(102) 女子に起こしてもらいました
◇◇◇ 男子寮 ◇◇◇
時刻は朝5時。
「起きて。朝ですよ」
・・・
「起きてくださぁ~い」
「ん~ん」
「ハル?朝ですよぉ」
「あと5分」
「お寝坊助さんなんだから、もう」
・・・
「起きないなら、いたずらするぞ」
「もう少し寝かせて」
「博士!プレゼン資料がまだ出来てません」
資料?ヤバい。
「うわぁ。今、何時だ?」
オレは、朝一の打合せ資料が完成して
いない事を思い出し、飛び起きる。
そして時計を確認。
朝の5時。まだ間に合う。
あれ?
ここ、ハルの部屋。
隣を見ると。
ノノンが居る。どうして?
「おはよう」
「何で。幽霊?」
「ノノンは天使です」
懐かしいフレーズ。泣きそうになる。
短い期間だったけど、
ノノンとの同居生活は楽しかった。
「ふざけんな!5時じゃないか。
起こすなよ」
「だって目が覚めちゃったんだもん」
「だからってオレを巻き込むな。
っていうか、また通信障害か?」
「うんうん。切り替えテスト。
次に障害が発生した時は
切り替えられるよう、前田さんから
スイッチ受け取ってるの」
「オイオイ。その姿で
スイッチ押せねぇだろう?」
「乃々佳から天使はスイッチだけど。
逆は指のジェスチャで切り替えられるんだよ。
それを今から確かめてみる」
「ならさっさとやってくれ」
そう言って、ノノンは人差し指を使って
5角形の星を描く。
するとモニタの電源が切れたかの如く、
ノノンが一瞬で消滅したのである。
へぇ、前田のやつ考えたな。
これなら次に障害が起こっても、
乃々佳に戻れるってことか。
「博士!暇だよ」
「うわぁ。脅かすな」
再びノノンがオレの正面に現れたのだ。
「実験、終わったんだろう?」
「暇だから来ちゃった」
「来ちゃったじゃねぇ」
ノノンは女子寮に住んでいる。
女子寮は学校を挟んで反対側に位置する。
男子寮と女子寮が近くにあると倫理的に
問題があるのか。
それとも敷地がそこしかなかったのか。
知らんが、気軽に行き来できるような
距離ではない。
「これ便利。男子寮にも入れるし。
毎晩、一緒に遊べるね?」
お~い。使い方間違えてるぞ。
確かに女子寮は門限が厳しい。
夜8時以降は正当な理由がない限り
外出できない規則だ。
外泊なんて基本できない。
その点、男子寮はルールが緩くてよかった。
「頻繁に使うなよ。
またオレの記憶が飛ぶ」
「多分、大丈夫」
「なんだそれ。
せめて自信を持って言ってくれ」
「ランニングしようよ。
朝の住宅街見るのノノン好き」
この感じがなつかしい。
あれだけ会いたかった幽霊のノノン。
また再会できて凄く嬉しい。
中身は助手のノノンのはずなのに、
外見が違うと別人に思える。
「完全に目が覚めた。久しぶりに走るか」
「行こう!行こう!」
そして、オレは着替えないまま外へと出る。
◇◇◇ 閑静な住宅街 ◇◇◇
はっはぁ、はっはぁ。
いつものランニングコースを走る。
「なぜ肩車?」
ノノンを肩車する態勢で走ってる。
ノノンの重さは感じないので走り辛く
はないが、せめて自転車で走行してくれよ。
イメージが違う。
「高いところから見る景色が最高」
あぁ、そうですか。
◇◇◇ 男子寮 ◇◇◇
ランニングの後のシャワーは最高だ。
ノノンは部屋で待機してる。
と言っても、ノノンはオレの脳に割り込んで
いるので絶えず一緒に行動してるようなものだ。
なので部屋で待つということが逆に出来ない。
ノノンのモラルが許さないのだろうか。
部屋で待ってるという体裁にしたいらしい。
ならばオレもそれに付き合うまで。
「待った?」
「遅いよ」
「10分も経ってないだろう」
改めてノノンの姿をじっくりと拝見する。
こいつのどこが天使なんだ?
「ジロジロ見られるとハズイんですけど!」
「聞いていいか。
イラストとかの天使を見たことあるか?」
「ないよ」
やっぱり。
「もしかして天使のイメージが、その容姿なの?」
「そうだよ」
そうだよじゃねぇよ。
可愛いって得だな。