(165) 白川さんとの運命はいかに
◇◇◇ シェアハウス ◇◇◇
亡くなった岩井さんと関係がありそうだ。
そして、その女性の告別式で記憶を失った
と考えるのが自然だろう。
だがこの事実によって、
ますます頭が混乱する。
どうして記憶喪失うこととなったのか。
なぜ、黒服連中に追われているのか。
オレと岩井さんとの関係は何か。
念のため幻想ちゃんに聞いてはみたものの
記憶喪失については、宇宙の外から
幻想ちゃんが来たせいだという。
リセットとやらをすれば記憶は戻るらしい。
続けて、黒服はオレの部下だそうで、
白川さんが岩井さんなのだそうだ。
ん~ん。
確かに全てのキーワードが使われ
うまくつなげてはあるが、
この話を信じろっていう方が無理がある。
白川さんと岩井さんが同一人物?
バカ言っては困る。あり得ん。
この会話の中で、どの部分が真実かを
見極めるは困難だ。
むしろ真実は無いように思える。
白川さんには幻想ちゃんの言ったことを
そのまま伝えることに。
「・・・だって。
リセットというのをやれば記憶が
戻るらしい」
「そのリセット、やってみない?」
一理ある。
記憶が戻らなくてもオレに関する
新たな発見が出て来るかも知れない。
<<ノノンは嘘ついてません>>
「確かに、このまま記憶が戻らないなら
リセットとやらをやってみるのもありか」
「そうだよ。
黒服の人達とコンタクトを取るよりいいよ」
「分かった。やってみよう」
このまま逃走を続けて捕まるくらいなら
可能性を試してみよう。
「白川さんは、ここに残って。
オレ1人で行ってリセットしてみる」
「1人で待ってるなんてイヤ!
ハルキが行くなら私も行きます」
別々に行動して、どちらかが捕まったら
後悔するだろうな。
なら一緒に捕まった方がいいか。
オレは幻想ちゃんに確認する。
「リセットできる場所はどこにある?」
<<晴海のマンション>>
晴海ってどこ?地名?
それとも人の名前?
「そこのマンションでリセットできる
装置が置いてあるんだな?」
<<そう>>
「マンション入るのに危険はない?」
<<部屋には誰もないから安心して>>
本当か?どこまで信じて良い?
「行き方は分かる?」
<<大丈夫、まかせて!
早く行こう。今すぐ行こう!>>
軽いなぁ。不安しかない。
敵の本拠地に自ら捕まりに行くんじゃ
ないよな。
「分かった。案内してくれ」
幻想ちゃんは、オレが生み出した幻。
自分が自分を案内するのかよ。
辿り着けるのか?
そもそもマンションが実在するのか?
◇◇◇ 晴海のマンション ◇◇◇
オレらは幻想ちゃんの案内に従って
電車を乗り継ぎ、出来る限り大通りを歩いて
とあるマンションに前に到着した。
見上げると10階建てだろうか。
外観は普通のマンションにしかみえない。
適当に案内して、適当なマンションを
選択したじゃなかろうか。
こりゃ、中に入って通報されるパターンだぞ。
だがそんな不安は、エントランスに入って
吹き飛ぶ。
違和感を感じたからだ。
インターフォンがないのだ。
要するに住居人を呼び出せない。
認証部分はある。
住居エリア入り口の横に、
非接触型のカードキーがあるのだ。
こんなマンション見たことがない。
企業の研究施設か何かか?
白川さんはオレに密着して腕を組み、
誰かに襲われないか、きが気でないご様子。
キョロキョロと周囲を見渡してる。
「どうやって入るんだ?」
<<生体認証になってる。
黒い四角いところに手の平をかざして>>
開く訳ないだろう。
幻想ちゃんの言葉を信じて
ここまで来てしまったオレがバカだった。
さっさと退散した方がいい。
♪ウィーン
だが、居住区への扉が開いてしまった。
マジ?
これは一体どういうことなのか。
オレの手の平が登録されてるってことになる。
ってことはだ、過去に来たことがある
ということを意味する。。
このマンションは異常だ。普通ではない。
エレベータも選択できるは1階のみで、
認証しないと他の階を選べないようになってる。
しかもエレベータのサイズがデカい。
車1台は余裕で入れられるほどだ。
幻想ちゃんの指示通り
最上階の10階を選択。
自分が何者なのか怖くなって来た。
博士という言葉に真実味が湧いてる。
10階に降りるとフロアには3部屋しかない。
目的地は奥の部屋だそうだ。
扉の前に立つとこれまた不思議。
カギ穴がない。
しかもドアの周囲に認証機器すらない。
これ、どうやって入るの?
踏み込んではいけない場所に来てしまったのでは?
超~怖いんですけど。
「どうやって入るの?」
<<フックが指紋認証になってる。
握って引くだけだよ>>
そんなドアがあるの聞いたことないぞ。
♪カチッ
確かにフックを握ったら、
施錠が解除される音がした。
そして、引くと扉が開いたのである。
オイオイ。本当に大丈夫なのかよ。
白川さんを連れて来たのは失敗だった。
守り切れる自信がない。
恐る恐る中を覗くと、一本の廊下があり
廊下の左右に扉がある。そして正面にも。
中は一般家庭で見るような普通のマンション
のように見える。
「すみません!」
・・・
<<だれも居ないよ>>
声を掛けるも返答がない。
確かに、室内には誰もいなそうな雰囲気。
玄関に入って、普通に靴を脱ぐ。
左は洗面所、右はベッドのある小さな部屋であった。
人がいるかも含めて確認したが誰もいない。
普通に住めそうな感じ。
あまりにも普通で緊張感が解けたが、
廊下正面のリビングに入って驚愕する。
「何なのここ!」
白川さんが部屋を覗いて驚く。
オレも驚いた。
この部屋だけは異質だ。
部屋の中央に棺が7つ置いてあり
壁沿いには計器類が一面に設置してある。
驚きはしたが、部屋に誰も居ないことが
確認できたので安心できた。
「キャッ!」
「死体!?」
オレと白川さんは棺の1つを覗いて同時に驚く。
死体が入っていたのだ。
どうみても人形ではない。明らかに本物。
棺の上部が透明な素材となっていて中身が
覗けたのである。
どうやら本物の棺であった。
どうして死体が置いてある?
オレが殺したのか?
やばい、心臓の鼓動が高鳴る。
もしかしたらオレは猟奇殺人者で、
白川さんを殺すために近寄ったとか。
ここまで来たら幻想ちゃんの言う
リセットとやらが出来るのだろう。
だが記憶を取り戻すのが怖くなって来た。
幻想ちゃんが言うには空の棺に入って
側面に操作パネルでリセットができるという。
確かに、側面に操作パネルがある。
普通の棺ではないようだ。
指示通りに空の棺を操作すると。
♪ウィーン
棺が開いた。オレは中へと入る。
「じゃぁオレが先にやってみる。
何かあったら逃げて!」
「記憶が戻るといいね」
本当に記憶が戻った方がいいのだろうか?
実は岩井を殺したのはオレだって説が出て来た。
記憶が戻って、いきなり白川さんも殺す
のだけは避けたい。
「どうしたの?私が先にやろうか?」
オレが悩んでるから白川さんが心配してる。
「大丈夫」
記憶を取り戻しても、この感情は消えないだろう。
それを信じるしかない。
オレは白川さんが好きだ。絶対に守る。
仰向けで、まくららしきものに
頭を乗せると、扉が自動で動き出す。
白川さんの心配そうな顔が目に焼き付く。
今更だが毒ガスが出たりしないよな。
自分で自分のコレクションを作るってか。
扉が完全に閉まり切る。
♪ピッピ
音か聞こえた。
1秒も経ってない。
と同時にオレは全ての記憶を取り戻した。
自分が博士であることを思い出したのである。
なぜ忘れてた?
幸いなことに横浜でのこと、
ここに来るまでのことも全て覚えてる。
「ノノン、ありがとうな。
全てを思い出したよ」
<<良かった>>
ノノンは棺の外にいて覗き込んでいるが、
中からでも会話はできる。
だって、オレの脳に割り込んでるのだから。
「白川さんと大事な話しがある。
2人だけにさせてくれないか?」
<<分かった。後で携帯に連絡して>>
そう言ってノノンは消滅する。
♪ウィーン
棺の扉が開き、白川さんと目が合う。
さて、どこから話そう。