(116) 博士はパワハラです
◇◇◇ 市街地 ◇◇◇
時刻は13時。
大手出版社の社長との面会を終え、
オレは田中からハルキへと戻る。
なんだか仮面ライダーから戻った気分だ。
現在、寮に向かっているところ。
スクープの件は密約を交わし、
記事を掲載しないことで合意が取れた。
交換条件は、ユーリに関する出版物は
今後独占できるというもの。
直近は、コスプレの写真集発売と
ゲーム雑誌の表紙がその場で決定した。
岩井さんは世間的にはまだ無名に近い。
出版社にとって、この条件は対価があるとは思えない。
あの社長は一体何を考えてるんだ?
オレを恐れたのか、それとも恩を売ったか。
または将来を見越しての投資なのか。
分からん。
1つ言えることは、アーツ社にとっては
メリット大であるということ。
岩井さんのスクープが取り消された上、
仕事がもらえたのだから。
しかも全国規模の販売となれば知名度も上がる。
今回のスクープが逆にラッキーになった。
しかし、芸能トレンドの編集長は、
今頃悔やんでるだろうな。
バカな奴だ。
みすみす2000万を手放したようなものだ。
ざまぁ見やがれ。スカッとしたわ。
そう言えば、カイ父からの連絡がない。
このまま音信不通ってことはないよな。
連絡で思い出したが、岩井さんと篠崎さんに
Lineしないと。
岩井さんからは大量の着信が来てたっけか。
無視してる状態だから絶対怒ってる。
岩井さんは現在仕事中だ。今がチャンス。
Line>ごめん。今確認しました。
スマフォが壊れて連絡できなかった。
新しいのを買ったので繋がります。
めっちゃ連絡くれたようだけど何?
これでいいかな。
少しは怒りが下がってくれることを願う。
アイミー、篠崎さんとのグループLine
も盛り上がってる。
オレだけダンマリな状況。
まだアップされた曲が聞けてないし、
今更会話に入り辛い。
アイミーは篠崎さんの編曲にお気に入りのご様子。
聞いてないけど、アイミーがいいならオレもOK。
とりあえず、岩井さんと同じ理由で謝罪しとこう。
Line>ごめん。
スマフォが壊れて連絡できなかった。
新しいのを買いました。
なのでアップした曲をまだ聞けてません。
2人が気に入ったのならストリート
ライブしませんか?
オーディエンスの反応も見たいし。
これでどうでしょう。
おぉ、2人は乗り気だ。
アイミーと篠崎さんを会わせたのは正解だった。
アイミーはソロ活動としての手応えが
掴めるだろうし、
篠崎さんはピアノを復活してくれる。
<<あれ?ハルだ>>
いつものように突然ノノンが現れる。
田中のままだと思ったらしい。
「頻繁に幽霊になって大丈夫か?」
<<ノノンは天使です>>
天使のこだわり強ぇなぁ。
そんなに気に入ってるのかよ。
天使が何者か知ってるのか。
「気分が悪いとかないのか?」
<<全然。見ての通り元気です>>
あぁ、そうかい。
オレは自分の記憶が飛ばないか、
ノノンが出現する度に不安だけどな。
しかし、幽霊のノノンはテンション高い。
外観で性格が変わるのか。
オレも身体を変えた時は性格に変化が
出てるのだろうか。
自分ではわからん。
<<お腹空いた。どこか連れてって!
この前行った中華屋さんがいい>>
「いいね。
直接向かうから店で待ち合わせしよう」
<<ノノン、場所知らないよ>>
「この前の車を向かわせるので
寮の前で待っててくれ」
<<OK。よろしくね>>
ノリのノリが軽いんだよな。
まぁ、そこがいいんだが。
◇◇◇ 中華屋 ◇◇◇
時刻は14時。
オレはハルキとして、ノノンは乃々佳として
お気に入りの中華屋前で合流。
♪ガラガラガラ
「いらっしゃい」
今日は、めずらしく客で埋まってる。
満員であった。
と言っても8名しか入れない店だけど。
意外と人気店だったのを忘れてた。
「すぐ空きますので外で待っててもらえます?」
店主にそう言われ、一旦外に出て入り口で待機することに。
「お腹空いたよ」
「すぐ空くからガマンしろ!」
「ガマンできない。死んじゃう」
「死なない」
「死んじゃう」
「ほら空いたぞ」
2名、客が店から出て来た。
10秒も待ってなかったな。
「カウンターだね」
店内に入って空席を確認すると
空いてたのはカウンター席。
運良く2人横並びできる。
迷うことはない。
「座ろう!」
野菜炒め、味噌ラーメン、餃子を注文。
この店はどの料理を選んでも美味しい。
そして、注文した品には、
それぞれ思い出がつまってる。
オレにとってはどんな高級レストラン
よりも1番美味しいと感じる店だ。
ノノンも気に入ってくれたのは嬉しい。
「この後、どうするんだ?」
「明日テストだから寮で勉強するよ」
「いい心掛けだ。
受験生に戻った気分だろう?」
「この歳でテスト勉強するとは
思わなかったよ」
「歳って18才だろ?」
「あぁ、笑ってるぅ。
全教科80点以上だったら好きな
場所に連れてってもらいますから」
「もちろん。約束だからな。
逆に80点未満は恥ずかしいけどな」
「あぁ、パワハラだぁ」
ノノンさんよ。
言葉の意味を理解した上で使ってくれ。