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(147) 異世界ループ

◇◇◇ とある一軒家 ◇◇◇

時刻は15時半。


「細倉さん?細倉さん?」


オレを呼ぶ声。

ふと気付くと周囲の景色が変わっていた。


室内!?

スクラップ工場じゃない。


声の主は岩井さんのマネージャである。


「もう終わりましたよ。

 帰る準備をしましょう」


あれ?見覚えのある場所。

写真集の撮影現場じゃん。

夢を見ていたのか?


「全てOKで~す」


♪パンパン (手を叩く)


「はーい、注目!全て完了しました。

 急いで撤収作業お願い。

 怪我のないように」


多くのスタッフが一斉に動き出し、

機材や小道具の片付けとセットの解体が始まる。


夢で見たのと同じ。

予知夢?デジャビュってやつか。

確かこの後、衣裳室から出て来るはず。


「お待たせ」


あぁ、岩井さんだ。

笑顔の彼女がそこにいる。

生きてる。生きてるよ。


「また会えて嬉しい」

「どうしたの?変だよ」


おちつけ、あれは夢じゃないか。


「ずっと側に居たいなって」

「なら私のマネージャーになりなよ。

 そしたらズーっと一緒だよ」


あれ?

気持ち悪いくらい夢と同じだ。


「クソガキだから務まらないよ」

「そうかなぁ。向いてると思うけど。

 高校卒業したらどうするの?」


やばい!あれが現実に起こるのか。

会話を変えないと。


「まだ考えてない」

「大学行けるなら行った方がいいよ」


返答を変えても、

岩井さんの受け答えは変わらない。


「バッグ取って来る」


拉致される!

本当か?拉致されるのか?

あれは夢だよな。冷静になるんだ。

こんな場所で堂々と拉致するか?


いや、念には念を。

事実を説明して逃げよう。


岩井さんの腕をつかみ止める。

そして、オレは耳元でささやく。


「聞いて、オレ達は今狙われてる。

 バッグはボディガードに取りに行かせるから」


岩井さんの表情が変わる。

本当のなの?って顔だ。

オレが真顔で首を縦に振る。


「急いでこの場から離れよう」


岩井さんの手を握り、

引っ張る形で玄関から庭へと出る。

石畳の一直線を歩き門を抜ける。

よし助かった。


「よう、兄ちゃん」


路地に出たところで、

見知らぬ声に呼び止められた。

声の主を確認しようとした時。


「きゃぁ~」


岩井さん、どうした?

脇腹が熱い。

見るとその熱い部分にナイフが刺さってる。

目の前の男がオレを刺したのだ。


「彼女、お借りしますね」


その男には見覚えがある。

拉致グループの1人だ。

ここにも居たのか。


「次の再会は地獄かもね」


脇腹のナイフが抜かれ、

今度は(のど)に刺し直す。


オレはその場に倒れる。

やばい、身体が動かない。

岩井さんを助けないと。

意識が遠くなる。


・・・


◇◇◇ 発着室 ◇◇◇

あぁあぁ。

驚いてソファーから起き上がる。


いつの間にか眠ってしまったようだ。

いやな夢だった。

異世界ループものの見過ぎだな。


刺されたのは夢だったのだ。

携帯を手に取りニュースを確認する。

岩井さんが瓦礫の下敷きとなって

亡くなったのは事実である。

何度見返しても昨日の事件は夢ではなく現実。

こちらも夢であって欲しかった。


ふふふ。はぁ~。


あまりにも非現実過ぎてニヤケてしまう。

でも夢でも嬉しいよ。

岩井さんとまた会話が出来たのだから。

小さく(やわ)らかい手だった。

まだ握った感触が残ってる。


オレの頬に一粒の涙が伝わる。

抱きしめればよかった。


時刻を確認する。

15時か、10分しか寝てなかったようだ。


事件は昨日の夕方に起こった。

岩井さんは有名ではないにしろ、

芸能人が拉致され殺されたのだ。

各局で事件が取り上げられている。


オレの名は今のところ報道されてない。

日本経済を操っている前田に頼んで

報道機関にはオレをPMC社の1人として

扱うよう裏で手を回してくれたからだ。

なので、ニュースは岩井さんと不良グループ

そして警備会社のPMCしか居なかった

かのような印象になってる。


あの現場には不良グループが5名いた。

フォークリフトを操縦したリーダは

瓦礫の下敷きとなって死亡したそうだ。

残りの4名は逮捕され事情聴取を

受けている模様。


PMCは全面的に捜査協力をしている。

それによって、代々木公園での拉致未遂も

同一メンバーによる犯行と明らかとなり

新宿の拠点も警察の捜査範囲が広がって

残りのメンバーも逮捕されることとなった。


なぜ、岩井さんを襲ったのかは、

これから明るみになるだろう。


警察の事情聴取を終えた後、

研究室とを繋ぐ、このマンションへ直行した。

幸いにも、すり傷と打撲程度だったから

病院には行ってない。


ここは6体のホムンクルスが置かれてる発着室。

棺は7体分設置してあり、

1体は先日のグループAによる襲撃で

殺されたため空きとなってる。


昨夜、急遽1体の女体のホムンクルスが

緊急搬送され、加えられることに。

技術者に頼み、急ピッチでその女体を

使えるようセッティングしてもらい

先ほど完了したところだ。

技術者は撤収し、現在ここの部屋には

オレしかいない。


昨日から一睡もしてなく、

疲れからかソファで休憩したら

いつのまにか眠ってしまい今に至る。


新しい女体は10代の細身タイプ。

黒髪の日本人で、背が高く170ちょいある。

ハルキとほぼ同じだ。


(ひつぎ)の側面にあるパネルを確認し、

全項目のステータスが『OK』であることを

再確認する。


これからこの女体を動かそうとしてる。

ドキドキの瞬間だ。

恐る恐るOPENボタンを押す。


♪ウィーン


棺の扉がゆっくりと開く。

頼む動いてくれ。

完全に扉が開ききったが女体はピクリともしない。

側面を再度確認するもステータスは『良好』。

問題はない。


まぶたが微かに動くのをオレは捕らえた。

そして、ゆっくりと目が開くのを見て安心する。

オレは覗き込むようにして話し掛ける。


「オレが誰だか分かるか?」


すると女体はオレの顔を認識するや否や

飛び起き抱き付いたのだ。


「ハルキ!」


よかった。岩井さん、生きてる。


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