(106) 原宿デート、リベンジです
◇◇◇ 男子寮 ◇◇◇
時刻は朝5時
「ハルくん。朝だよぉ」
・・・
「起きて。起きてください」
「あと5分」
「御寝坊さんなんだから。もう」
「ん~ん」
・・・
「起きないなら、チューするぞ」
「それはやめろ」
目を開け、天使のノノンと目を合わせる。
<<起きてたんだ?>>
オレは真顔で答える。
「起こしにくるのはいい。早すぎる!
あと2時間ズラしてくれ」
<<早くないよ。もう5時だよ>>
「まだ5時だ。お前は年寄か」
<<遅すぎぃ>>
「朝からテンション高い。
記憶が混乱してた時はしょうがないとして、
今も変わっとらんとはどういうこと?
幽霊のノノンは変だぞ」
<<ノノンは天使です>>
「研究室では陰キャラのくせに」
<<それは博士も同じです>>
「オレは変わっとらん」
<<別人ですよ。
少なくとも他人を気にするような
人には見えませんでしたけど>>
「失礼だな」
他愛もない会話の後は朝のランニングをする。
その後、ノノンは学校があるからと自分へと戻る。
オレはというと、部活は週1回なので今日は暇だ。
さて何しようかと考えたいところだが。
昨夜、岩井さんからDMが届いてる。
気が重いが返信するか。
Line>ごめん、今メッセージ見た。何?
♪ツツチチツツ
うわぁ、電話だよ。
朝から何の話だよ。
田中でなくてよかった。
「はい。細倉です」
「ハルキ!暇でしょ?」
いやな予感しかしない。
「午前空いたからデートしようよ」
デート?面倒臭いなぁ。
どうせオレが思い描くデートではない。
「さては、オレのこと好きだろう?」
「そうだよ」
そうだよじゃねぇよ。
美人は何言っても許されるな。
「彼女に立候補するって言ったでしょ」
また始まった。オレをからかってやがる。
OK出したら、どんな反応するか見たいぜ。
「はいはい、で?
どこ行けばいいでしょうか?」
「原宿。エミリンさんにいろいろ
お店教えてもらったの」
えぇ、またあの店に行くのかよ。
Tシャツと短パンで入るのやなんですけど。
そんな格好で岩井さんと並んで歩くのもやだし。
おれも服買うわ。
「待ち合わせは原宿駅前。で、いいのかな?」
「9時、待ち合わせ、ね?」
「早くないか?オープンしてないだろ」
「どっかでお茶しようよ」
はいはい。
◇◇◇ 原宿駅 ◇◇◇
「いいじゃん。新鮮」
岩井さんの一言。
待ち合わせの10分前に来たが
岩井さんの方が先に待っていたらしく、
第一声で彼女の存在に気付いた。
オレは岩井さんを上から下までなめ回して見る。
あなた、格好が派手ですよ。
へそ出しの、ミニスカート。
けしからんな。
芸能人のようだ。いや、芸能人だった。
Tシャツと短パンで来なくて良かったぁ。
オレはいつもの服装ではない。
この格好は、24時間営業してる店で
購入してから、ここへ来たのである。
上下で数千円。
貧乏学生が着てても不自然ではなかろう。
「どうぉ、可愛くない?」
服装を褒めて欲しいのね。
はいはい、メチャメチャ可愛いです。
っていうか、目のやり場に困る。
オレに恥をかかせたいのか?
いっしょに居て釣り合わんだろう。
「あなた芸能人でしょ?
目立ち過ぎだろ」
「こういう格好好きでしょ?」
くっそ。見透かされてる。
好きに決まってんじゃん。
嫌いな奴がいたら教えてくれ。
「そりゃ好きだよ」
「でしょ?」
勝ち誇った顔やめろ!
周囲の目が気になる。
アイミーの時と同じだ。
隣に居るダサい男は彼しか?
って目で見てやがる。
最悪だ。
◇◇◇ マック ◇◇◇
オレと岩井さんはマックでお茶することに。
オシャレなカフェに入りたい所ではあるが
ハルキは貧乏学生の設定。
ならば取るべき選択肢はマックしかない。
トホホ。
オレが持っている1000億円は
なんのためにあるのだ。
宝の山を目の前にして指をくわえる海賊だぜ。
マックの食事券を使って岩井さんの分も購入。
食事券を持ってる理由は、昨日の
部活メンバーへの説明と同じだ。
お金ないふりをするもの大変。
岩井さんの前でこの設定は必要か?
「今日は、新作ゲームのアシスタントで
ネット番組に出るの。
その次は東京タワーでラジオ出演」
あぁ、知ってるとも。
オレが取って来た案件だからね。
年内までは既にスケジュールが詰まってる。
どの仕事をするかは岩井さん次第だけどね。
「へぇ、コスプレーヤーって
意外と仕事あるんだね」
「コスプレ、バカにしてるでしょ?」
「してないよ。
その年で偉いなって思ってさ」
「なに言ってるの同じ年でしょ」
「オレにはやりたい夢がない。
将来が心配だよ。
なのに、岩井さんは趣味が仕事に
なって頑張ってる。
うらやましいよ」
それは本心だ。
岩井さんはやりがいを見出した。
仕事が楽しいと担当者から伺っている。
それに対してオレはどうだ?
情熱を持って仕事に取り組んでいるのだろうか。
若いっていいな希望しか見えてない。