(157) ■■ 6th・インパクト ■■ ■■■■■■■■■■■■■■■
◇◇◇ お寺 ◇◇◇
岩井さんは、父の前で泣き崩れる。
まさか自分の葬式で泣くとは
想像をもしてなかったことだ。
頑張って父と向き合ってればよかった。
友璃が生きてると打ち明けたい。
孤独で、この先どうしていいか分からない。
ファンともっと交流してればよかった。
いろいろな感情が重なり、あふれ出した
涙が止まらなくなった。
「すみません。取り乱しました」
「娘のために泣いてくれてありがとう」
「お線香をあげに自宅にお邪魔しても
宜しいでしょうか?」
「いつでもおいで。娘も喜ぶだろうから」
また、父に会える約束を取り付けた。
実家に戻れる。
そう思うと急に元気が湧いて来る。
岩井さんは立ち上がり、
父に深くお辞儀をして出口へと向かう。
来て良かったと心から思う。
お寺の敷地内にある特設開業を出ると
参列に並ばす片隅に立つ黒服を発見。
しかも彼と目が合ってしまった。
岩井さんは彼を知っている。
PMCの後藤さんだ。
芸能事務所に入ってから専属で運転手兼
ボディーガードをしてくれてた人。
白川に代わってもその職を続けてくれてる。
それはハルキの指示なのだろう。
白川となった現在、芸能人ではないし
SNSもしてない。
普通に生活してれば、もう怖い思いをするこはない。
ボディガードを止めて頂くよう交渉しようと
後藤さんの元へと近づいた時。
別の場所に立つ、もう1人の黒服を見つけた。
彼もまた岩井さんの知る人物。
ニーナのボディガードをしてた人だ。
代々木公園でボコボコにされてたけど、
こうして監視に従事してるのを見て安堵する。
彼が居るということはニーナも会場に
来てるはず。
黒服の目線を辿ると驚くべき人物を目撃する。
ハルキだ。
制服姿のハルキがこの会場に来てたのである。
どやら3人で来てるようだ。
残りの2人も知っている。
病院で寝ていた乃々佳さんと
ハルキがカイと呼んでいた同級生。
心臓の鼓動が高鳴る。
このまま去るべきか、声を掛けるべきか。
彼女は悩んだあげく180度反転し、
去ることを選択する。
◇◇◇
「芸能人、居ないじゃん」
「声がデカい。外に出てからにしろ!」
不謹慎な奴だ。
カイと一緒に来るんじゃなかった。
「そうよ。何しに来たのよ?」
「弔いに決まってんじゃん」
「そうは見えませんけど」
ノノンに同感だ。
「ノノンちゃんまでオレをぞんざいに扱いだした」
「静かに!」
声がデカい。
場所をわきまえず、子供のように無邪気なカイを
冷たい視線で相手する。
そして祭壇の前へ。
周囲の真似をし儀式が終わる。
そして、出口へと進む。
カイは芸能人が居ないかキョロキョロと周囲を見渡す。
一緒に居て恥ずかしいんだが。
「ハルキ!」
特設会場を出た所で、突然ハルキの正面に
女性が現れ、声を掛けて来た。
オレ、カイ、ノノンの3人は
同時に声の主へ焦点を合わせる。
岩井さんだ。
ここで岩井さんに会うのは想定外。
とりあえず、何か言わないと。
「元気してました?」
「知ってるくせに」
確かに聞くまでもない。
岩井さんは会長案件の監視対象であるから
定期的に報告を受けてて近況は把握できてる。
まさか、自分の葬式に来るとは
夢にも思っていなかった。
「ハルの知り合い?だれだれ?」
カイが食い気味に割り込んでくる。
自己紹介はやめろよ。
「大事な話があるみたいだから
2人きりにさせてあげて」
ノノンが助け舟を出してくれた。
気を利かしてくれたのか、ノノンはカイの袖をつまみ、
外へと向かってくれた。
要するに岩井さんと2人きりにしてくれたのである。
嬉しい反面、非常に気まずい。
岩井さんは、ハルキと会わずに帰ることにしたが、
父との事を思い出し、ハルキと向き合って
会話がしたく引き返して来たのである。
・・・
2人に沈黙が続く。
話したいことがあるだが、お互い話し出せないでいる。
「事件。
事件の真相を教えてよ。
なぜ私が殺されたのか知りたい」
口を開いたのは岩井さんからである。
この話題は会話の糸口として絞り出したもの。
実はそんなに興味はない。
「ここではあれなので。
あっちで話そう」
指差した先は、お寺を挟んで反対側。
薄暗く茂みがかった場所だ。
参列者から2人の存在が認識できない
位置へ移動し、会話を始める。
「あの事件は全てオレの責任です。
取返しの付かないことをしました。
申し訳ない」
オレは、岩井さんに深々と頭を下げる。
これは本心である。
決して岩井さんから許しを得ようと
とりあえずした謝罪ではない。
「謝ってすむ問題じゃないのは重々承知しています。
謝罪が遅くなって申し訳ありません。」
再度、深々と頭を下げた。
「謝罪はいいです。
結局あの事件は何だったの?
どうして私が殺されなければならなかったの?」
岩井さんは白川に生まれ変わったのだ。
全てを話しても問題ないだろう。
「偽のファンサイトが作られて
ファンからお金を騙し取った
事件がありましたよね?」
岩井さんの死亡事件は、詐欺事件が発端と
なってることを説明する。
その詐欺は、ニュースで放送された通り
タイの集団が実行し、逮捕された。
ここでニュースにされない事だが、
タイの集団が持っていた活動資金が消滅したのである。
そこで、その資金を奪ったのが岩井さんと
疑られて、代々木公園事件、スクラップ工場
事件へと発展した。
という経緯で岩井さんは身体を失うこと
につながったと説明。
ちなみに、活動資金の消滅はオレでない
ことは強調した。
「なら悪いのは私じゃない?
アカウントを奪われたのが原因でしょ」
それは違う。
何度も迂回できた場面があったんだ。
「著名人やインフルエンサーでSNSが
乗っ取られることはしばしある。
岩井さんもその1人。
オレの対応が悪かった。
公園での拉致事件もその1つ。
犯人は分かってて捕まえなかった。
全てはオレに責任がある」
痛たた。頭が痛い。
突然、オレは激しい頭痛に襲われた。
吐き気もする。
オレはガマンできず地面にうずくまる。
「ハルキ!頭痛い」
岩井さんも?
見ると、岩井さんも地べたに座り、
両手で頭を押さえてる。
どういうことだ!
生物兵器?
テロか?
やばい、意識が遠くなる。
・・・
オレは目を覚ます。
ここ、どこ?
目の前の女性はだれ?
どうして2人して地べたに座り込んでいる?
状況がつかめない。
目の前の女性が口を開く。
「すみません。どなたですか?」
それ!オレが聞きたい。