(104) 歓迎会をします
◇◇◇ 校内 ◇◇◇
夏休みの学校。
誰もいないはずの廊下を男女2人の生徒が
歩いている姿が見える。
彼らはジュンとノノン。
すなわちハルキと乃々佳だ。
「どうしたのこれ?」
「持ってないだろ?
昨日買って来た」
ノノンにiPhoneをプレゼントしたのである。
「電話使わないし、ゲームもしないよ」
「バカだなぁ。
これはコミュニケーションツールの1つだ」
「使い方、分からないし」
「コミュニケーションツールだって
言っただろ?
使い方も含めて、金沢さんや
堀北さんにガンガン聞きなさい。
そうやって仲良くなるんだ」
「分かりました」
◇◇◇ 部室 ◇◇◇
時刻は12:50分
オレはノノンを連れ、
なんちゃら研究室へ戻って来た。
扉に手を掛け、開けようとした瞬間、
悪い事が頭を過り躊躇する。
今更なんだが、みんなにノノンを紹介して、
果たして受け入れてくれるのだろうか。
恐らく表面上は歓迎ムードであろう。
だが、心の中ではよろしく思わないかも。
輪が大きくなると、軋轢が生れやすく
分裂を引き起こす危険性がある。
ここでノノンを加えるのは得策なのだろうか。
ノノンを堀北さんに紹介したい理由は、
オレの行動範囲を広げるためだ。
同時に青春をエンジョイさせたいという思いもある。
ノノンがガイヤ (地球)に来た目的は、
青春をやり直したいだから。
お節介だが、友達にさせようとしてる。
「どうしたの?入らないの?」
「ちょっと待て。シミュレーション中」
「何の?」
「人間関係」
「どういうこと?意味分からない。
博士、考え過ぎだよ」
「博士はやめろ」
♪ガラガラ
内側から扉が開いた。
「何してるの?」
扉を開けた主はカイだ。
「入ろうとしてたところだよ」
カイは直ぐ、ノノンへ目線を移す。
「初めまして、岳中凱人と申します。
みんなからはカイと呼ばれてます」
「ここじゃなく、中でやろうぜ」
こいつ、見境ねぇなぁ。
「我が研究室へようこそ。中へどうぞ」
オレの後をノノンが付いてくるようにして
部室に足を踏み入れ、全員がノノンに注目する。
「初めまして、3Bの茂木 乃々佳です」
「部長の金沢です。凛心と同じクラス?」
金沢さんが堀北さんに確認する。
「そうなの。あまり話したことないね」
「凛心、友達居ないもんね」
「席が遠いの」
「ハルと付き合ってるのかな?」
カイのやつ、恋愛しか興味ないのかよ。
その発言に金沢さんと堀北さんがノノン返答に注目する。
「えっと」
「付き合ってないです。幼馴染です」
ノノンをさえぎり、オレがキッパリと返す。
正確にはノノンは部下なんですけど。
オレとノノンは、幼馴染で地方から
一緒に出て来たことを説明。
東京に知り合いがおらず、
友達がいないことも付け加えた。
なので、この輪にノノンを加えたいと
オレはノノンを紹介した理由を述べた。
それに対し、最初に口を開いたのは堀北さんだ。
「わたし、乃々佳さんの事、
ずっと気になってました。
Line交換しましょう?」
流石は堀北さん。
あなたはホント性格がいい。
この人と付き合う男はどんな人なのだろう。
誠実な奴だったらいいなぁ。
いつの間にか親目線になってるわ。
「では今日から乃々佳さんは、
我が研究部の一員ということで」
「お前が決めんな」
女子3人がクスクスと笑う。
そして、金沢さんが改めて表明する。
「歓迎します」
「これからヨロシクね」
ノノンが深々と頭を下げる。
「Line交換しましょ?」
「携帯、昨日買ったばかりで
使い方分からないんです」
「その前に。
お昼だけど、この後どうする?」
「マックの食事券があるんだけど。
みんなで行きません?」
カイの発言に続けて、オレがマックを提案する。
食事券も昨日オレが準備したものだ。
ノノンの紹介だけで終わらせたくないから。
金沢さんにはまだハードルが高いか?
「その券どうしたんだよ。盗んだのか?」
「相変わらず頭悪いな。
実家から送られて来たんだ。
多分、結婚式の引き出物じゃねぇの?
知らんけど。
丁度5枚ある。
500円までなので、超えたら自腹ね」
「楓、マックで乃々佳さんの歓迎会しようよ」
堀北さん、ありがたい。
やはり、あなたは女神だ。
オレの意図をくみ取ってくれてる。
「いいね。ハルとどんな関係か
追求する必要がある。
みんなでマック行こうぜ!」
「追求しても何も出ないぞ」
カイと堀北さんは乗り気だが、問題は金沢さん。
4人が部長に注目する。
「15時までならいいよ」
よし。
いつも動かない金沢さんが動いてくれた。
オレも沢山、金沢さんに話し掛けないと。
♪ブルブル
田中宛のメールが転送されて来た。
タイトルに緊急って書いてある。
こっそり見ると、
カイのお父さんが中途入社を辞退するとの内容。
マジ!?