(121) 岩井さん、元気プロジェクト①
◇◇◇ ホテル ◇◇◇
岩井さんをピックアップして走ること30分。
高級ホテルの入り口で車は停車した。
「楽しいところってホテルなの?」
「さっ、降りて」
<<ハルと泊まったホテルだ。
直行でホテル?博士、いやらしい>>
だからノノンには来てほしくなかったんだ。
何を説明しても無駄だ。
無視無視。
「用があるのは屋上」
「えぇ~」
<<えぇ~>>
2人して同時に言うな。
エロい事は考えてません。
オレらは既にロビーの中。
見上げたところこで、屋上は見えなく
金色に輝く巨大なシャンデリアしか確認できない。
「レストランを予約したの?」
「それはお楽しみ」
エレベータに乗ってRボタンを選択。
すなわち最上階ではなく本当に屋上へ行くのだ。
♪チン
到着すると、警備員が待機しており
オレと目が合うと一礼。
「お待ちしておりました。
こちらになります」
オレの返答を聞く前に挨拶して背を向ける。
ここは小さな室内。
物がなく反対側に鉄製の扉があるだけだ。
「ねぇ、大丈夫なの?」
そりゃ不安になるわな。
怪しさ満点だ。
だがこれはオレが計画したもの。
オレは笑顔を見せ、岩井さんを安心させる。
♪ヒューヒューヒューヒュー
<<何の音?>>
その音は、エレベータを降りた時から
微かに聞こえていた。
警備員の手によって鉄の扉が開くと
その音は大きさを増していく。
扉の先には、なんとヘリコプターが待機していた。
プロペラがゆっくりと回転してて
今にも飛び立ちそうな状況だ。
そう、ホテルの屋上はヘリポートになっていたのだ。
「東京の夜景をご案内致します」
<<すごーい。見たい見たい>>
ノノンに用意したんじゃないんですけど。
岩井さんは驚いてる、ご様子。
首を縦に振って答えてくれた。
オレらがヘリに乗り込むと直ちに離陸。
「これ、ハルキが用意したの?」
「そうだけど。正確には田中さんか」
「あなた、一体何者なの?」
「細倉コンツェルンの御曹司
って言ったら信じます?」
「何それ!石油王とかってこと?」
岩井さんはクスクスと笑う。
元気でたかな。
「オレは貧乏学生の一般人です。
田中さんが凄い人なんですよ」
そして、ヘリは上空へと舞がる。
<<ハル!外見て。綺麗だよ>>
『人がゴミようだ』とか言うなよ。
岩井さんは外の風景を見てない。
もったいない。綺麗なのに。
オレは下の方を眺めるよう指を差す。
すると大胆にもオレの手を握ってきた。
岩井さんは窓に顔を寄せ下を覗く。
と同時にオレを握る力が強くなる。
あなた、意外と積極的だね。
「私、高いところ苦手なの」
そっちかよ。
乗る前に言ってくれ!
企画失敗だ。
真夏とはいえ上空は寒い。
オレは岩井さんと身体を密着させ、
2つのブランケットを2枚重ねの1つにして
2人でくるまった。
<<きゃぁ~、不純異性交遊だ>>
小学生みたいなこと言うな。
いいだろう密着ぐらいさせろよ。
たまには、オレにも美味しい思いさせろ。
東京の夜景は奇麗だ。
何度見ても見飽きない。
上空からの眺めは、また一味違う。
ウララと見た夜景がフラッシュバックする。(*1)
しかし、見る度に思う。
人間はよくこんな物 (建築物)を作った
と感心させられる。
岩井さんの感想が聞けてない。
怖いからだろうか、オレを握る手に
力が入り続けてる。
楽しめてるのだろうか。
それが気がかりで集中できない。
ノノンは子供のようにはしゃいでやがる。
ノノンだけでも楽しんでもらえたなら
それでいいか。
30分のツアーはあっと言う間に終了。
オレらは元のホテルへと戻って来た。
そして、1つ下の階へと降り、
いつもの部屋へと入る。
「スイートルームに入ったの初めて」
目を丸くする岩井さん。
良いリアクションだ。
「下の階にバーがあるから、
そこでお茶しよう」
<<ちょっと!
未成年にお酒飲ませてどうする気よ。
エッチなこと考えてないでしょうね?」
お茶だって言っただろ。
未成年に酒飲ませるか。
オレは岩井さんにゲスト用の部屋を案内する。
ウォークインクローゼットに
洋服と靴、アクセサリ類がそろえてある。
「どれでも好きなの使っていいですよ。
カジュアルな格好でバーに行こう」
「どれ選んでもいいの?」
「もちろん。
全て岩井さんのために用意した物だから。
サイズも合ってるはず。
もし、気に入ったのがあったら
持って帰っていいってさ。
って田中さんが言ってた」
部屋を出て、自分用の寝室へと行き
オレも着替える。
格好はチノパンに長袖シャツ。黒系で統一。
入り口で待つこと10分。
岩井さんが薄紫のワンピースで登場。
化粧もしてる。
コスプレとは違う表情を見せてくれた。
大人の女性がそこにいる。
あなたは美しい。
「いつもそういう格好すればいいのに」
<<ノノンと一緒だ>>
本気で言ってる?
「オレが着るとダサくないですか?」
「そんなことないよ」
<<そんなことない>>
お世辞だと分かってても嬉しいものだ。
オレは改めて岩井さんを上から下へと
舐めるようにして見る。
「凄くきれいす。
とても同級生とは思えない」
「もしかして、私に惚れちゃいました?」
「オレにはもったいないって感じ」
「そんなことないわよ」
電話の時、落ち込んでたようだったけど、
モヤモヤは晴れたのかな。
車中では元気なさそうだったけど、
今は笑顔を取り戻してる。
(*1) ウララとは過去に知り合った女性で、同じヘリコプターで一緒に夜景を見たことがある。