(120) 岩井さん、病んでますよ
◇◇◇ ハルの部屋 ◇◇◇
時刻は21時。
「明日の10時、空いてる?」
岩井さんからの電話である。
お誘いのようだ。
夏休みで基本的に暇なのに、
なんてタイミングの悪い人なのだろう。
「ごめん。明日は9時から部活」
「嘘ついてる。
私と会いたくないんでしょ」
なぜそうなる?オレの彼女かよ。
いつから面倒くさい女になった?
「本当だって。
夏休みは毎週水曜日が部活なの」
「部活入ってただなんて初めて聞いたよ。
今作ったでしょ?」
「作ってない、本当だって」
「何の部活してるよ」
「何ちゃら研究室!?
活動はよくわからん」
「ほら作ってる。もう」
<<誰と電話してるの?>>
もう1人面倒くさいのが現れた。
ノノンだ。
なぜこのタイミングが現れる?
わざとか?
「えっとなんだっけ?
部活名だっけ?
えーっと」
<<超常現象研究部じゃなかった?>>
「そうそう。超常現象研究部」
会話すればするほど岩井さんへの不信感が
募るばかりだ。
「誰か側に居るの?」
女って鋭いなぁ。怖ぇ。
「誰もいないよ」
<<嘘つき>>
あなた幽霊だろ!
人にカウントされません。
「とにかく、明日は部活だから
明後日以降の予定はどうなの?」
<<明後日はランド行くでしょ?>>
あ!
<<テスト終わったら行くって
約束したじゃん>>
心が折れそうだ。モテモテ男は大変です。
「23時以降ならいいけど?」
だから深夜はまずいって。
写真撮られたばかりでしょ。
「そのまま家に泊まってって、
いいけど」
あなた、どうしちゃいました?
仕事で嫌な事でもあったのかな?
根本原因は、友達がオレしかいないってことだ。
なんとかしないと。
「記者に見張られてるかもだから
会うのは日中にしようよ。ね?」
「ずーっと1人だから寂しいの。
仕事も分からないことだらけで
もうパニックだし。
5分でいい。顔みれれば頑張れる」
ヤバい、岩井さんが精神的にまいってる。
愚痴を聞いてくれる相手を探してるのか。
ここでオレが助けないと、二度と岩井さん
から連絡が来なくなる気がする。
それはいやだ。
「今からマンションに行くよ。
ちょっとだけ、出かけませんか?」
「来るの?」
「オレも岩井さんに会いたい」
「本当に?」
「本当だよ」
「うん、待ってる」
<<えぇ!今から行くの?
21時だよ>>
「直ぐ出れるよう着替えておいて」
「分かった。
どこに住んでるか知ってるの?」
「田中さんから聞いてる。
着いたら電話するね」
オレは電話を切った。
<<博士、エッチだ!
エッチな事考える
「おちつけ。
岩井さんは1人で芸能の仕事をしている。
右も左も分からずにストレス溜まって
爆発しそうな状態だ。
だから助けに行きたい。
バカなこと言ってないで戻れ!」
<<ノノンも付いて行く>>
来るのかよ。帰ってくれないかな。
オレは人差し指で星マークを描く。
その仕草は、ノノンがいつも乃々佳に
戻るときに使ってる呪文である。
<<あぁ!>>
くっそ、オレでは戻せないのか。
◇◇◇ マンション前 ◇◇◇
時刻は22時。
岩井さんのマンション前に到着した。
オレは、PMCのハイヤーを使って
車で迎えに来たのである。
<<高そうなマンションに住んでるんだね>>
ノノンも付いて来てしまった。
帰ってくれないか。
岩井さんが入り口から出て来るのを確認。
オレは後部座席の窓を半分だけ開ける。
岩井さんは直ぐに気付く。
「車なの?」
「乗って!」
言われるがまま車へ乗り込む。
「この車、移動で使ってるのと同じ」
「そうだよ。同じ警備会社の車」
岩井さんがどうしてって顔してる。
「田中さんにお願いして借りてきた」
「田中さんとはどいう関係なの?」
「聞いちゃいけないんだっけ?
来てくれたからいいや。」
「大げさな。いつでも会うって。
明日は本当に部活なんです」
「何て部活だっけ?」
「なんちゃら研究部」
その『嘘つき』って顔、やめろ。
「で?こんな時間にどこ行くの?」
「楽しいところ」