(164) オレは闇落ちしてるらしい
◇◇◇ シェアハウス ◇◇◇
今朝起きると見知らぬ女の子が部屋にいた。
驚くことにその子は、自分を天使だという。
天使って、こんなんだったか?
オレの知ってる天使とはかけ離れていた。
だいたい本物は自分を天使と名乗らんだろう。
だが、人間でないことだけは分かる。
だって宙に浮いているのだから。
「白川さん、危ない。こっち来て!」
<<危ないってノノンのこと?>>
「何が危ないの?ハルキ変だよ」
白川さん!?
あなた怖くないの?
オレらが寝てる間。
知らない子が部屋に忍び込んだんだよ。
でもあれ?
白川さんは化け物の存在に気付いてないような。
<<博士、酷い>>
オレはその子を指差し、白川さんに問う。
「ここに女の子が居るんだけど
見えてない?」
「どこ?すごく小さいの?」
オレらは、ベッドしかない3畳の部屋にいる。
探すまでもない。
「ハルキ!ヤバいよ。
頭がおかしくなってる」
その通りかもな。
冷静に考えて、宙に浮いてる少女が
存在する訳がない。
<<ノノンのこと、忘れたの?>>
心配そうな顔で少女がオレの目の前に来る。
オレはその少女の二の腕を掴もうとしたら
触れることが出来ず、少女の胸のふくらみ
まで素通りしてしまった。
<<いやん>>
少女は両腕を組み、胸をカバーしながら
オレから距離を取る。
ハハハ。
少女が幻覚であることを確認できた。
オレの記憶が戻るどころか、
脳が壊れ始めてるらしい。
ヤバいなオレ、死ぬのか?
「ごめん。幻覚だった」
オレが白川さんに弁明すると。
不安そうなオレの表情を見て、
白川さんがベッドから降り、
オレに抱き着く。
「大丈夫。疲れてるだけだよ。
休んだ方がいい」
<<博士!もしかして、また記憶喪失なの?>>
さっきから『博士』『博士』って。
オレが幻想ちゃんを作り出した
科学者って設定なのか?
<<岩井さんにニーナのこと聞いて!
カイくんでもいいよ。
そしたらいろいろと思い出すから>>
岩井さん?ニーナ?
だれだよ。
次から次へと知らん名前が出てきてパニックです。
<<博士!発着室に戻ってリセットしよう>>
発着室ってなに?
脳がバグり始めて来た。
オレ、死ぬな!
<<ちょっと!ノノンの話しを聞いて>>
ハハハ。
この子メッチャ、しゃべる。
白川さんはオレを心配そうな顔で見つめる。
「まだ見えてるの?」
「あぁ、オレを博士と呼んでるよ」
「それって深層心理の現れじゃない?
記憶と関係してるかもよ。
ハルキは本当に博士だったりして」
「バカな。どう見てもオレは10代だ。
博士というよりは、学生でしょ」
<<ノノンを無視しないでよ>>
「追われてるのもハルキの論文か
頭脳が欲しいとかだったりするかもよ」
それはオレも考えた。
組織に追われる論文ってなんだよ。
国を動かせるようなものなのか?
そんなものをオレが書けるとは思えん。
「イヤイヤイヤ。
博士にしてはオレは若すぎる」
「幻想の人と会話してみたら?
記憶回復の糸口がつかめるかも」
確かに、やってみる価値はあるかも。
オレから生まれたものだ。
オレの記憶に関係してる可能性は確かにある。
少女の方に振り向き改めて問う。
「オレを知ってるのか?」
<<知ってるよ。
ノノンは博士の助手だもん>>
博士と言う設定は曲げないのね。
ハハハ。この子が助手?
オレは一体何の博士なのでしょう。
もっと単純なところを攻めよう。
「オレの名前を教えてくれ」
<<研究室ではジュン博士と呼ばれてる。
その身体はハルキだよ>>
言ってる意味が分からん。
会話する意味あるのか?
要するに厨二病の設定だろ?これ。
混乱する。
「この身体がハルキってどいうこと?
なぜオレに名前が2つある?」
<<記憶がまったくないんだね>>
「ああ、ない。なぜ記憶が無いんだ?
理由を知ってるのか?」
<<それ、ノノンのせいだよ。
今回で2度目だから>>
「前にも同じことがあったのか。
どうしてキミのせいなんだ?」
幻想ちゃんの話しでは、オレは宇宙の外から
地球に観光に来てるのだそうだ。
ハルキの身体に乗り移って行動している
のだという。
作り話にしてもIQが低すぎる。
こんな話しを聞かされて、
信じる者が居たら教えてくれ。
オレはありのままを、白川さんに説明した。
「な?会話を続けても意味ないよ。
記憶が戻るどころか、
オレの恥ずかしい部分が出てるだけだ」
「宇宙の外ってハルキは神様ってこと?
確かに話が無茶苦茶よね。
病院行った方がいいかも」
<<本当なの。ノノンを信じてよ。
リセットすれば記憶も戻るから>>
「白川さんもオレの助手なのか?」
<<違うよ>>
話しを聞くと白川さんは宇宙人ではなく
オレが作った人間らしい。
これSF小説にしたら売れるんじゃないか。
だが、会話していくうちに、
1つ進展することになる。
試しにネットで『岩井友璃』を検索して
みたところ情報が出て来たのである。
しかも驚くことに、2日前に告別式があり、
彼女は亡くなっていた。
どうやら幻想ちゃんの言うことは
全てが嘘ではないらしい。
そして、告別式の会場が逃亡劇を開始した
場所でもある。
オレらと岩井さんは繋がっている。
幻想ちゃんの話しは滅茶苦茶だが、
1%は真実も含まれていることが判明した。
精査すれば、いろいろと分かるかも知れない。
「幻想ちゃんさ、黒服・・・」
<<ノノンは天使です>>