(184) ミッション終了
◇◇◇ IEC本社 ◇◇◇
QGP22(量子発生機)の破壊工作は完了した。
多分。
物は鍵の掛かったラックに収められていたため、
確認が取れてない。
本当にQGP22が存在したかは不明だ。
なので成功とは言い切れない。
ただし、QGP22は特定の放射線を放出してる。
ペン型の計測器はそれを検出し、消えたのを確認できた。
99%成功と言っていいだろう。
オレはIEC本社1階のロビーを抜け、
外へと出る。
日差しが眩しい。
とても成功するとは思えなかった。
気分も晴れて気持ちがいい。
「ハルキ!」
オレの名を呼ぶ女性の声。
この声に聞き覚えがある。
その声の主は白川さんであった。
「来ちゃった」
どうしてここに白川さんが居るんだ?
「引っ越し終わったの?」
「部屋に段ボールを山積みにしたまま
出て来ちゃった」
なぜオレがこの場所に来てるのを知ってる?
場所は伝えてなかったはずだけど。
ボディーガードにでも聞いたか。
「そうか。
なら今から帰って一緒に続きをしよう。
手伝うよ」
白川さんは首を左右に振る。
「片付けは明日でいいよ」
それもそうか。時間はあるんだし。
すると白川さんはオレの顔をジーっと見つめる。
「どうしたの?」
「やっぱハルキの身体の方がいい」
そう言えば、西田の身体だった。
よくオレだって気付いたな。
歩き方とか仕草で分かったのか?
「ちょっとキミ達」
突然3人の警備員が現れ、
オレは2人がかりで左右の腕を掴まれ拘束。
「ちょっと。触らないで!」
白川さんは1人に捕まった。
「事務所まで来て頂きたい」
拘束する前に言えよ。
警備員の制服に見覚えがある。
3人ともIEC社の者だ。
まずい、捕まった。
不法進入したのがバレた。
オレだけなら死ねば闇に葬れるのに。
白川さんまで捕まったのはまずい。
どうしよう。
♪ドーン
突然、頭上で大きな爆発音が響く。
何事かと思った次の瞬間。
♪ドスン、ドスン、ドスン
音に続けてコンクリートの塊とガラスの破片
が大量に落ちて来たのである。
それは数秒で収まり、
周囲は粉じんで視界が悪くるなる。
見上げると、ビルの上部が大きく破損し
煙が出ているのが伺える。
どうやら爆発が起こったようだ。
「白川さん、怪我してない?」
隣に白川さんがいない。
イヤな予感がする。
足元を見ると、彼女が血まみれで倒れている姿が。
見覚えのある風景。
下半身がコンクリートの塊に押し潰されてる。
オレは血の気が引いた。
周囲を見渡すと瓦礫が散乱し血の海。
ここに立っているのはオレ1人だけ。
警備員3人、その他の歩行者含めて
周囲の者は全員倒れている。
>>18階の1812室で爆発が発生しました。
佐々木からの音声が入る。
そう言えば、こめかみのシールを剥がしてなかった。
1812室って。
オレが作業した部屋じゃん。
もしかして、QGP22が爆発したのか。
これはオレのせいなのか?
聞いてないぞ。前田、ふざけんな。
爆発の恐れがあるなら事前に伝えろよ!
くっそ、まただ。
岩井さんの時と同じ事が起こってしまった。
オレはしゃがみ、彼女の顔を見つめる。
「白川さん?」
声を投げかけても返事がない。
「白川さん!」
ごめん。
「会長」
彼女は明らかに死んでいる。
「会長」
「会長!?」
はっと!してオレは目を覚ます。
ここは車の後部座席。
どうやら夢だったようだ。
白川さんが死ぬ夢を見るなんて。
「会長、到着しました」
「早いね。ありがとう」
ミッション終了後、IEC本社から
前田が利用する発着室へ向かったのだ。
そして、そこに到着したところである。
ここにハルキの身体が保管してあり、
乗り換えるために来たのである。
ちなみに、オレが使ってる発着室と
前田が使ってる場所は異なる。
ただし、場所が異なるだけで
建屋は普通のマンションにしか見えず
部屋の中には棺が置かれ同じ作りとなっていた。
いつの間にか眠ってしまっていた。
心拍数が高い。流石に動揺した。
あぁ、夢でよかった。
疲れてるなオレは。
◇◇◇ 新居 ◇◇◇
時刻は13時。
ここは、引っ越し先のマンション。
白川さんとノノンは、段ボールの山を
1つ1つ開け、片付けてるところ。
「お腹すいたよ」
「お昼にしようか」
ノノンが言い出し、白川さんも同意する。
引っ越し中なので買い出しに行かないと
食材がない。
そこでノノンが提案する。
「下にさ、イタリアンのお店あるでしょ?
美味しいかなぁ?」
「行ってみようよ」
「前回来た時に、気になってたんだよね。
私、ピザ好きだし」
「私も。窯焼きだったらいいなぁ」
窯焼と言われ、ノノンの頭上に?マークが浮かぶ。
「窯焼きってなに?」
「オーブンじゃなくて、石で囲んだ中で
焼くピザのことだよ。見た事ない?
外はパリパリ、中はもっちりしてて美味しいの」
「窯焼き食べたい。
行こう行こう」
こちらはハルキと違って、
平和で穏やかな時間が流れてるのであった。