(018) ノノンとの思い出①
はぁ、はぁ、はぁ。
やはり朝のラニングはいい。
全てを忘れさせてくれる。
その後のシャワーも好きだ。
体中のベトベトが流されるのがたまらん。
そして、いつものルーティーンに入る。
いつもの時間にカイが迎えに来て。
いつもの時間に通学路を歩く。
いつもの時間に学校の校門をくぐり。
いつもの時間に教室へと足を踏み入れる。
◇◇◇ 教室 ◇◇◇
「おはようございます」
「細倉くん、おはよう」
おっと、今日のオレはどうかしてる。
勢いで挨拶してしまった。
返事してくれたのは嬉しい。
「何かいい事でもありました?」
やばい、笑みがこぼれてたか。
「特にないけど、そう見えます?」
落ち着け、落ち着くんだ。
「ご機嫌ですよね」
「今朝ランニングして、一汗かいたからかも」
「分かるぅ~」
おぉ、堀北さんに共感された。
「堀北さんも朝、トレーニングしてますもんね」
女子との会話は楽しい。
いや、堀北さんだからだ。
挨拶して良かった。
更に距離が縮まってる。
なぜ、こんな簡単な事が今まで出来なかったのだ。
不思議だ。
とにかくだ。
クラス内では、堀北さんへのエロ容疑が
晴れてない。
オレを監視する怖い女子も健在。
ここは堀北さんとの仲良しをクラスメイトに
アピールとかかねば。
「堀北さん、おはよう」
「岳中くん、おはよう」
来るなよ、カイ!
堀北さんといい感じだったのに。
自分のクラスへ戻ってくれないか。
「どう?あれから幽霊さん、見えてます?」
「どうなんだね? ハルくん!
正直に答えたまえ。」
カイの奴、偉そうに。
「実は言うタイミングがなかったんだけど。
昨日、職員室に行った時には消えてました。
金沢さんに感謝です」
「嘘!そうなの?」
驚くのも無理はない。
オレも信じてなかったんだから。
「今朝も現れてません。
すごいですね、あの煙。効果あるよ」
「それ聞いたら楓喜ぶよ。」
「オレが金沢さんに報告しとくよ!」
「やめておけ。お前と知り合いだなんて
思われたくないだろうよ。」
「それはハルの妄想だろう。」
「カイは初めから霊を信じてなかっただろ?」
「バカ言っちゃ困るよ。信じてたさ。
だから部室にも行ったんだろう?」
堀北さんは、オレとカイの会話を
聞いてクスクスと笑う。
いいぞ。いい感じだ。
周囲のクラスメイトはオレらをチラ見してる。
堀北さんとの仲良しアピール成功。
あれ?出しゃばり女がオレをにらんでる。
もしかしてオレらがうるさいってこと?
「お昼に報告すれば、いいんじゃねぇの?」
「それなんですけど。
今日は、午前授業だから私も楓も
お昼食べないで帰宅しちゃうの」
どうやらあの部は名前だけであって
活動はないとのこと。
お昼を食べるだけに部室を使っているのだそうだ。
「えー、部活楽しみにだったのに」
「お前、サッカー部だろう。
関係ねぇじゃん」
「あとでその話し、楓にLineしとく」
「お願いします」
「オレがLineしときます。
アカウント教えてください」
「堀北さん!
こいつ冗談だから。真に受けないで」
「オレはいつだって本気だ」
♪ガラガラガラ
先生が入って来た。
朝のホームルールが始まる。
カイは、自分のクラスへと戻るのであった。
土曜は堀北さんと授業が重なることはない。
結果、帰りの挨拶を一言交わして帰宅することに。
◇◇◇ 住宅街 ◇◇◇
帰りは寂しく1人。いつもの事である。
悪い気分ではない。むしろ1人の方が気が楽。
相手がいると話題を合わせるのが大変だから。
金欠でどこか立ち寄ることもできないし。
だから1人は居心地がいい。
◇◇◇ 寮の自室 ◇◇◇
自分の部屋へと戻って来た訳だが暇だ。
特に土日は、やることがない。
しばらくベッドで横になりポーッとするも
暇すぎて死にそうになる。
こんな時にノノンが居てくれたら。
いかん。彼女の事は忘れないと。
成仏して天国へ行ったんだから。
オレは気晴らしに散歩することにした。
◇◇◇ 公園 ◇◇◇
散歩するのは嫌いではない。
金無いオレには最適なレジャーである。
雲一つない炎天下をあてもなく歩き続けている。
『心地よい』と言いたいところだが
暑くて死にそう。
ふと堀北さんが隣に居るのを想像する。
散歩してその後どうする?
カフェでお茶とかできないぞ。
大体、堀北さんは常にトレーニングだから
一緒にどこか行くなんてありえない。
この妄想自体が破綻してる。
彼女になっても一緒に居る時間はない。
オレは何のために告白しようとしたんだ?
ノノンとのゲームは楽しかった。
堀北さんは一緒にゲームで遊んでくれるだろうか。
ゲーム好きには見えない。
ノノンが消えるなら、部室でお別れを言っておけばよかった。
いかん、いかん。
気を抜くとノノンの事を思い出してしまう。
・・・
やばい。
気付いたら尋常でない汗をかいてる。
Tシャツがびっしょ濡れだ。
絞れるんじゃないか。喉も乾いた。
よくよく考えたら昼も食べずに2時間も
歩き続けてたわ。
あれ?
気持ち悪くなって来た。
頭痛もする。
熱中症か?これ。
メッチャメッチャ頭痛い。
やべぇ、立ってられない。
目の前に在ったベンチに倒れ込む。
◇◇◇ 不気味な部屋 ◇◇◇
ここは棺が7つ置いてある部屋。
ブラインドからこぼれる日差しによって
室内が照らされている。
住民のいないその部屋で、
誰かに訴え掛けるかのように、
『【エラー】通信異常発生。』のアラート
がモニタに出力されている。
◇◇◇ 大学病院の病棟 ◇◇◇
一方その頃、最上階のVIP部屋では
看護婦が定時回りに来ていていたところ。
健康状態のチェックを終え、話し掛けながら
マッサージをしている様子が伺える。
「白雪姫さん?聞こえてますか?
王子が居なとダメかな。」
患者は10代女子。
身体は至って健康なのに眠りから覚めない
という病状。
不思議なことに少女の個人情報は伏せられてる。
看護婦でさえ、名前すら分からない状況。
なので、その患者のことを白雪姫と
呼んでいたのであった。
「腕を揉んでますよ。分かりますか?」
指が微かに動いた。
病室に担ぎ込まれてから1週間以上も
反応を示さなかったのに。
看護婦はそれを見逃さなかった。
患者の手を握ってみる。
「白雪姫さん?」
なんと握り返して来たではないか。
顔を確認するも表情に変化はない。
「星屋医師。901号室の患者が…」
反応したのは、その2回だけ。
以降は反応を示すことはなかった。
◇◇◇ フードコート ◇◇◇
気持ちいい。
天国とはここのことだ。
オレはホテルへと駆け込み、
フードコートのあるエリアに
たどり着く。
頭痛発生した後、5分ほどベンチで
休んでいたら歩けるほどまで回復。
急いで涼しいところを求め
ここに来たという訳だ。
人、人、人であふれてる。
もう15時だというのに、
フードコートはまだ人でにぎわってる。
ここに居る連中は、オレと同じように
暑いからここへ逃げて来たのだろうか。
なけなしの金でジュースを購入。
テーブルに何もないのは、後ろめたいからね。
空いてる席を探すも、ほぼ満席状態。
うろうろする事3分。
ちょうど、カップルが席を離れる
ところに遭遇。
入れ替わるようにして、オレは2人席の
ソファをキープすることに成功した。
ラッキー、クッキー、ミッキーだ。
ソファに腰かけて改めて気付く。
汗だくで気持ち悪いことに。
自分ではわからないが、
きっとオレの体臭はきついハズ。
左側は通路だから安心だけど、
右サイドはちょっと。
茶髪のギャルがいるんですよ。
資料を広げ、ノートPCを操作してる。
どうやら彼氏や友人はいないらしい。
1人のようだ。
ギャルとノートPC。ん~ん、アンマッチ。
オレは、適当に取った旅行パンフレットを
うちわ替わりに仰ぐ。
仰いで、仰いで仰ぎまくる。
神よ。体臭がギャルへ届きませんように。




