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(149) お互い別の道へ①

◇◇◇ 男子寮 ◇◇◇

時刻は17時。


オレは寮へと戻って来た。

久しぶりに我が家でくつろぐと

心が穏やかになるのを感じる。


ベッドがあるにも関わらず、

フローリングの上で仰向けとなる。


六畳一間で何もない部屋だけど

オレはここが好きだ。

世界が閉ざされている感じがして、

嫌な事から逃げられたような気になれる。


気を緩んだとたん、疲れが押し寄せて来た。

幸せだった日々が突然どん底に

落とされのだから。

何もする気がおきない。


岩井さんと別れたのは正解だ。

と、自分に何度も言い聞かせる。


好きな気持ちは変わらない。

今直ぐにでも逢いに行きたい。

だけどそれはできない。

彼女には、幸せになってもらいから。


小さい時から岩井さんは苦労してきたのだ。

なのに詐欺事件や拉致事件に遭い、

更には自分の身体を失うはめに。

なんて不幸な人なのだろう。

これは全てオレの責任だ。


これからは笑顔でいて欲しいと願ってる。

遠くからサポートするのを決意する。


♪ギィィ


突然部屋の扉が開き、カイが部屋の様子を伺う。


「お!居る居る」

「瞑想中なんだ。話し掛けるな!」


「オレと同じクラスの岩井(いわい)友璃(ゆうり)、知ってるだろう?」

「知らん」


事件の話がしたいのか?

もういいよ。


「なに言ってんだ。

 教室でお前を呼び出してただろう?」

「言いたいことは分かってる。

 要するに岩井さんが亡くなった

 話をしたいのだろう?」


「知ってんのかよ」

「ネットで大騒ぎだし、ニュースなってる」


「芸能人だったのも衝撃だったけど、

 エミリンと同じ事務所だってっさ。

 驚きじゃね?」

「ニュースで見たから全部知ってる。

 頼む。今、疲れてるんだ。

 続きは100年後にしてくれ」


「んだよ。つまらねぇな。

 告別式があるらしいぞ。

 一般人も参列できるってさ。

 一緒に行かないか?」


葬式はオレが用意したものだ。

多くの人に事件を知ってもらいたい

という願いから、一般公開の告別式を

やると事務所を通じて発表してもらった。


ニュースで取り上げられてトレンドになってる。

思惑通り成功はしてるが、結果正しかったのだろか?

分からなくなってる。

このニュースを岩井さんが見たら

どう思うのだろう。


「部活のみんなと行くのも変か。

 クラスが違って接点もないし」


葬式のマナーとか知らん。

カイの目的は他の芸能人に遭えるかもって腹だろう?

まぁ、それでもいいか。


「分かった。一緒に行こう」

「OK!」


カイが去り、部屋は静寂へと戻る。

嵐のようなやつだ。


◇◇◇ 渋谷 ◇◇◇

時刻は21時。


人通りから少し離れた路地を

ある1人の女性が歩いている。


挿絵(By みてみん)


その女性は立ち止まり壁へと寄りかかる。

何をするかと思いきや、左足のサンダルを脱ぎ

足の親指と小指の側面が真っ赤であることを

確認したのである。


彼女は岩井さんだ。

発着室から逃げ出して、歩き回って

渋谷まで来てしまったようである。


靴は自分の物だがサイズが合わない。

だって身長が大きいのだから。

靴ズレをおこしてしまい歩くのが痛い。

最悪な事に財布も携帯もなく手ぶらである。


「キミ!ここで何してるの?」

「1人?可愛いね」


ちょうどその場を通り掛かった2人組の男に

声を掛けられた。

見た目は20代前半でチャラい感じ。

岩井さんは、脱いだ靴を履き直す。


「オレらとカラオケどう?」


明かにナンパである。


「結構です。行くところありますから」

「お友達のことろ?

 なら友達も連れて来なよ」


「お金、無いから遠慮します」

「もちろん、オレ達が出しますよ」


お金を出すという言葉に岩井さんの心が揺らぐ。

正直お腹が空いてて、今晩泊まるところもない。

朝までカラオケもありかも、と感じ始めてる。


「いいじゃん。ちょっとだけ。ね?」


男どもの軽い受け答えに本当にカラオケだけ?

と疑い、拉致の恐怖が襲い掛かる。


「別の人に声を掛けてください」

「そんなこと言わずにさぁ。

 1時間だけ、ね?いいしょ?

 飲みに行くでもいいよ」


「私、未成年です」

「ウソだぁ」


「あなた達と付いて行きません。

 しつこいと警察呼びますよ。

 どっか行って!」

「ちょっと待って!

 オレらを誤解してません?」


「嫌がってるだろう」


突然、彼ら会話に黒服の男割り込んで来た。


「誰だ?おめぇ!」

「後藤さん」


岩井さんは思わす、黒服の顔を見て名を呼ぶ。


「んだよ。知り合いかよ」


黒服は1人だが、身長が180あって

明らかに体格がいいのが伺える。

2人組みの男は舌打ちして去ることに。


黒服は、岩井さんの知る人物であった。

ここ2週間、運転手兼ボディーガードを

してくれてた人なのだから。


遠くに離れて行く2人組みの背中を確認し。


「助けてくれて、ありがとうございます」


岩井さんが感謝を述べる。

だが次の瞬間、ある事が頭を過る。


「もしかしてハルキなの?」

「こちらを」


黒服から手紙が差し出される。

その手紙はハルキからものであった。

内容は、二度と岩井さんの前に現れないというと、

宇宙人はハルキ1人だけなので

ボディーガードは怖がらないで欲しいということ。

自宅マンションは継続して使って欲しい

というのが記載されてあった。


『二度と会わない』という文字に動揺する。


続けて黒服から見覚えのある物が差し出された。

自分の財布と携帯である。


携帯は真っ二つ折れてて動くとは思えない。

瓦礫の下敷きとなった際に折れたのだろう。

この携帯を見ただけでも、事故当時の

衝撃が伝わって来る。


「携帯はいらないです」


岩井さんは財布だけを受け取る。

その際、黒服が次の言葉を付け加える。


「マンションのカギを入っておきました」


財布の硬貨入れに自宅として使っていた

マンションのカギが入っている。


ただ、あのマンションにはハルキとの

思い出が詰まっている。

岩井としての物も。


自分は、何者なのだろうと悩む。

岩井は死んだ。この身体も岩井ではない。

なんだか異国の地に1人放り込まれた

ような気分がして急に孤独感を感じる。


今日はマンションに戻らないと

決意するのであった。


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