(017) さよならノノン②
煙が蔓延した部室。
誰がどこに居るか把握できない。
出口がどこかすら分からん。
火事でパニックになる理由が分かるわ。
状況からして、カイは窓を開けようとしてる。
金沢さんはオレの近くに居るはず。
手を伸ばして変なところを触っても事故ですむはず。
♪ガラガラガラ
外気が室内へと勢いよく入り込んで来る。
と同時に室内の煙が外へと飛び出してゆく。
そう窓が全開に開いたのだ。
今日は、風の強い日で良かった。
数秒で室内の視界はクリアとなる。
大量の煙が外に出ていったけど大騒ぎにならない?
「みんな!大丈夫か?」
カイの呼びかけに各人が各々を確認し合う。
「警報が鳴らなくてよかった」
「ごめんなさい。
ちょっと粉の量多かったかも」
「金沢さんは悪くないよ」
♪ドンドン
ビックリした。急にドアを叩く音が。
「中でなにしている?」
ヤバい、先生だ。
♪ドンドン
「入るぞ!」
♪ガラガラ
「お前ら!ここで何してた?」
扉が開き。3人は入り口に注目する。
スーツ姿の男がそこに居た。
先生である。
先ほどの煙で飛んで来たのだろう。
終わった。
どのような処分が下されるのか。
まさか、退学になったりしないよな。
「すみません。
室内でアロマテラピーしてました。
今止めたので問題ありません」
カイが先生の言葉に反応する。
オレと部長は、先生と目を会わせないようしてる。
先生は部室を見渡す。
「ここに居たのは、お前ら3人だけか?」
「はい」
先生は問題のアロマ機器を見つけ。
発生源はこれか?と手に取り詳しく見る。
「火元はこれか?」
「火事ではありません。
香りを出しただけです。
ちょっと量を間違えました」
「これは没収する。
全員、職員室まで来なさい」
先頭のカイが振り向きざまに
小声で2人へ伝る。
「先生にはオレが説明する。
2人は黙ってて」
こういう時、あんたかっけぇよ。
廊下に出てオレら3人は先生の後を付て行く。
ここに堀北さんが居なくてよかったと
心の底から感じた。
◇◇◇ 職員室 ◇◇◇
♪キーンコーン、カーンコーン。
午後の授業を伝える音。
オレらはというと職員室の隅で3人横一列で
立たされている。
堀北さんはオレが帰って来ないことに心配
してるだろうな。
カイが代表で先生方に説明してくれてる。
オレと金沢さんは黙ってそのやり取りを
耳に入れているだけ。
カイは、自分1人で勝手にやったと説明。
2人は知らなかったという主張だ。
しらないは無理があるだろう。
いつもはヘラヘラしててバカな発言をするが、
こういう時は頼もしい。
オレには真似できないことだ。
『オレも共犯だ!』と名乗り出れたら
カッコいいのだけれど。
早くこの場から立ち去りたいと願ってる。
しょうもない人間だと再認識した。
よくよく考えたら、オレが堀北さんに
告白しようとしたのが発端である。
この状況はオレのせいでもある。
部が廃部にならなのを祈りたい。
・・・
5時限目の授業中
♪スタスタ
静寂に包まれた廊下を3人の生徒が
歩く姿が伺える。
授業中なのだから当然ではあるが、
廃校に来たかような感覚。
なかなかない体験だ。
「岳中くん、ごめんなさい」
「いいのいいの慣れてますから。
3人とも反省文だけですんで良かった」
ほんとうだよ。ラッキーだった。
1週間ほどの謹慎は覚悟してたのに。
部も廃部にならなかったし最悪の事態は避けられた。
と言っても全てはカイのおかげだ。
「ハルは糞の役にも立たなかったけどな」
「カイが黙ってろと言ったんだろう」
結果、職員室ではカイのみが怒られ
オレと金沢さんは注意に留まった。
1人の暴走というカイの話しを先生方が
信じたからだ。
もしかしたら信じることにしてくれた
のかも知れない。
ただし、教室で火を使ったのはまずかった。
大きな問題とはならなかったのは
先生が見なかったことにしてくれたから。
謹慎等もなく反省文の提出のみで
事なきを終えたのは本当ラッキーである。
職員室を出るまでは生きた心地がしなかった。
怖い先生だったけど、冷静になれば生徒思い
のいい先生であった。
「岳中くん、ほんとありがとう。
必ずお礼します」
「本当に?」
「カイ!真に受けるな」
「こういう時があったらいつでも言って!
オレが対処するから」
何度もあってたまるか。
3年A組の前まで来ると。
「私はここだから」
そう言って金沢さんは教室の扉を開け
彼女が入って行くのを見届ける。
クラスメイトの視線が金沢さんに集中する。
うわぁ。オレには耐えられないわ。
廊下に居るオレらを見る先生の目力が
怖かったのでオレとカイは歩き出す。
A組は特進クラス。
金沢さんは相当頭いいのだろう。
クラスで浮いたりしないだろうか。
心配である。
オレのクラスはB組。
隣のようで隣ではない。
同じ階だけどA組とは少し離れてる。
正直、午後の授業には出たくない。
金沢さんが教室に入る姿を思い出したら
ゲロが出そうになる。
だが堀北さんが心配してる可能性がる。
戻らんとダメかなぁ。
あれ?
そう言えば、ノノンは?
周囲を見渡すも姿が見えない。
お~い!
「どうした?探し物?」
「いや、なんでもない」
まさかの成仏?
あんな煙でか?嘘だろ。
オレは、煙の効果をまったく
信じてなかった。
だが、ノノンはいない。
常にそばにいて、ウザかったけど
消えたら消えたで寂しいものだなぁ。
拾った猫がどこかに行ってしまった気分だ。
◇◇◇ 住宅街 ◇◇◇
閑静な住宅街を寮に向かって歩いてる。
1人で下校しているところだ。
ついノノンに話し掛けようとしてしまう。
煙事件後からノノンは姿を現してない。
話し相手がいないと寂しいものだ。
あれだけ一人が好きだったに。
ひょっこり現れるんじゃないかと
つい周囲を確認してしまう。
はたから見たらオレが誰にも見られてないか
確認してるようにしか思えない。
これって犯罪者の行動だ。
犯罪者というキーワードでふと、
5限の授業中で教室に入ったところが
フラッシュバックされた。
それは、お昼の煙事件で先生方から
解放され、自分の教室へと戻った時のこと。
入室したら当然の如く注目を浴びた。
告白未遂事件も相まって、
もはやオレに向ける視線は犯罪者。
最悪である。
あの状況を思い出すだけも身震いする。
そんなオレを助けてくれたのは堀北さんだ。
オレの心情を察してか、心配してくれた。
彼女の方が天使である。
事件のことを聞かれたので、
堀北さんが出て行った後の出来事を
ノートを使って説明したのである。
◇◇◇ 寮の自室 ◇◇◇
オレは寮へと戻り、自分の部屋の前に立つ。
いつものように扉を開けようと
ドアノブに手を添えた所で、ある事が頭を過る。
もしかしたら中にノノンが居るかもと。
そして、オレを脅かそうと待ち構えてる。
となると、やることは一つ。
オレは勢いよくドアを開け、発する。
「わぁーーー」
逆にオレの方から脅かしてやった。
が、ノノンの姿はない。
オレの部屋は入り口から隅々が見渡せる。
探すまでもない。
だが、まだ諦めてない。
だって隠れている可能もあるから。
クローゼットを開け、カーテン裏を確認し、
ベッドの下も覗く。
ノノンは居ない。それが明確となった。
急に脱力感が襲い掛かる。
よくよく考えれば今日はいろいろと
あり過ぎて精神的に疲れた。
あぁあ、何もする気が起きない。
気合で着替え、ベッドに倒れる。
昨日したノノンとのゲームを思い出す。
そう言えばボス戦の手前でセーブしたっけか。
ボスだけ倒しとくか。
と始めたものの3回も失敗し先へ進めない。
やはりオーディエンスがいないと
気合が入らないし、集中力も続かない。
そもそも何が面白くてゲームしてるのか
分からんくなってきた。
携帯をほっぽり投げ、ぼーっとすることに。
頭を過るのはノノンのことだけ。
考えないようにすればするほど、
学校でのこと、ゲームでのことが
フラッシュバックされる。
薄れゆくノノンの声や笑顔を必死に
思い出すうちにオレは寝入ってしまった。
*** 翌日 ***
「起きて」
・・・
「起きてよ、ハル」
「ん~ん」
・・・
「朝ですよ」
「もうちょっと寝かせて」
「もう、起きないならチューするぞ」
「ノノン!?」
オレはノノンの声で目を覚ます。
だが、周囲を見渡すも彼女の姿はない。
どうやら夢だったようだ。
心のどこかで朝になれば現れるんじゃないか
と願っていたが、期待はしない方がいい。
愛想つかして去って行ったとは考え辛い。
やはり煙で成仏したのだろう。
信じられるか?あんな煙でだ。
成仏は願っていたことだ。
いざノノンが消えたら、現れて欲しい
だなんて虫が良すぎる。
時計は朝の5時半を表示してる。
夕飯も食べずに12時間も寝ていたことになる。
何やってんだオレは!
気晴らしにランニングすることにした。




