(180) 久しぶりのジム見学②
◇◇◇ ジム ◇◇◇
堀北さんがトップホールドを握り
難なく課題をクリア、下へと降りて来る。
どうやら休憩に入る模様。
「お疲れぇ!」
オレはタオルを渡す。
「ありがとう」
「手首の調子、良さそうだね?」
「ほら見て?」
堀北さんはオレに手の平を見せ
何度もグーパーを繰り返す。
そんな見せられても怪我の時と違いが分かりません。
まぁ、笑顔だから全てOK。
「痛みは全くないよ。
1年痛みに耐えてたのが嘘みたい。
しかも治るだなんて夢のよう」
「神様はちゃんと見てます。
諦めなければ奇跡を起こしてくれるんですよ。
堀北さんはそれを証明したんです」
「私の場合は運が良かっただけ」
「いや、運だけは説明がつかないよ」
2人の新人ちゃんがジャージ姿で現れる。
着替えが終わって戻って来たのだ。
「あら着替えたの?」
「体験してみたいって。1時間だけだけど」
「お姉さんが教えてあげる。楽しいから」
「キミたち付いてる。
世界トップクラスの選手から
直接教えてもらえるなんて
なかなかないぞ!」
「だからそれ止めてよ。恥ずかしいです」
「本当のことですから」
後輩の2人は本当にお願いしていいものか
戸惑っている様子。
分かる。分かるぞ。
堀北さんは2つ上の先輩だ。
しかもトレーニング中である。
「トレーニングを邪魔させてるとか。
先輩だからとか気にしなくていいから」
堀北さんを差し置いて、
オレが勝手に言ってしまった。
「ちょうど休憩タイムだから安心して。
私でいいなら基本を教えます」
「お願いします」
オレが後輩の代わりに頭を下げる。
「お願いします」
するとオレの言葉に触発されて
後輩2人もお願いする。
「名前は?聞いてなかったね」
堀北さんが2人に尋ねる。
「工藤 和泉です」
「平本 結愛です」
「イズミちゃんとリアちゃんね。
OK覚えました。
では先生!お願いします」
空気読めないなオレは。
ここは割り込んじゃダメでしょ。
「もう」
『先生は止めてよ』って顔された。
直視するとカワイイんですけど。
「あっちの隅に移動しましょう」
◇◇◇
時刻は12時。
腹減ったぁ。
堀北さんはお昼休憩に入る。
どうやらお弁当を持参してる。
お母さんのお弁当だよね。
いいなぁ、また食べたいなぁ。
1年の後輩ちゃんは午前で終わりだという。
2人の新人は着替え終わって待機。
これから3人でカラオケに行くんだってさ。
オジサンも混ぜてよ。
何でも買ってあげるからさぁ。
♪ツツチチツツ、ツツチチツツ
Line電話、白川さんから。
「どこに居るの?」
「まだジムだよ。メモ置いといたけど」
「見たよ。いつまでジムに居るの?
今からお昼作りますけど」
オレに帰って来て欲しいなら
素直にそう言えばいいのに。
クー、なんかいい。こういうのいいわ。
腹減った。白川さんのご飯が食べたい。
「食べます。飛んで帰ります。
30分で着くと思う」
「はーい。待ってるね」
電話を切る。
カワイイ声だなぁ。
帰りはPMCの車で送ってもらおう。
オレは堀北さんの所へ行き挨拶する。
ついでに帰ることも伝える。
「そろそろ帰ります。次は学校だね」
「夏休みももう終わりかぁ」
明後日には2学期が始まる。
夏休みでかなり堀北さんとは距離が縮まった
ような気がする。
学校が楽しみになってきた。
◇◇◇ マンション ◇◇◇
白川さんのマンションに到着。
夕方に戻って来るつもりだったのに。
引っ越しの邪魔にならないといいが。
「お帰り」
ドアを開けるとエプロン姿の彼女が居る。
どうやら玄関で待ってたようだ。
一つ一つの行動が可愛すぎる。
最高なんですけど。
ノノンが居なかったら強く抱きしめるところなのに。
リビングに入ると。
「お帰り。凛心ちゃん来てた?」
堀北さんがジムに来てたか聞いてる?
「ジムに来たよ。怪我はもう大丈夫そう。
動きを見たけど、リハビリ中にも関わらず
手術前よりパワーアップした感がある。
全国大会が楽しみになって来た。
それより、
引っ越しの準備しなくていいのか?」
「お昼食べたら寮に戻るつもり」
おぉ!午後に出て行くのね。
チャンス。
白川さんと2人きりになれるチャンス。
引っ越しの手伝いして早く終わらせよう。
お昼ご飯が出来たようだ。
白川さんがフライパンをそのままテーブルに置く。
焼そばですか。
オレは取り皿に山盛りに焼きそばを乗せ
口に頬張る。
「美味しい。白川さん天才」
「ほんと美味しい」
ノノンも同感したようだ。
「凄く簡単なんだよ。
一緒に作れば良かったね」
「今度教えて」
ゲームしてねぇで手伝えよ。
「プリンも作ってあるから
お腹調整して食べてね」
「プリンって作れるの?凄ぉ~い」
「じゃぁ、プリンも今度一緒に作ろう」
いい、この雰囲気いい。
ここ(地球)好きだわ。
オレ、仕事に復帰できるのだろうか。