(019) ギャルに逆ナンされました
◇◇◇ フードコート ◇◇◇
フードコートで休息している。
やっと汗が引いて来た。
頭痛は嘘のようになくなってる。
吐き気は少し残ったままだ。
もう少し休憩したいところだが
隣の茶髪が気になる。
服装もマニュキュアも派手。
年齢はオレより年上か。
外見はバカっぽいのに資料片手に
ノートPCを使いこなしてる。
思わずカッケーという感想だ。
そのギャルなんだが、ちょいちょい
オレへの視線を感じる。
まずい。
キモオタ糞野郎だと警戒されてるかも。
そりゃ見ちゃうよ。
そんな格好してるキミが悪い。
♪ガシャーン
「ごめんなさい」
「あ、あ」
ギャルがノートPCの位置を少しズラして
オレ側に置いてたジュースを倒してしまった。
倒れた反動でジュースのフタが外れて
中身がばらまかれることに。
彼女のテーブルはびしょ濡れ。
しかも勢いでオレのソファーにまで
濡れ渡ってる。
とっさの判断でギャルに声を掛ける。
「PC持ち上げて!濡れてる」
ギャルは言われた通り、資料をキーボード
の上に乗せ、両手でPCを持ち上げる。
「そのまま待ってて!
拭くもの取って来きます」
オレは、近くにあった台拭きと
ペーパータオルを大量に取って戻る。
そして数枚ペーパータオルをギャルへ渡す。
「これでPC拭いて」
「ありがとうございます」
おや?
この子、見た目と違って礼儀正しい。
ノートPCの裏側はジュースでベトベトだ。
オレは残りのペーパータオルをソファーに
ばらまき、とりあえずジュースを吸収させることに。
その間、彼女のテーブルを台拭きで綺麗に
ふき取り、氷を集めゴミ箱へ。
最終的には、ソファーも綺麗になった。
ここで悲報のお知らせです。
この事件で自分のジュースも倒してしまった。
なけなしのお金で買ったのに。
オレが立ち上がった時に倒したので
自分の責任ではある。
トホホ。
「ごめんなさい。濡れましたよね?」
見れば分かるでしょう?
右腿がびっしょりです。
「大丈夫、大丈夫。
外出たらすぐ乾くんで」
「飲み物とクリーニング代、お支払いします」
彼女はバッグから派手な財布を取り出す。
「大したことないです。
お金とかいらないですから」
喉から手がでるほどお金が欲しいが
もらえんだろう。
しかし周囲の視線が痛い。チラ見されてる。
この場から離れたくてしかたない。
「ここで何してるの!?」
突然、スーツ姿の女性が我々に声を掛けて来た。
キャリアウーマンのOLって風格。
これでメガネ掛けてたら秘書って感じだ。
ところであなた誰?
「私は行かないって言ったでしょ」
「あなた今、大事な時期なのよ。
理解してます?」
OLとギャルがもめだした。
どうやら知り合いらしい。
なんだ。オレ関係ないじゃん。
「分かった上で行かないの」
「いっしょに謝りに行きましょ?
まだ間に合うから」
待て待て!
オレ、ギャル、OLの3人が
もめてるように見えてる。
オレ、関係ないんですけど。
この場から去っていい?
「初めから行かないって言いましたよね。
私は謝りになんか行かないわよ」
「とりあえず別の場所で話しましょう?」
あなた達、声がデカい!
OLは周囲から注目を浴びてることに
脱却しようとギャルの腕も掴んで、
この場から離れようとしてる。
関わりたくねぇ。
「ちょっと!」
「おばさん!嫌がってるじゃないですか」
やっべ!口走ってしまった。
嫌がってるギャルを見たら黙ってられないよ。
「あなたには関係ありません」
怖いよこのOL。そんなに睨むなよ。
「関係あります。私の彼氏です」
あのぉ、お姉さん?
無理がありますよ。
誰が見ても釣り合ってませんけど。
どちらかと言うと姉と弟ですよね。
とりあえず、オレがこの場を沈めないと。
「お互い熱くなってます。
この状況で別の場所で会話しても
何も変わらないと思いますよ。
DMで会話してみてはどうですか?」
ナイスアドバイスじゃね?
周囲はオレら3人に大注目だ。
声を大にしていいたい。オレは関係ありません。
「すみませんが割り込まないで頂けます?」
「これ以上続けると大騒ぎになりますよ」
既に大注目だけどね。
「明日は行くと約束してください」
「・・・」
「できますか?」
「分かりました」
OLはギャルの腕を解放し、
この場から無言で立ち去っていく。
オイオイ、残された者はどうすればいい?
気まずいんですが。
「ごめんなさい。割り込んで。
関係ないのに余計でしたね」
「いえ、重ね重ね助かりました。
ありがとうございます」
この子、見た目より大人だ。
しっかりしてる。
ギャルって実はみんなそうなの?
「私の事、ご存じですか?」
急にどうした?
「どこかで会ったことありましたっけ?」
「うんうん。今のは忘れてください」
意味深だ。もしかして詐欺?
あのOLもグルなのか?
周囲の視線が痛いです。
もう休憩はいいです。出っていいよね。
「座りませんか?」
フードコートで立ち話してたら
そりゃ目立ちますよ。
あなたただでさえ目立つんだから。
こぼしたジュースは綺麗に拭き取ったので
座っても問題はなし。
2人はソファに腰かける。
「お礼させてください」
正直、もう関わりたくない。
しかも怪しい。詐欺師ですよね?
「本当に気を使わなくて大丈夫です」
「せめてクリーニング代だけでも
受け取ってください」
彼女は財布からお金を取り出そうとするも
オレは待ったというポーズをする。
「あぁ、いいです。いいです。
いりません。急いでいるの帰ります」
「では別の日にお食事とかどうですか?」
これって逆ナンパってやつ?
オレが?Tシャツ短パンの汗だく小僧だぞ。
ギャルのバックに怖いお兄さんが居るとか。
「いやー、洋服持ってないし。
金欠でお金がないから遠慮しておきます」
そうだよ。正直に言えばあきらめるでしょう。
「お礼を兼ねて、私が全てお支払いします。
ダメですか?」
んー、悩むー。
女性から声を掛けられたのは初めてだ。
こんなチャンスは二度と訪れない。
冷静になれオレ。これが手口だって。
「ほんと大したことしてませんから。
気を使わなくていいです」
あーあ。言っちゃった。
「なら、Line交換しませんか?
DMなら問題ありませんよね。」
まじか!Lineの交換だけだならいいか。
やばい、ゆらぐ。
とりあえず、Lineの交換だけして
無視すればいい。
「Line交換なら、いいですよ」
「ありがとうございます」
オレは携帯を取り出し、彼女とLineの交換をした。
お金を振り込んでってDMはしないでよ。
Lineに登録してあるアカウントは母とカイの2人のみ。
これで3人目の登録となった。
出会って数分で一生縁がないであろうギャルと
Lineでつながる日が来るだなんてドラマのようだ。
都会ってスゲーなぁ。
そして、オレは用事があると嘘を伝え、
その場を立ち去ったのであった。
◇◇◇ 帰り道 ◇◇◇
♪ブル、ブル。
早速、ギャルからのメッセージが届く。
Line>>北篠 愛美梨と申します。
先ほどはいろいろと助けて頂き
ありがとうございました。
心の底から感謝しております。
地方出身で、東京に知り合いがいません。
お話相手になってくれると嬉しいです」
グイグイ来る感じだな。
これがギャルかぁ。
エミリちゃん。おしゃれな名前だよね。