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(170) さらば寮生活

◇◇◇ 学校の寮 ◇◇◇

時刻は朝10時。


白川さん宅に泊まり、一夜明けて。

一週間ぶりの寮。

久しぶりに自分の部屋へと戻って来た。

何だが懐かしい。

寮に住んでたのが遥か昔ような錯覚に陥る。


夏休み中、寮で寝泊りしたのは数える

ほどしかない。

何もない、この部屋が意外とお気に入りだった。

残念だけど、白川さんとの時間を大事に

したいから寮を出て行くことにする。


大きなバッグを2つ持って来た。

物がないので2つのバッグで収る量だ。

荷造りはなんと30分ほどで終了。


歯ブラシ等の細かい物は処分するので、

捨てる物は全てビニール袋へと放り込む。


目覚まし時計を手にして、ノノンとの朝の

やりとりを思い出す。

あれも懐かしい思い出だ。


時計は次の住人が使うだろうから

そのまま置いていくことにした。


もう、寮に戻って来ることはないだろう。

目に焼き付けるようにして

部屋を隅々まで眺めてから廊下へと出る。

廊下も同様、2度と来ないだろうから

噛み締めるようにして周囲を目に焼き付けて

1階へと降りる。


そして、共用のゴミ捨て場へ行き

ゴミを捨てた時のこと。

背後からオレを呼ぶ声が。


「ハル!いつ戻って来たんだ?」


振り向くと声の主はカイであった。

偶然、ゴミ捨て場に入る所を見られたようだ。


「さっきだよ」


お前ともお別れだな。

ウザい奴だったけど、思い返すと楽しかった。


「その荷物はなんだ!夜逃げか?」

「あぁその通り。寮を出ることにした。

 顔を変え、指紋を変えて海外に逃亡するよ。

 カイとはここで永遠のお別れだ」

「マジか?」


あれ?本気と受け取りました?


「着替えを大量に持って、あの女の所か?」


そう捕らえたのね。

説明が面倒だからそれでいいや。


「あぁ」

「いいなぁ、彼女いるやつは。

 次はいつ帰って来る?」


本気で寮を出るんですけど。

寮の名簿からオレの名前が消えれば、

理解するだろうよ。


「もう帰って来ない」

「はいはい」


ということで、今生の別れを惜しむ間もなく、

カイはあっさりとこの場で別れることとなった。

まぁ、部室で会うからいいか。


外に出ると、黒のハイヤーが寮の正面口で

待機している。

PMCの車だ。

オレの姿を確認すると、トランクを開け、

運転手が降りて来る。

荷物をトランクに押し込んでくれて

オレは後部座席へと乗り込む。


「新宿まで頼む」


行き先を伝え、ハイヤーは走り出す。

さよなら、オレの部屋。

寮生活は楽しかった。


・・・


車内で、ふとある事が頭を過り

白川さんにLineする。

今日の夕食は外にしようとDM。

即OKのスタンプが返って来た。

早めに言っておかないと準備しそうだから。


◇◇◇ レストラン前 ◇◇◇

時刻は19時。


今日は一日、いろいろと移動していた。

夕方には予定通り白川さんをピックアップ。

そのまま予約してあるフレンチレストランへ

直行したのである。


お店の前で車を止めると、

白川さんは笑みを浮かべる。


「あら素敵なところね」


オシャレなレストランだろ?


「こんな服装で入って大丈夫?

 言ってくれれば良かったのに」


オレも白川さんも普段着である。


「店の中にドレスを用意してあるだ。

 オレもフォーマルな格好に着替えるよ。

 一緒に着替えよう」


「あら、そっちの方が楽しそうね。

 ハルキがどんな服装するか楽しみ」

「だろ?」


「ハルキ、こういう場所、嫌いじゃなかったけ?」

「白川さんが喜んでもらえるなら嫌いじゃない。

 今日から同居生活スタートってことで

 お祝いしよう」


正確には昨日からだけど。


「家で食事するのもいいけどさ、

 月に1回はこういうのも良くない?」

「いいけど、無理はしないでね。

 ハルキが私の事を考えて準備してくれた

 だけで十分なんだから」


そんなこと言われたらますます頑張っちゃいますよ。

店内に入ると席は10テーブルほど。

少し大きめの店である。

貸し切ってあるから客はオレ達だけ。

個室が2つあり、そこを衣裳部屋にした。


オレは、さっさと着替えて窓際の席に着く。

白川さんにはヘアメイクを付けてあるので

時間が掛かる。

この待ってる時間もワクワクできていい。

きっと上品なレディーとして登場するだろう。


しかし、ハルキの身体は何を着ても

さまにならない。

学生が頑張って大人の格好してるって、

そのままの印象。

田中の身体が良かったが、仕方ない。


待つこと20分だろうか。

白川さんが、身体のラインが分かる

真っ赤なドレス姿で登場。

髪型や化粧もあるだろう。

こちらはオレと違って、大人の女性がそこにいる。

普段着でさえ大人っぽいのに輪をかけてる。

美しいとは、この人のことを指す言葉だ。

どう見ても、姉と弟だな。


オレは立ち上がり、白川さんと向かい合う。

案の定、白川さんはオレを見て鼻で笑った。


「ふふ、似合ってますよ」

「無理しなくていい!」


「そいう格好見ないから新鮮」

「あと10年待って。

 外見的にも釣り合う男性になるから」


「10年ね。楽しみ。

 私もジムに(かよ)おかしら」


今は子供だが10年もすればダンディーになれる。

彼女を席までスコートして、

オレも対面の席に座る。


ウェイターが来て、ジュースが2つ置かれる。

料理はシェフのおすすめコースを注文済み。

なので、席に座って、運ばれた品を食べるだけ。


ジュースを手に取り。


「カンパーイ」


オレは携帯を手に取り、カメラON。


「はい、取りますよ。

 もうちょっとグラス持ち上げて」


♪カシャ


「もう1枚」


♪カシャ


携帯で写真撮って、ムード台無し。

しょうがないだろう。

まぁ、ハルキだから許される行為だろう。


どう思われようといい。

この瞬間の白川さんを残したい。

それだけだ。


ウェイターがアラカルトを運んで来た。


「美味しそう」


オレは、席に後ろに置いといた小さな箱を

手に取り、白川さんの前に差し出す。


「プレゼント?」

「そっ、開けてみて」


白川さんは箱の中身を見て、目を丸くする。


「どうしたの、これ?」

「買い戻した。思い出の品でしょ?」


それは、白川さんもご存じのネックレス。

先日の逃亡時に、新宿の質屋に入れた物だ。

白川さんが気に入っていたので

買い戻したのである。


「付けて」


箱ごとネックレスを渡された。

オレは席を立って、白川さんの背後に回る。

そして、ネックレスを手に取り、

彼女の首に付けてあげたのである。


「似合ってる。

 実はオレも気に入ってたんだ」


高価な物をプレゼントされて

喜ぶような人ではないのは知っている。

でも、これは特別でしょ。


「うれしい。大切にします」


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