(108) アイミーに呼び出しされました
◇◇◇ カラオケボックス ◇◇◇
時刻は16時。
ここは渋谷のカラオケボックス。
Line>暇だったら2人でカラオケ行かない?
久しぶりに会って話しがしたいし。
だってさ。
アイミーからの誘いである。
カラオケと言えば歌う場所。
それくらいは知っている。
正直、オレは歌いたくはない。
その時は
Line>歌を知らいので歌わなくてもいい?
それなら行くけど。
と返したらOKのスタンプが返って来た。
ならば行くよ。
アイミーの生歌聞きたいし。
なので『行きたい』とスタンプで返信。
そして、今に至る。
店内に入り、指定されたルームの前に到着。
中の様子を確認する。
アイミーがオレに気付き中から手を振る。
オレも待ち合わせ場所が間違ってないことを
把握し中へと入るのであった。
アイミーを見てオレは驚く。
雰囲気がいつもと違っていたから。
上下トレーナーのようなヒップホップダンサー
のような服装だった。
すごい新鮮。
「意外と早かったね。
もっと遅くなるかと思ってた」
そりゃもう、飛んできましたから。
カラオケに来たのは初めてです。
中に入って意外と部屋が広い事に驚いた。
20名以上は入れるスペースだろか。
ここをたった2人で借りている。
入り口で見たけど全室ほぼ満室で
待ってるお客さんがいる。
もっと狭くして部屋数を
増やせばいいのにと感じた次第。
おそらく歌って踊ることを想定しての
サイズなのだろうと納得することに。
「アイミーに会うのは久々でしたからね。
急いで来ましたよ」
「予想外の反応。
ハルキ、雰囲気変わったね」
しまった。性格変わったか?
もういろいろあり過ぎて、ハルキが
どんなキャラだったか覚えてない。
「そう?変わってないと思うけど」
「ならいいけど」
確実に同一人物ですよ。
思考がオッサンかもだけど。
<<ハル、ずるい>>
わぁ~、びっくりしたぁ。
幽霊のノノンが突然出現。
<<どこに居るのよ。
アイミーさんと2人きりで、もう>>
ちょっと待った。
そんな目はなんだ!
エロい場所じゃねぇぞ。
オレは小声で返答する。
「バカ!カラオケボックスだよ」
<<いやらしい>>
おい、引くな!
誤解してるないか?
「ここがどんな場所か知ってるよな?」
<<知らないわよ。
どうせ如何わしい所でしょ?>>
まいった。
カラオケボックスを知らない奴に
どう説明したらいい?
「バカだなぁ。勘違いすんな。
ここは歌を練習する場所」
<<バカバカ言わないで>>
ふくれっ面が、かわいい。
「今日はハルキに伝えたい事があって
来てもらったの」
アイミーさん、突然何を言うつもり?
もしかしてオレに告白?
今のオレなら経済的にあなたを支えて
あげられますよ。
老後まで何不自由ない生活をお約束しましょう。
<<ハルの嘘つき。
歌う場所じゃないじゃない>>
あぁ、面倒臭い。無視無視。
オレはアイミーとの会話を続ける。
「はい、何でしょう?」
「わたしアイドル辞めようかと思って。
武道館コンサートで、相方と一緒に
アイドルを卒業します」
<<えぇ、やめちゃうの?もったいない>>
同感だ。
「グループ、解散ですか?」
「事務所が別々になるからね。
解散しかないでしょ」
確かに。
だけど、なぜオレに打ち明けて来た?
辞めたいのか、引き留めて欲しいのか。
どっち?
「卒業後は、どうするの?」
「社長はソロアイドルで続けさせたいみたい」
そりゃそうだろ。
あの事務所はアイミー1人で支えてるのだから。
「今の事務所には恩があります。
できれば社長の気持ちに添えたいけど。
まだ決まってないわ」
「私ね。
シンガーソングライターになるのが夢だったの」
そう言えば、事務所でそんな話を聞いたような。
「その夢を叶えるためにアイドル活動してるんだ。
そこでね。ハルキに私の歌聞いて
もらいたくて呼びました」
アイミーは側にあるフォークギターを手にする。
「そのギター、私物ですか?」
「そう。私の愛用。自宅から持って来た。
1年間、弾いてなかったんだけど。
最近また復活させたの」
そうか。
アイドルを卒業して、夢に向かうか悩んでるのか。
オレに歌を聞かせて、そのリアクションで
どうするか判断しようとしてるんだね。
これは責任重大だぞ。
アイドルのイメージが強いせいか
フォークギターを手にするアイミーは
なんだか似合わない。
♪タラタラ~
音が鳴り始めると、彼女の演奏が上手いことに驚く。
その姿は凄くカッコいい。
<<アイミーさん、ギター弾けたんだね。
歌も上手>>
あぁ。
アイドルをしてる姿が想像できないほどだ。
ギャルがギターを弾いて歌っている。
凄いギャップだ。
だがそんな事よりも、アイミーがこれから
1人で活動していくんだという強い意思が
感じ取れる。
正直、ソロアイドルのアイミーを見てみたい
気持ちがある。
恐らくアイドルの方が、ファンもいるし
成功する可能性が高い。
本人はそれを望んでは居ない。
ふと涙がこぼれた。
オレは自分が感動してることに気付く。
何かに向かって頑張ってる人を見て
心が揺さぶられてるのだ。
そして、自分もガンバらねばと奮い
立たされている。
ここに呼んだ理由を理解した。
できればアイミーの願いを叶えてあげたい。
今日この場が、ターニングポイントになるだろう。