(122) 岩井さん、元気プロジェクト②
◇◇◇ ホテル ◇◇◇
ここは最上階のスイートルーム。
オレと岩井さんはホテルのバーへ行くため
着替えるのに立ち寄ることに。
2人とも準備は完了。
いつもとは違う格好に自然と背筋が伸びる。
お互い上流階級になった気分。
「では行こうか」
オレは扉を支えながら開け、
岩井さんに外へ出るようジェスチャーする。
廊下に出たのを確認し扉を閉める。
岩井さんはオレの左隣に位置し、
密着した形で腕を組む。
そして、歩き出す。
オイオイ。
これってドラマで見るやつじゃん。
オレってジェントルマンじゃね?
ハルキの身体でも意外と様になるな。
<<どこいくの?>>
台無し。
ノノンさえいなければ。
「BARでいいよね?」
「今更?
私はどこへでも付いて行きますよ」
クー、たまんねぇ。
レディーを演じきってますね。
惚れちゃいそうだ。
いかん、いつもの病気が発動しだした。
<<きゃぁ、もう見てられません。
ノノンは帰ります。
明日はちゃんと部活来てよね>>
どうした、ヤキモチか?
<<ハルが来ないとノノン浮いちゃう。
カイくん苦手だし>>
そっちかよ。
言い切ってノノンは消滅する。
今は岩井さんに集中。
◇◇◇ ホテルのBAR ◇◇◇
スイートルームの2つ下にはBARがある。
オレらはエレベータで降り、入店する。
店内は薄暗く、大人な雰囲気が漂っている。
ウェイターに窓際の席を案内され
席に着くなり、2人して外を眺める。
東京の夜景が一面に広がり、
まるで光の雲の上に居るかのようだ。
上空から眺めるのとは、また違って見える。
注文は、メニューを見ずに適当に頼んだ。
オレはこのホテルでVIP扱いされている。
メニューになくとも可能な限り作って
もらえる待遇にある。
「今日はありがとう。
セレブってこんな感じなのかしら。
二度とない体験です」
「落ち込んでる感じだったから
非現実的な事をすれば現実逃避
できるかなって」
「へぇ」
そんな目で見るな!
「慣れてますよね。
いろんな娘と来るの?」
やべぇチャラ男認定されたか。
貧乏学生であることを思い出せ!
「雰囲気に呑まれてるだけだって。
こんな格好でこんな店に来たら
ドラマのようなこと、
誰だってしたくなるよ」
「ふ~ん」
信じてもらえてない?
「ストレス溜めないでさ。
やな事があったら言ってよ。
いつでも聞いてあげるから」
「大人よね」
だって見た目は子供、頭脳はオッサンだからね。
あれ?
このフレーズ、聞いたことある。
注文の品が届く。
岩井さんにはトロピカルジュース。
オレにはアイスティが置かれた。
更にテーブルの中央に、チョコ、クラッカー
などのつまみ類が置かれる。
お酒が飲みたいところではあるが、
2人とも未成年だ。
ここはガマン。
「乾杯!」
お互い、グラスを持って乾杯。
この後は、ヘリの感想や
岩井さんの仕事の話題で盛り上がった。
やはり岩井さんと会話するのは楽しい。
時刻は深夜1時。
部屋へと戻る。
会話がはずみ、こんな時間になってしまった。
来た時の服に着替え直しリビングへ。
「シンデレラの魔法が解けたみたい」
お互いの服装を見て現実に戻る。
「帰ろうか。またここに来よう。
田中さんに言っておく」
本当は泊まって行きたいところだが、
それを言う勇気がない。
「部活があるんだっけ?」
「今日は楽しかった。またどこか行こう」
帰りは、行と同じPMCの車で岩井さんの
マンションまで送り、そして寮へ。
到着したときは午前3時を回っていた。
◇◇◇ 男子寮 ◇◇◇
寮へ戻って来て、ホテルに泊まらなかった
ことを後悔する。
あの流れなら岩井さんはきっとOKしたはず。
同じ部屋で寝ることになり
今ごろはムフフな関係になっていただろう。
などと妄想しならが、薄暗い寮の中を
さまよい、自分の部屋へとたどり着く。
ドアを開け、電気をつける。
「うわぁ~」
「幽霊!」
<<ノノンは天使です>>
幽霊のノノンが部屋に居たのだ。
「脅かすな」
<<今まで何してたの?>>
お前はオレの母親か!
<<やらしい>>
そんな目で見るな!
「お茶しただけだ。
会話がはずんでこんな時間になっただけ。
エッチなことするなら帰ってこねぇよ」
なに言い訳してるんだ?
<<ちゃんと部活来てよね>>
オレが居ないとノノンが浮くから
わざわざ言いに来たのか。
「行くから安心しろ」