(150) お互い別の道へ②
◇◇◇ 男子寮 ◇◇◇
オレは目を覚ます。
カーテン越しからの日差しが眩しい。
今日も天気が良さげだ。
そして右上の置き時計に視線を移す。
朝7時か。
久しぶりに良く寝た。
そう言えばノノンが起こしに来なかった。
来たら来たでウザいが、
来ないと寂しいものだな。
オレが寮に居ることをノノンは知らない。
だいたいオレがノノンを避けてたのだから
来なくて当然だろう。
「ん~ん」
オレの左サイドから女子の声がする。
まさか?
幽霊のノノンが寝ていた。
こいつ、いつから居るんだ?
また深夜に怖くて来たってことか。
カワイイって得だな。
このまま寝かしとくか。
寝ているノノンを横目に、オレはベッドで
ボーっと天井を眺めしてる。
やる気が起きない。
そして何度も考えてしまう。
岩井さんを生かして正解だったのかと。
もしかしたら彼女を苦しめてはないかと。
「起きたなら起こしてよ」
ノノンが目を覚ましたようだ。
「カワイイ寝顔だったんでね。
起こせないだろう」
そう言えば岩井さんの寝顔を見ることが
出来なかったなぁ。
「博士のエッチ!」
「自分でここに来て、それはないだろう。
また深夜、怖くなったのか?」
「博士が心配で来たんですぅ。
寮に戻ってて安心したけど。
起こすの可哀そうだから、
そのままにしてたらノノンが寝てしまったよ」
心配してくれてたのか。
良い奴だな。
「ありがとうな」
「博士っぽくない」
「そうかもだな。はぁ」
「元気ないぞ。
もしかして岩井さんの新しい
身体は失敗だったの?」
「いや、大成功だよ」
「なんだぁ、心配して損した。
今度は北海道に3人で遊び行こうよ」
能天気な奴だ。
「おそらく無理だ。
オレの正体が岩井さんにバレた。
化け物だとさ。そう言われたよ。
気味悪い目で見られ逃げ出した。
もう二度とオレには会わないだろう」
「えぇ、そうなの?
酷い。博士がどれだけユーリちゃんを
気にしてたか」
あれ?
どうしました。
ノノンさん、泣きそうですよ。
「博士が可哀そう」
オレまで泣きそうになるから止めて。
◇◇◇ 渋谷 ◇◇◇
ここはネットカフェの一室。
1人の女性が目を覚ます。
彼女は岩井さんだ。
ここで一夜を過ごしたのである。
時刻は朝7時。
時計を確認して朝であることを認識する。
ふと財布に視線を向け、中から2枚の
カードを取り出しす。
クレジットカードと国民健康保険証。
昨日から何度も見てる。
PMCの後藤さんから受け取った物だ。
保険証の氏名欄に、白川瑞葵と記載されていた。
どうやら自分は岩井ではなく白川に変わったらしい。
生年月日は変わらない。
住所はハルキと過ごしたマンションで記載されてある。
急にあなたは『白川』ですと言われても違和感でしかない。
生れ変わったというより、日本に潜入してる
工作員になった気分。
まぁ、国籍不明の不法滞在者よりかはましなのだが。
しかし、この身体は不思議だ。
自分の意志のままに動かせるし五感も感じれる。
普通の人間とかわらない。
他人から見たら当たりまえのようだけど
自分の身体でない岩井さんにとっては
当たり前ではない。
そして、昨日から悩み続けてることがある。
自分は人間なのか、化け物なのか、と。
ニーナが棺の中に居たことを思い出す。
もしかして、ニーナも私と同じ境遇なのでは
ということに気付く。
宇宙人はハルキ1人と手紙に記載されていた。
となると、ニーナちゃんも一度は死に、
自分と同じ境遇なのでは?と考えてしまう。
もし、そうだとすると彼女に同情する。
急に仲間が増えた気がしてきて
自分は1人ボッチではないと元気が湧いて来る。
悩みはまだある。
これからどうするか。
いつまでもネットカフェで暮らす
訳にもいかない。
だけど、あのマンションには戻りたくない。
昨日、橋の上を歩いた時、ふと飛び降りて
死のうかと頭を過った。
けど、怖くて行動に移せなかったのけれど。
死ぬこともできない。
もし死んだとしても、新しい身体に変えられるだけ
かもと考えたらバカらしくてできない。
自分は一生死なないのかも知れない。
そこはハルキに確認する必要があるけど
今は会いたくない気分。
クレジットカードは自由に使っていいとのこと。
月の上限は100万円だそうだ。
使えば次の月に自動的に振り込まれるのだという。
ハルキは田中さんだ。
分かっているのは宇宙人だということだけ。
それ以外で田中さんは何者なのだろう。
沖縄へのチャーター便を簡単に用意できる人だ。
財界の大ボスとは彼のことなのだろうか。
食べ物も宿もお金がないとどうにもならない。
PMCの後藤さんが現れなかったら、
カラオケに付いて行ってただろう。
それを考えると自由に買い物と食事に
ありつけるのは有難い。
ハルキを拒絶したとは言え、
サポートに関しては感謝してる。
自分の未来が不安でしかない。
今日明日、これから何をしたたいいのだろうか。