(179) 久しぶりのジム見学①
◇◇◇ ジム ◇◇◇
ここでバイトしてたのが遥か昔のようだ。
見る物すべてに懐かしさを感じる。
次々とバイトくんが現れ、作業を交替する。
ついには、やることが無くなってしまった。
話し相手がいないと気まずい。
お前は何しに来た?って感じだ。
せめて、バイトくん達の邪魔にならないよう
隅でジーっとしてよう。
待つこと30分。
後輩の女子3人が固まって入店してきた。
知ってる子は1人。
その子は唯一同じ高校の1年生だ。
「細倉先輩、おはようございます」
「おぉ!」
先輩だって、感動です。
しかし、しっかりしてる子だなぁ。
対してオレの返事はなんだ。
今の受け答えは酷すぎる。
もう一度、やり直したい。
「こちらは見学に来た友達です。
2人とも始めてなんです」
通りで見覚えのない顔だ。
2人は無言でお辞儀をする。
「こちらは同じ学校で3年生の細倉先輩です」
先輩だって。何度聞いてもいい。ふふ。
高校男子が憧れる1つだ。
それが叶った。
「なら同じ高校なんだ?」
「はい。3人とも同じクラスなんです」
ハキハキして良い子だよな。
このジムでオレをドブネズミのように見ない1人。
「2人はボルダリングに興味があるんだ?」
「いえ、リコ先輩を見に来たんです。
リコ先輩の試合見せたらファンになっちゃって」
分かるぅ。オレもその1人です。
堀北さんを好きな人に悪い人はいない。
3人共、気に入った。
「堀北さん、カッコいいよね。
オレも試合見てすっかりファンだよ」
「クラスメイトなのに?」
「本当だ。しかも隣の席なんだよ。
実は凄い選手だって最近知ったんだ」
そう言えば、この子の名前知らないわ。
入り口の扉が開く。誰かが来た。
注目すると別の後輩が入って来た。
堀北さんではい。
「こんにちわ」
全員での挨拶祭り。
オレらを見て立ち止まることなく
通り抜けて行く。
「練習に来たんでしょ?
着替えて来なよ。
その間、お友達にジムを案内しとくから」
「いいですか?
ありがとうございます」
そう言って彼女は荷物を持って更衣室へと向かう。
「どう?回り見ると面白いでしょ?」
・・・
反応がない。2人とも無言。
おーい!
オレが先輩だから緊張してるとか。
その後、一通りジムの案内を開始する。
彼女らとの会話は一切ないく、
オレが一方的にしゃべる。
特に嫌がる様子もなく、オレの説明を聴き、
後を付いて来てくる。
なので2人ともシャイということにしとく。
案内は堀北さんが来るまでの暇つぶしだ。
そう自分に言い聞かせるのであった。
「あら珍しい」
スターの登場だ。
あなたをずーっと待ってたよ。堀北さん。
「忘れ去られると思って
顔見せに来ました」
クスクスと笑う堀北さん。
あなただけです。
オレの相手をしてくれるのは。
まじエンジェル。
堀北さんは、新人の2人が気になるようだ。
「こちらは同じ学校の1年生。
見学に来たそうです。
堀北さんの試合を見てボルダリングに
興味が出たんだって」
「それは嬉しい」
オレは2人に説明する。
「こちらの堀北さんは、これから日の丸を
背負って世界に羽ばたく人だから」
「ちょっと、やめてよ」
実力があって、カリスマ性もある。
こんな子を埋もれさせてたまるか。
オレが世界に羽ばたかしてやる。
「リコ先輩。おはようございます」
おぉ、やっと戻って来たか。
着替えに行ってた後輩ちゃんが戻って来たのだ。
後輩ちゃんもなかなか良い身体してるなぁ。
その後は堀北さんも着替え、
戻ると直ぐに練習に入る。
堀北さんと後輩ちゃんは
決めたルートを交互に攻めることに。
堀北さんは、まだリハビリ中。
全力は出せないのに、後輩ちゃんとの実力差は
素人でも分かる。圧倒的だ。
ちょいちょい堀北さんは後輩ちゃんにアドバイスする
光景が飛び込む。
それを見て、大会の時の事を思い出す。
他校の女子が堀北さんのところに
集まってたっけか。
憧れてる人から指導されるって、
どんな気持ちなのだろう。
本来なら同じ大会に出場するだろうから
ライバル同士となる。
幸せそうな後輩ちゃんを見てると、
堀北さんは雲の上の存在で、
ライバルなんて微塵も考えた事がないのだろうな。
最高の環境じゃん。
いいなぁ。青春してる。
お友達の2人は、彼女らに見入ってる。
ここでオレの出番だ。
余計なお世話だが、堀北さんの何が凄いかを
必死で解説することにした。
怪我をする前は無敗だったこと。
去年全国1位だった選手がテレビで
ライバル発言したこと。
堀北さんのボルダリングは誰にもマネが
できないこと。
などなど。
今のオレなら堀北選手を熱く語れる。
彼女らも信者にしたい。
そんな思いがオレを突き進める。
「見てても退屈でしょ。
ボルダリング体験してみない?
体験は1時間だけだけど無料だから」
オレはオーナーか。
「レンタルウェアとシューズの無料チケットが
余ってるからプレゼントするよ。
お金かからないから、やってみたら?」
体験は本当だが。他の無料チケットは嘘である。
そんなもの持ってない。
自腹で購入するつもりでいる。
堀北さんを見て身体が熱くなってるはず。
ここは、信者を増やすチャンス。
ジムに通ってもらえたらジムのためにもなる。
結果は体験を受けることにした。
半分はオレが強引にやらせたようなものだけど。
お友達が着替えにいってる間。
オレは、堀北さんが登ってるところを眺める。
「変態野郎!」
いつの間にか宿敵の2年生コンビが入店してて、
オレの背後で一言いい放って通り抜けて行く。
オイ!先輩に向かって、その言い方はないだろう。
パンツが見えないかチェックしてたんだ。