(181) 最後の晩餐
◇◇◇ 白川宅 ◇◇◇
時刻は17時。
「他に手伝う事ある?」
「大丈夫。ありがとう。
これ仕舞ったら私も終わり。
先、休んでて!」
引っ越しの準備が完了した。
白川さんの分だけだけど。
オレのは車に積んだままだ。
ノノンも引っ越しの準備をするとのことで
お昼を一緒に食べた後、女子寮へと戻った。
夜は、寮の友達が引っ越し祝いを
開いてくれるらしい。
意外とコミュ力あるんだな。
オレが無さすぎるのだけれど。
なので、今日は寮に泊まるとのこと。
ムフフ。
朝まで白川さんと2人っきり。
「夕飯、どうする?」
食器、調味料、フライパン類、
全て段ボールに詰めてしまった。
部屋で食べるのは無理だな。
「食べ行こうよ!
連れっててあげたい所あるんだ。
オレの思い出の店なんだけど」
昨日のTVスタジオで出会った
ココのことを思い出した。
彼女がバイトしてた中華屋に行きたくなった。
そう言えば3週間前にノノンと行ったなぁ。
「洋服しまっちゃた」
「そのままで問題なし。
10人くらいしか入れない
小さな中華屋なんで」
「中華屋さんが思い出の店!?
興味があります。行ってみたい」
ということで中華屋に決定した。
そうと決まれば急いで出かけたのである。
◇◇◇ 車中 ◇◇◇
オレと白川さんが車で移動中でのこと。
「明日なんだけどさぁ。
用事があって引っ越しの手伝いが
できないんだ。
ノノンと2人で大丈夫だよね?
もし、荷物を運ぶのが大変だったり
分からないことがあったら
ボディガードに相談して。
オレは夕方までには合流できると思う。
多分」
「それってハルキと連絡が取れない
ってこと?」
「そう」
「用事って何?」
企業に潜入して、破壊工作するなんて言えねぇ。
それがニュースにでもなったら心配するだろうし。
「発着室のメンテがあって立ち会い
が必要なんだ。
打合せ等もあるから電話に出れない
可能性が高いってこと」
おぉ!
相変わらすオレの適当にはキレがある。
「嘘ね。明日、何するの?
危ないことじゃないよね?」
そうだった。
白川さんだけは、なぜかオレの嘘が通じない。
なぜバレる?口調か?表情?
「えーっと」
「ほら危険な事するんじゃん」
待って!まだ何も言ってません。
「危険な仕事じゃないよ。安心して!」
うわぁ、仕事って言っちゃった。
動揺し過ぎだろう、オレ。
「もうそういうの止めて!
お願いします」
止められるなら止めたいよ。
白川さんに笑顔はない。
ダメだ。白川さんには嘘が通じない。
「中止はできない。
ハルキが消えるような事は
絶対にしないから」
「それって別の身体を使うからでしょ?」
あなた察しが良すぎる。
それとも誘導尋問でばらしてるのか。
「ますます怪しい。
不安しかないんですけど。何をするの?」
えーっと、オレの適当が通じない。
心配させたくないから本当の事は言いたく無い。
どうすればいい?
後部座席で横並びに座る2人。
無言の時間が流れる。
白川さんはオレの方へ身を寄せ
抱き着き顔をうずめる。
「帰って来る?」
「もちろん」
彼女の口調が弱々しい。
オレは優しく頭をなでる。
「居なくならない?」
「あぁ!白川さん残して消えてたまるか」
愛されてるなぁ、オレ。
なんだろうこの感覚。
彼女を守りたい。泣かせたくない。
不安にさせたくない。1人にさせたくない。
いろいろな感情が胸を締め付ける。
「本当に?」
「知ってるだろ?オレは不死身だって。
あともう一つ。
オレが白川さんと離れたくないんだ。
必ず、帰って来るから」
オレはこの世界では死なない。
仕事でハルキの身体を使わなければ、
ハルキが死ぬことはない。
だから安心して。
「分かりました」
オレが明日、何をするか
それ以上聞いて来なかった。
恐らく問いただしても
話さないと悟ったのだろう。
明日のミッション、やる気なかったけど。
今の会話でスゲェ燃えてきたわ。
さっさと午前中に終わらせて帰って来よう。
あれ!フラグか?
まさか研究室に強制送還されて、
二度とガイヤ(地球)に戻れなくなる
なんて事ないよな。
そう言うパターンもあるのか。
不死身だからと安心できない。
白川さんは店につくまで
オレにしがみ付いたままでいた。
失敗した。
まさか、こんな深刻になるとは想定外。
言い方を間違えた。
心にシコリを残したまま、お店に到着。
幸いにもお客は1人も客が居ない。
そこで食事をしながら、
オレは必至でなぜ思い出の店なのか、
面白おかしく経緯を話したのである。
ココの事は伏せたけど。
岩井さんは笑顔で居てくれてたけど
心から笑っていたかは分からない。
オレ的には楽しい食事であった。
これが最後の晩餐にならなきゃいいけど。