右へ、前から後ろへと番号がふられている。
要するに左前が開始で右後ろで終了。
取る順番は、黒板に記した番号順となった。
さぁ、席替えの位置決めが開始された。
ドキドキものである。
教壇に置かれたBOXから次々と紙が取られていく。
だれが、どこに移動するかは分からなまま。
全員取ったところで一斉に移動を開始する段取り。
堀北さんが立ち上がると同時に横並びの
オレも立ち上がる。
北堀さんの番となりBOXから紙を取る。
続けてオレも取る。
お願いします。
北堀さんの前後左右、どこかになりますように。
オレが取った番号は30番。
どこ?
黒板で座席位置を確認すると、
廊下側で後ろから2番目であった。
悪くない。
アニメとかドラマ見ると教室って
必ず左側が窓だよね。偶然か?
そんなことはどうでもいい。
堀北さんの位置を知りたい。
「30だった。堀北さんは?」
「私は20番」
どこ?
黒板を確認し絶望へ。
今、オレが座っている席である。
要するに、移動は右に1つズレるだけ。
えぇ、離れ離れになる。
堀北さんの左席を買収するか。
1億だせば譲ってくれるだろう。
全員の位置が決まり移動開始。
新しい座席位置に腰かけ、隣の女子に視線を移したら。
「えっ!なに?」
ゴミを見るかのようなイヤそうな顔で
『話し掛けないで』と遠回しで言われた。
告白未遂の時、しゃしゃり出て来た女が
オレの隣に来たのである。
最悪です。
神はオレに試練を与えたのか、
それとも罰なのか。
ちなみにこの女子、相沢という名前らしい。
初めて知ったわ。
ノノンは窓際の席。
その右斜め後ろが堀北さんだ。
2人近くていいなぁ。
「ちょっと見ないでくれる!?
気持ち悪い」
相沢の発言である。
だからそのイヤそうな顔、やめろ!
お前なんか見てねぇ。
アンタの後ろの堀北さんを見てるんだ。
オレの前は男子、後ろは女子、隣は相沢。
話し掛け易いのって隣か後ろだよな。
この席、独房だよ。
終わった。
オレの学園生活は終わったわ。
学校、退学しようかなぁ。