(133) 岩井さんとノノンがピンチです②
◇◇◇ 代々木公園 ◇◇◇
岩井さんとノノンは6名の不良集団に囲まれ
指示されたワンボックスカーの前まで歩き
あっと言う間に到着してしまった。
ノノンは博士が助けに来てくれるから
平然な態度を装っていたが、いざ車を前にして
焦りを感じる始まる。
これに乗ってしまったら『助からないかも』
というのが頭を過る。
リーダーが車のサイドドアを開ける。
車内には誰もいない。
どうやら、ここにいる6名が全員のようだ。
不良の1人が運転席へと乗り込む。
「さぁ、どうぞ」
リーダーは岩井さんに乗ってくださいと案内。
岩井さんの後ろにはノノンがおり、
残り4名が2人が逃げないよう囲んでいる。
岩瀬さんの頭の中では、乗ったら終わり、
拒んだら痛い思いをする、というのが錯綜し、
片足を車に乗せたところで動きが止まってしまった。
「どうした?乗れ!」
♪ウー(サイレン)
車1台を挟んで真後ろにパトカーが出現。
♪そこの君たち、その場を動くな!
パトカーの拡声器から警官による指示が出る。
パトカーが止まると2人の警官が上部席から
同時に降りる。
「キャッ」
リーダーは、岩井さんを抱えて強引に乗り込む。
♪バタン
まだ仲間の4人が外にいるにも関わらず
ドアを閉めてしまったのだ。
「早く車を出せ!」
♪キュルキュル
「待て!」
警察官の言葉に耳を貸さず、
岩井さんを乗せた車は急発進する。
車内では、岩井さんが窓際にへばりつき
真横に座るリーダーがナイフを当てている。
「動いたら刺す」
取り残された不良4人は、ノノンをその場に
残し、二手に分かれて走り去る。
♪ウー、ウー
続けて2台のパトカーが到着するも停止せずに
現場を通り過ぎていく。
どうやらターゲットの車を追跡するようだ。
外に出た警官の1人はノノンを保護する。
もう一人の警官は、片側の2人組みを追うも
距離が離されて行き追いつけそうにもない。
◇◇◇ 車中 ◇◇◇
「降ろして下さい」
「静かにしろ!」
リーダーは服の上からナイフを当てている。
乱暴な車の運転で、車内が激しく揺れ
岩井さんが動かなくとも、いつナイフが
刺さってもおかしくない状況にある。
ワンボックスカーは、次々と車を抜き去り
もの凄い勢いで大通りを疾走する。
運の良いことに信号がちょうど青のまま
止まらずに進められている。
♪ウー、ウー
パトカーが追っては来ているが音が遠ざかる。
かなり後方を走ってる模様。
岩井さんはサイレンからパトカーが追いかけて
来てるのを把握し『警察が助けてくれる』
と希望を持っていた。
だが、そのサイレンは徐々に遠ざかり、
やがて聞こえなくなる。
岩井さんは希望から絶望へと変わり青ざめる。
日本の警察は優秀で、前方で待ち伏せてる
と期待していたが、一向にその兆しがみえない。
どうやら警察の包囲網から逃げ切れた様子。
「兄貴!黒い車に付けられてる」
運転手がバックミラーで後方を確認すると
同じような無茶な走りで追跡してくる
黒塗りのハイヤーが確認できる。
リーダーもリアウインドウ越しに、その車を把握する。
「あの車はなんだ?」
岩井さんは窓から後方を眺め、
その車を確認すると目を大きく見開く。
なんと、いつも仕事現場まで送迎して
もらってる車と同じ車種だったのだ。
もしかしたらボディーガードが助けに来て
くれたのかも、と絶望から淡い期待へ変わる。
リーダーへは無言で首を左右に振り
知らない車であるとアピール。
ついに次の信号が青から赤へと変わった。
前方を走る車が次々に減速していく。
このままでは停止せざるおえない。
もし停車したら黒塗りの車に捕まってしまう。
「そこを曲がれ!」
大通りから脇道に入るようリーダーが指示を出す。
「よし曲がった。103、そのまま直進」
「了解」
ターゲットを追跡する車中にて
オレは後部座席で1人、タブレットを片手に
各車に指示を出していた。
追跡してる車は、岩井さんの想像通りPMC社だ。
オレは5台の車を使って、
犯人を追い詰めていたのである。
「104、次を左折。
3つ目の十字路で停車」
「了解」
タブレットには周辺マップが表示され、
ターゲット者とPMC車の位置が
リアルタイムで示されている。
PMC社は、至る所に監視カメラを設置して
あるので、一旦ロックオンしたら
どこに居るかはリアルタイムで把握できる。
なのでPMC社が参加した時点で逃げ切る
ことは不可能となっていた。
「兄貴!やばいっす」
正面前方にある十字路で、道を塞ぐようにして
停車している1台の車が伺える。
走っている道路は2台がぎり通れそうな車幅。
十字路の車を避けて通ることはできない。
しかも車はバリケードとして使用されてて
黒服の2人が外に出て銃を構えてる。
運転手がバックミラーを確認すると、
後方からも車が迫ってる。
「兄貴!後ろからも来てる」
リーダは挟み撃ちされたことに気付く。
相手は銃を所持。普通ではない。
今度は不良どもが絶望を味わうことに。
♪キー
ワンボックスカーが急ブレーキをし、停車する。
「どうした?」
リーダーが運転手に停車させた理由を求めると
運転席は返答ぜず車から飛び出して逃走してしまう。
「お前、何者だ?」
リーダーは、奴らが何者か問うも
岩井さんは知らないと首を左右に振る。
この少女はタダのアイドルではないのか?
リーダーは動揺する。
バックにヤバい組織がついてる。
「くっそ!」
リーダーは険しい顔でスライドドアを開け
岩井さんを残して飛び出してしまった。
車内に残るは岩井さんだた1人。
スライドドアが開いたままなので、
今なら逃げ切れる。だが身体が動かない。
他の車が真後ろに停車したのが聞こえる。
ボディーガードが助けに来てくれた。
確認はしてないが状況から間違いない。
岩井さんは大声で助けを呼ぼうとするも
声が出ない。
そんな時、ある人物がドアの前に姿を現す。
「岩井さん!怪我してない?」
ハルキだ。ハルキが助けに来たのである。
予想をもしてなかった出来事。
強張っていた全身の力が解け、自然と涙が溢れ出す。
白馬の王子様が助けに来てくれたとは、
まさにこの事だろう。
ハルキに心情を吐露したいが言葉が出せない。
オレは車内に飛び込み、恐怖に怯える岩井さんを
強く抱きしめる。
「怖かったね。もう大丈夫」
岩井さんはハルキの胸に埋もれた状態で
首を縦に振って答えるのがやっとであった。
♪ウー
数秒してパトカーもこの場に駆け付けた。
仲間の諜報員たちは、パトカーが来たのを
確認し、この場を去る。
ここに残されたのはオレと岩井さんだけ。
ワンボックスカーに居るオレら2人を
警官が見つけ保護してくれた。
直ぐにパトカーへと移り、岩井さんを安心させるため
オレも警察署へ同行したのである。
そして数分後には、この事件が国内を駆け巡る。
♪緊急速報です。
つい先ほど、芸能事務所アーツファクトリ
の所属タレントであるユーリさんが
拉致被害に遭われました。・・・