(125) ノノン、番組出演します①
◇◇◇ カフェ ◇◇◇
時刻は16時。
「ちょっと博士!どうしてノノンが
テレビに出ることになるんですか?」
「テレビじゃない。ネット番組だ」
「同じよ」
「大したことではないだろう」
アーツ事務所を出て、オレとノノンは
カフェで休憩しているところ。
「大したことあります。
顔出しだよ。映るんだよ」
「いいじゃないか映ったって。
Vtuberみたいなもんだろ?」
「全然違いますぅ。秘書は嘘だったんだ?」
「あぁ、番組出演って言ったら
事務所に来なかっただろう?」
ノノンをアーツに連れてきたのは
番組に出演させるため。
まんまとオレの策略にハマったということだ。
「あぁ、ノノンを騙した。
ひどい。ひどすぎる」
「そういう割には、出演するって
自分で返答したではないか」
「あの状況で断れないでしょ」
「記念に出ろよ。
なかなかないぞ、こんな体験」
「またノノンを騙そうとしてる」
「人数合わせの番組だから。
一言も発言しなくていいと
社長にも言われただろ?
ニコニコしているだけだ。楽だろう?」
「怪しい」
学校の下駄箱でノノンを待っていた時のこと。
アーツの社長から女子を1人アテンド
できないか、あの時メールが来たのである。
放送は、本日19時から。
アニソン関連の生放送だという。
そして、ノノンが下駄箱に現れた時、
ここに居たと思ってしまった。
アーツ社に付いてくるかカマ掛けたところ
見事引っかかったという訳だ。
「番組出なきゃダメぇ?」
「制作サイドに伝えてある。
もう止められない」
「げぇ」
◇◇◇ スタジオ ◇◇◇
時刻は18時。
六本木にある、とあるスタジオ。
「あぁ、緊張してきた」
「もう?早すぎだろう。
放送まで、まだ1時間もあるぞ」
「もう1時間しかないよ」
オレとノノンはスタジオ入りし、
指定された待合室で待機中である。
部屋にはノノンとオレの2名しかいない。
♪コンコン
誰かが来た。
「失礼します」
岩井さんの登場だ。待ってたよ。
「田中さん、おはようございます」
「私は怪しい人物ではないと
認めてくれたのかな?」
「いえ、挨拶はこの業界では当たり前ですから」
確かにな。
ノノンが目を丸くしてる。
当然だろう。
彼女も出演するとは伝えないのだから。
岩井さんがノノンへ視線を向ける。
「えーっと、ニーナです」
「こちらが代行となったニーナ君。
素人で今日が初出演なんだ。
同じ事務所だから、いろいろと
教えてあげて欲しい」
「日本語は話せますか?」
おっと、そうだった。
確かに日本人には見えない。
「こう見えて、日本語しか話せない。
その前に緊張しまくってて、
まともに会話できないでいるんだけどね」
「ユーリです。よろしくね」
岩井さんがノノンの両手を掴む。
「そんなに緊張しなくて大丈夫よ。
席は私の隣だから。
今日は観覧者は居ないし、
歌手が間近で歌ってくれるの。
絶対に楽しいと思うよ。
観客としていっしょに楽しも!ね?」
「うん」
流石は岩井さん。
ノノンの緊張をほどいてくれた。
頑張れノノン!
「いろいろ聞いていい?」
ノノン、前向きでいいね。
「何でも聞いて」
岩井さんも後輩が出来て気分いいのかな。
活き活きしてる。
ノノンを連れて来たのは正解だったようだ。
「放送中はどこ見てればいいの?」
「その時はねぇ」
2人の姿を見て安心した。
もう大丈夫だ。
「ちょっと打合せしてくる。
ニーナ頑張れよ」
そう言い放ってオレは待合室を出る。
オレが居ない方が、2人の会話が弾む
だろうと考えての行動だ。
2人の距離が縮めば放送は成功する。
・・・
スタッフからお呼びが掛かり
2人はスタジオへと移動する。
オレもマネージャーとして付いていく。
そして、緊張の生放送が開始。
ひな壇には女性2名とオタ芸人の男性5名
という構成。
2名の女性は当然、岩井さんとノノン。
番組は、基本的に数名のアニソン歌手と
司会者がトークをし、生歌を披露するという流れだ。
ひな壇に出番はない。
ノノンは、マスコット的な存在として配置
されてるため、司会者からコメントを
求められるようなことはない。
対して岩井さんは根っからのオタクだ。
逆に会話に割り込んで岩井節をさく裂してくれた。
バランスの良い人選であったと自負してる。
ノノンをここへ連れて来た本当の目的は、
岩井さんに友達を作ること。
人が足りないからノノンを騙したのではない。
ノノンが何でも相談し合える
友達になっていれたらと連れて来たのだ。
そして、ノノンにとって、この番組出演が
いい思い出になってくれたらと願ってる。