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(151) 久しぶりのジム①

◇◇◇ ジム ◇◇◇

時刻は午前10時。


やる気が起きない。

生きるも希望もない。

何が楽しくてガイヤ(地球)にいるんだか。

研究室に戻ろうかな。


この原因は言うまでもない。

岩井さんだ。

あんな別れ方をして結果よかったと

自分に言い聞かせてるが、この有様。


街角でカップが喧嘩してところを目撃すると

『別れたらいいじゃん、早い方がいい。

 どうせまた喧嘩するんだから』

と思っていたが、当事者になってみると

そんな簡単に割り切れるもんではないな。


「こんにちわ」


後輩の女子がオレの前を通りかかり、

一礼して挨拶する。

なんと礼儀正しい子だ。


言葉で返せと分かりつつも

首を縦に振って返答する。

オレの方がダメ人間だ。


現在、堀北さんが所属するジムの

入り口前に立っている。

堀北さんが来るのを待ってるのだ。


普通ならジムの中で待ってるところだが、

女子達の視線が痛いので外で待つことにした。

いつもオレを変態扱いでにらんできやがる。

大体、見るなっていう方が無茶だ。

目の前にお尻があるんだから。


ジムに来た理由はノノンが誘ったから。

一緒に見学に行くと堀北さんに伝えたらしい。

断わる理由がないので

付いて来てしまったという経緯。


そのノノンはというと、外で待つの退屈だそうで、

ジムの中で見学してる。

女はいいよな。見放題だ。


そんな時である。

突然オレの五感全てにアラートが鳴り出す。

高2の美沙(みさ)を目撃したらからだ。

彼女は、こちらに向かってる。

この子が一番、苦手なんですけど。

ドンドン近づいて来る。やだなぁ。


目が合ったとたん

『あんたなんか興味ないわよ』

って感じで(そら)された。

メチャメチャ感じ悪いんだが。

そんな顔すんな!

くっそ、見なきゃよかった。

続けてオレを通り抜ける際には

「エッチ!変態!」

と言い放った。

最悪。死にたい。

いつ、お前をエロい目で見たよ。

オッパイ、大きいなって関心しただけだろう。


岩井さんに好かれていい気になってたが

本来のハルキのあるべき姿はこれだ。

改めて再認識したよ。

来なきゃよかった。


「細倉くん、おはよう」


気付いたら堀北さんが真横にいる。

満面の笑みなんですけど。あぁ、癒される。

堀北と書いて女神と読むんじゃないのか。

この人だけだよ。

糞のようなオレを人間扱いしてくれるのは。


「堀北さん、おはよう」

「ジムに来るの久しぶりだね」


積極的に話し掛けてくれる。

なんて良い人なのだろう。

オレのソールジムが浄化されていく。

来て良かったぜ。


「堀北さんの応援隊長として

 なかなか来れず申し訳ないです」

「応援隊長だったんだ?

 知らなかった」


「団員は、わたくし1人ですけどね。

 今日は応援団員全員で参加です」


クスクスと笑う堀北さんを見て

元気がみなぎって来る。


「細倉くんって面白いよね」

「そうですか?

 初めて言われましたよ、そんなこと。

 じゃぁ、お笑い芸人目指そうかなぁ」


堀北さんとの会話は楽しい。

だが、安心してはいけない。

楽しい事があれば、10倍悪い事が起こる。

人生は『谷あり谷あり』だから。


「乃々佳が中で待ってます」

「来ているの?」


「乃々佳がジム行くって言うんで一緒に来ました」

「へぇ」


その顔やめて!

乃々佳とは付き合ってませんから。

くっそ、余計なこと言わなければよかった。


♪ブル、ブル


携帯が鳴ってる。

ポケットからスマホを取り出し、

確認するとPMCからのメールであった。


「電話来たんで先に入っててください」


そう言うと堀北さんは急ぎ足でジムの中へ。


メールはPMCからの報告である。

岩井さん拉致事件の全容が記載されていた。


発端は、岩井さんのインスタの乗っ取り事件から、

始まっているとのことだ。

犯人はタイで活動する日本人の詐欺集団である。

岩井さんのアカウントを乗っ取って、

インスタから偽のファンサイトへ誘導させた

という事件である。


そこでオレはタイ警察を動かし、詐欺集団を

全員逮捕させたることに成功した。

タイの詐欺集団は、新宿で活動してる

大仁田組とつながっていたのだ。

要するに大仁田組がタイの連中を使って

詐欺をさせていたということだ。


その際、タイに隠してた10億円が消失したそうだ。

大仁田組内で大騒ぎになったという。

その資金が実在してたかは確かめようがない。

存在してたのなら、使い込んでしまったのか、

タイ警察に押収されたか、

別の集団にでも奪われたのだろう。


どこをどう勘違いしたのか、岩井さんの関係者が

その10億を横取りしたと勘違いしたようだ。

詐欺にあった全員にお金を返却したのも

誤解させた理由の1つかも知れない。


そこで大仁田組は、金を取り返すべく

グループAを使った。

週刊誌の編集長とグループAは繋がっていた。

岩井さんのスクープを取れば

関係者を誘き寄せると考えたのだろう。

そんな事を知らないオレは、編集長と面会し

帰りに襲われたのである。


事態はそれで終わらなかった。

グループAの情報がグループBに伝わり

岩井さんを拉致する計画に発展する。

それが代々木公園での拉致事件になる。


公園での拉致が失敗に終わり、

次に写真撮影を狙ったという流れだ。


タイの詐欺集団を逮捕させなければ。

グループA、グループBを捕らえておけば。

記者会見をしなければ。

ボディガードを強化してれば。

岩井さんを死なせないタイミングは沢山あった。

全てオレの責任だ。

公開したところで、どうにもならない。

もう、元に戻せないのだから。


グループBはリーダーが死亡し、

他のメンバーは全員逮捕されてる。

刑務所に行くことは確実だろう。


大仁田組とグループAは健在である。

刑務所送りにすることは簡単だ。


だが大仁田組の更に上の組織があり

それが関東を仕切る緑龍会(りょくりゅうかい)に繋がる。

一掃しようとすると緑龍会との全面戦争は

避けて通れない。

刑務所にぶち込んだところで、大仁田組の連中が

刑期を終え出所した時には反撃されることも

考慮しなければならない。


また身近な人に不幸が訪れるのは避けたい。

岩井さんは死んだことになってるから安全だ。

それらを総合的に判断すると

大仁田組に手を出さないのが得策だと言える。


それは言い訳だ。

今のオレには復讐とか野心が欠如してる。

岩井さんを失い、どうでも良くなっている。

反撃しないのはそれが大きいのかも知れない。

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