(012) ドキドキの初夜です②
ふと横目で時刻を確認すると0時を指していた。
もうそんな時間か。
楽しい時間はあっという間。
明日も学校だ。
「切りいいし。そろそろ寝よう」
寝ようって気軽に口走ったけど、
ノノンに面と向かって言うと恥ずい。
一緒に寝ることになるのか?
こんな狭いベッドで?
幽霊って寝るの?
そう言えば昼間カッツリ寝てたな。
もしかして夜型で、夜中は起きてるとか。
「えぇー。やめちゃうの?」
「続きは明日にしよう」
「やだぁ、もうこんな時間!」
オイ!どうした急に。
幽霊に時刻なんて意味あるの?
「気付いてなかったのか?」
「終電ないよ。帰れない。どうしよう」
終電コントですか?
「ここ泊まってけばいいじゃん」
「親に怒られる」
「友達の家に泊まるってメールしなよ」
「寝るとこないし」
「ベッドで寝なよ。オレ床で出るから」
「着替えなし。お風呂にも入りたい」
この人、何言ってるの?面白過ぎだろう。
「ハハハ」
「ハハハ」
リアルのカップルって、こんな感じなのかな。
「お前面白いな」
オレに彼女が出来たら、こんな感じになるのだろうか。
堀北さんとこんな風になれたら
どんなに幸せだったろうか。
ノノンと一緒にいるのも楽しい。
やべぇ、風呂場が閉まってる。
朝シャワーにすっか。
「本当にやめちゃうの?」
「早く寝ないと。
明日も学校だし。歯磨いて来るわ」
「行ってらっしゃいませ。ご主人様」
ご主人様か。それも悪くない。
メイドカフェ行ってみたいわ。
金ねぇ。隠し財産とか出て来ないかなぁ。
♪ガチャ
オレは部屋を出る。
・・・
部屋に戻るとノノンはベッドの上で正座していた。
目が合うと何を言い出すかと思いきや。
「私、初めてなんです。優しくしてね」
今度は、新婚初夜ごっごですか?
「お前、頭悪いな」
「えぇ、何でよ?」
「いいから寝るぞ。朝起きれなくなる」
ノノンはふざけてるのか天然なのか分からない。
だけど、サンキューな。
ノノンがバカなこと言い出さなかったら
今頃気まずい雰囲気になってただろう。
助かったよ。
「朝まで起きてるのか?」
「じゃあ、ノノンも寝る」
「へぇ、幽霊も寝るんだ?」
「ノノンは天使です」
ノノンの場所を確保するため壁ギリギリまで
右に寄って、オレはベッドに横たわる。
するとノノンは、うつ伏せで寄り添って来た。
そして、上半身を持ち上げオレの顔を覗き込む。
要するにオレの真上にノノンの顔が
あるってことだ。
近いよ。
もしノノンが幽霊だったら恐怖だっただろう。
あぁ、本物だった。
「おやすみ、ハル」
「おやすみ」
電気を消したはいいが、女子が隣にいると
どうしても意識してしまう。
興奮して眠れないぜ。
これ、男子が憧れるやつだよな。
オレもその1人。
だけど相手は幽霊で触れません。トホホ。
その細い体を抱きしめたい。
くっそっ、不完全燃焼だ。
このモヤモヤをどこにぶつければいい?
・・・(朝)
「ハル!起きて」
「ん~ん」
「朝ですよ朝」
「あと5分」
「お寝坊助さんなんだから、もう」
「起きないならチューするぞ」
「なんだよ。うるさいなぁ~」
うるさすぎてオレは目を覚ます。
まぶたが重い。
カーテン越しからの日差しが眩しい。
今日も天気が良さげだ。
あれ?最近似たようなことが。
デジャヴ?
オレは時刻を確認する。
「1時間早いじゃん」
「そうなの?」
そうだった。
ノノンと一夜を共にしたんだった。
人の気配を感じないし、
こうして触ろうにも触れられない。
「エッチ!」
「頼むから目覚まし鳴るまで寝かせてくれ」
「早起きしたほうがいいよ」
「寝ないと死んじゃう」
「死なない」
「死んじゃう」
「死にません」
ノノンとのやり取りで完全に目が覚めてしまった。
結果、オレは1時間早く朝を迎えることとなる。
久しぶりに朝飯を食べ、シャワーを浴びて、
歯を磨く。そして制服に着替えた。
毎日のルーティンをこなしてるが
ゆっくりやってる。
いつもは時間との闘いでバタバタしてる。
早起きはいいものだな。
「ハルの制服姿かっこいい」
「そうか。女子の制服可愛いけど。
男子はダサくね」
「そんなことないよ」
「ふぁ~あ」
あくびが止まらない。
「眠そうだね」
「おめーのせいだよ」
♪ガチャ
「ハル、起きてるか?行くぞ!」
「おう」
いつものように、カイがお呼に来た。
律儀なやつだ。オレのことが好きなのか。
「幽霊まだいるの?」
<<天使ですぅ!>>
「いるいる。オレの横に」
「もしかして?」
ニヤついてやがる。
さてはエロいこと想像してるな。
女の幽霊だって言ってしまったのは失敗だった。
「幽霊と一夜を共にしたのかな?」
「そうそう。壁の隅で朝まで立ってたぜ」
「怖!」