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(158) オレは誰?

◇◇◇ お寺の敷地 ◇◇◇

背の高い雑草に囲まれ、石畳(いしだたみ)に座り込む男女の2人。


「オレたち知り合いだよね?」


変な目で見られてる。

ナンパだとい思われたか?


こんな場所で2人っきりだ。

知り合いしかありえんだろう。


「すみません。実は記憶がないんです。

 変な事を聞きますが、

 なぜ、あなたとこんな場所に居るのでしょう?」

「わたしも知りたいところです」


ふざけてる?


「自分の名前が思い出せないです」


あれ?オレと同じ?


「私も記憶がないです。

 どうして私達地べたに座ってるのでしょう?」


こんな場所で2人共、記憶喪失?

そんなことってある?


「会長!」


遠くから男性の叫ぶ声が聞こえる。

草の隙間から覗くと声の主は体格のいい黒服。

するともう1人の黒服が現れる。

どう見ても彼らは怪しい。


オレは気付かれぬよう低い体勢を保つ。


「ちょっと」

「あぶないから」


隣の女性が首を伸ばし、声の主を確認

しようとしたので、オレは彼女の頭を

手の平で押さえ、体勢を低くさせた。


「会長!」


人がいないはずの茂みに向かって

黒服は叫んでる。

どう考えもオレらを探しつつ、

会長グループを呼んでるように思える。

どうやら、オレらを探してるのか?


「逃げよう!」

「どうして?」


うんも言わせず、オレは彼女の手を取り、

中腰で移動を開始する。


「奴らはオレらを捕まえようとしてる。

 多分ね」

「確かに怪しげな人達よね?

 でもあなたも信用できないわ」


オレもお前が信用できん。

いざとなったら人質にするつもりだ。


「じゃあ、なぜ付いてくる?」

「あっちとあなたなら。

 あなたの方が信頼できそうだから」


同感だ。少なくとも一緒に居たのだ。

知り合いの可能性は高い。

茂みを抜けると、一面にお墓が並ぶ墓地へと出た。


オレの記憶障害は、あの黒服せいなのか?

逃げながらいろいろと妄想が膨らむ。


「私たち、どうして追われてるのかしら?

 あなた、どう見ても学生さんよね?」


オレの制服姿を見て判断したのか。

オレ、学生なの?

学生だから追われない理由にはならんだろう。


「わからない。

 記憶が戻るまでは逃げてた方が

 得策だと思わない?」

「同感ね」


敷地内の端に来てしまった。

墓地は高さ2mほどの塀に囲まれている。

見渡すと勝手口があるが鍵が掛かってる。

八方塞がりだ。


オレ1人なら登れそうだけど

彼女を置いてはいけない。

とっさの判断で足場を作り、塀の上にあがる。

そして飛び降りる。脱出に成功。


彼女も足場を使って塀の上にあが、

飛び降りようとするも躊躇(ちゅうちょ)する。


「おいで。受け止めるから」


オレは両手を広げ、満面の笑みで迎え入れる。

決心したのか、目をつむって落ちるようにして降りた。

彼女を抱きしめるようにして受け止める。


痛っ!


良い匂いがする。

いかんいかん、それどこでない。


「ありがとう」

「大丈夫?足痛めてない?」

「平気」


通り沿いの先を見ると、多くの人の列が出来てる。

しかも驚くことに服装が黒一色。

あの集団はなんだ?


すると、オレらを探していたのと同じ

黒服の連中が門から出て来た。


やばい。


「オレらが外に出たのがバレたかも」


再び彼女の手を取り、この場から走り去るのであった。


◇◇◇ 寺内の茂みエリア ◇◇◇


ハルキが潜んでいた茂みに黒服が立ってる。

彼はどこかに電話中の様子。


「ノノン様が倒れた。

 病院へ直行させてる。

 受け入れの手続きを頼む」


電話を切ると、もう一人の黒服が現れる。


「会長は?」

「それが、お呼びしても返事がない」

「この辺に居るはずなんだが」


黒服は携帯で会長の居場所を再確認するも、

座標はこの辺を示してる。

そして、携帯がころがってるのを発見する。


頭痛が発生したときに、

手に持ってた携帯を落としたようだ。


黒服は会長の携帯を手に取り動揺する。


「どういうことだ?」

「会長が拉致された可能性が高い」

「白川様も会長と一緒におりました。

 至急、本部へ連絡」


◇◇◇ PMC諜報室 ◇◇◇


エージェントからの連絡を受け、

諜報室内で会長の捜索に入る。


PMCは都内の主要な場所に

監視カメラを設置してある。

そのため人探しは容易。


だが、会長は見つからない。

それもそのはず。

ハルキは、住宅街を走るバスに

飛び乗っていたのだから。

流石にバスの中には監視カメラはないため、

偶然にも見つからずにいる。


◇◇◇ バス車内 ◇◇◇


バスの車内。

6名のほどの乗客でスカスカ模様。

その中で後部座席に座る男女の姿があった。

ハルキと岩井さんである。


2人はお互い自分の財布を所持していた

ので自身の身元を確認している。


「おかしい」

「どうしたの?」


「学生証があったんだが

 オレの名前が細倉(ほそくら)春輝(はるき)となってる。

 こんな名前ではなかったはず」

「私も。岩井だった記憶だけど

 保険証に白川(しらかわ)瑞葵(みずき)って

 記載されてる」


これは一体どういうことなのか。

別人として生活しているのか。

それとも記憶が間違っているのか。

むしろオレ達の方が訳ありなのかも知れない。


さて、これからどうしよう。

バスに乗ったはいいが、特にあてがない。

今はできるだけ遠くに逃げるのに集中。


所持金は、財布に現金が3千円と

ポケットに小銭があるだけ。

対して彼女は2万円所持していた。

彼女のお金をあてにしたとしても

1日逃走するのがやっとだろう。

記憶が数時間で戻ればいいのだが。


幸いにも2人ともクレジットカードを持っていた。

ただし、オレのカードはブラック。

使ったらやばそうな気がする。


あとカードの利用に関して3つほど懸念点がある。

1つは、使ったからオレらの居場所が

特定されてるかも、というリスク。

2つ目は、カードのパスワードが分からない。

3つ目は、利用制限が掛けられてないか。


とにかく、最初にすべきことはオレの身なり。

学校の制服は目立ち過ぎる。

彼女も服を着替えた方がいいだろう。

カード利用の実験も兼ねて

まずは服を買いに行くとに決定した。


「私たち同い年だったんだね」


なんだか嬉しそうだ。

見た目はオレの方が年下だけどな。


「学生証を信じれば同い年だけど」

「いいじゃない。

 今は信じるしかないでしょ?」

「そりゃそうだ」


「お互いの呼び方、決めません?

 ハルキくん、でいい?」


急にゼロ距離で迫って来るんだが。


「その前にオレを警戒してたのでは?」

「それは、お互い様よ。

 2人とも記憶ないんだから

 協力し合うしかなくない!?

 それに頼りになると思ってる」


この子、ポジティブだな。

自分の状況を理解してるのか。

黒服連中に捕まったら何されるか分からんのだぞ。


「分かった。ハルキでいいよ。

 オレは、白川さんと呼ぶ」


「そこは瑞葵(みずき)じゃないの?」

「下の名前で呼ぶのはちょっと」

「あなたをますます信じられそう」


こんな奴に悪い人はいないってか。


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