(176) ハルキ、プレイボーイ説
◇◇◇ テレビ局 ◇◇◇
ここはテレビ局のスタジオ。
アイミーのミニライブを観覧しに参ったところ。
白川さんとノノンは参加者であり、
オレは製作関係者として2人を連れて来た立場。
肩書はアーツファクトリ所属マネージャである。
岩井さんのマネージメントは残念なら終了。
だが写真集の発売や雑務がまだ残っている。
なので契約解除はまだしてなく、所属のまま。
まぁ、アーツの社長はオレという金釣るが
抜けられたら困るだろう。
第二スタジオを目指し、制作局のフロアを
歩いていると珍しい女性に出くわした。
「これは田中さん。お久しぶりね」
「ご無沙汰です。社長。
その節はお世話になりました」
かつてオレが再建した芸能事務所を横から
奪い取ろうとした大手芸能事務所の大盛社長だ。
今は和解して意気投合となってるハズ。
「業界に復帰されたのですか?」
「いえ、今日はたまたまです。
テレビ局に用事がありまして」
社長の見た目は30代女性のやり手
キャリアウーマンって感じだ。
実際、やり手なんだが。
ノノンはこのおばさん誰?って顔してる。
白川さんは誤解してないでくれよ。
惚れてるのは、あなただけだから。
「そろそろ、どうです?
また御一緒に仕事しませんか?」
嫌な予感がする。前田と同じ匂いだ。
「面白そうな案件でもあります?」
「もちろんですわ」
興味ありません。
「そうですか。しばらく多忙ですので、
また今度声を掛けてください」
「あら残念」
社交辞令です。
二度と声を掛けないでください。
「このあとの御予定は?
お食事でも如何?」
白川さんの前でそんな話するな!
オレとあんたの仲を誤解するだろう。
「このあと収録がありますので。
すみません」
「どんなに遅くなっても構いませんよ」
おい!言い方。
白川さんの顔を見るのが怖い。
「すみません。明日も早いですので」
「では、また今度」
ささやくような口調で言うな!
いつもデートしてる雰囲気じゃんか。
社長がオレの後ろにいる2人に注目する。
「こちらの可愛らしい子はタレントさん?」
しまった。社長に目を付けられたか。
「一般人です。
これからライブ放送がありまして
観覧要員として連れて来ました」
「あら!あなたも隅におけないわね」
大盛さん?その目やめて!
まさかテレビ局の見学を餌に
ナンパしたとでも言いたいのか。
「誤解されてませんか?
知り合いの子供です」
「そうでしたか。
田中さんの知り合いなら安心できます」
社長は財布から名刺を2枚取り出し、
彼女達に差し出す。
「初めまして。芸能プロダクション
神楽芸能の者です。
もし、芸能界に興味がありましたら
うちに相談してちょうだい。
田中さんの知り合いなら大歓迎です。
俳優、モデル、声優、歌手
と幅広くやってますから」
しまった。一般人と言ったのは失敗だ。
まぁ名刺くらいならいいか。
やる、やらないは本人次第だし。
オレに止める権利はない。
「では急いでますので」
「たまには、うちの事務所に
顔を出しにいらしてくださいね」
そう言って、大盛社長は去って行く。
あの人も変わってないな。
「あのおばさんと、どいう関係ですか?」
ノノン誤解だって。
白川さんの目が怖い。誤解されてます?
「名刺には社長ってなってるけど」
「前に一緒に仕事しただけだよ」
「そんな関係に見えませんでしたけど」
仕事以上の何かを感じました」
ノノン!
オレの味方じゃないのかよ。
「オレの手腕を過剰評価してるだけ。
プライベートは何もない」
「本当かなぁ?」
だから、やめろ!
オレは白川さんの両肩に手を置き、目を合わせる。
「本当です。
大盛社長とは何もありません」
白川さんがオレの口を塞いだ。
「分かりましたから、もういいです。
場所をわきまえてください」
顔を真っ赤にされると、オレまで恥ずかしくなる。
「田中さん?ですよね」
別の女性がオレの名を呼ぶ。
今度はだれ?
3人が声の主に目線を動かすと
20代前半の可愛らしい人がそこに立っていた。
オレはその人を知っている。
宇宙一美味しいと思ってる中華屋で
バイトしてた子だ。
「ココさん、お久しぶり。
元気してましたか」
懐かしい。
現在はスタイリストの職についている。
「おかげ様で独立できました」
あぁ、知ってるとも。
ずっと気に掛けてたんだから。
「そうでしたか。
それはおめでとうございます」
ノノンさん?そんな目で見るな!
この子も関係はありません。
今日はタイミングが悪すぎる。
「すみません。
急いでますので、話はまた今度伺います」
オレは軽くお辞儀をして、その場を離れる。
会話を続けたら疑惑が深まるばかりだ。
「やらしい」
ノノン、余計なこと言うな!
「ノノンの知らないところで
沢山の女の子と仲良くなってたんだ?」
バカな事、言うな!
弁明しないと。
「今の子は、・・・」
「お仕事でご一緒されてた人でしょ?
説明しなくても大丈夫ですから」
白川さん、本当に信じてます?
チャラ男だと思ってません?
そして3人はスタジオへと入ると。
♪だから~、わたし~。
別アーティストのリハ中だった。
歌ってる人に注目すると
こちらもオレの知る人物である。
アジアで有名なアーティスト、ユイ。
まだ歌ってたんだな。
今日は懐かしい人に会いまくりだ。
「は~い。OK」
ADによる終了の合図。
次はオレらのリハか。
「このスタジオ広いね」
「本当のコンサート会場見たい」
そう言えば、岩井さんの時は
歌の収録はなかったか。
「あら?」
気付いたらユイがオレの目の前に居る。
頼む、今日は無視してくれ!
「寂しくて私に会いに来た訳?」
そういう意味深な発言やめろ。
どうなってるんだ。
久しぶりに再会したかと思えば
オレを陥れるような発言しやがて。
早く白川さんに説明しないと。
「こちらはアーティストのユイさん」
「知ってます」
そりゃそうか。
国民的有名人だもな。
「カワイイ子ね」
ノノン、アホか!
「こちらは大スター様だぞ。
口をわきまえなさい」
ノノンめ。後でお仕置きだ。
テレビ局なんかに連れて来なきゃよかった。
「田中さんはユイさんとも
お知り合いなんですか?」
ほら、白川さんが動揺してるじゃん。
「元カノです」
あのぉ、ユイさん?
笑顔で言わないで!
この子らにギャグは通じませんから。
「ニュースになりますから
そういう発言は止めてください」
テヘペロじゃねぇ。
笑って誤魔化すな。
「ユイさんの事務所を立て直しただけです」
「その節はどうも。
こうして歌手活動できてるのは
田中様のおかげです」
「心にも無いこと言うな」
次があるからとユイはスタジオを去って行いく。
人騒がせなやつめ。
もうやだ。
2人をスタッフに渡してさっさと帰ろう。
これ以上、誰とも会いたくない。