(100) オレ告白されるかも
◇◇◇ 男子寮 ◇◇◇
時刻は16時。
中華屋での食事の後、
ノノンは女子寮へと戻るとのことで別れた。
長期の入院で心配掛けたことから寮母さんや
寮生たちに挨拶回りをするそうだ。
言われてみれば、退院後、
ノノンが寮へ戻ったのは早朝。
直ぐに着替えて部屋を飛び出したので
誰とも会話を交わしてないという。
しかし挨拶回りとか、そんな面倒臭いことよくするなあ。
オレだったら絶対にしない。
そんなことを考えながらベッドに転がり
我が家の天井を眺めていた。
そう、オレも男子寮へと戻って来たのである。
何日ぶりだろうか。
篠崎さんのコンクール以来だろうか。
遥か昔のような気がする。
改めて部屋を見渡すも。
物がなく、殺風景だけどなぜか居心地がいい。
不思議な空間だ。
オレには憂鬱な案件が残っている。
岩井さんの件だ。
寮に戻って来たことを報告しなければならない。
3日間何をしてたか絶対に聞かれる。
そんなの説明できんよ。さぁ困った。
事実を説明したところで、信じてはもらんだろう。
とりあえず、行き当たりばったりでLineするしかない。
はぁ、気が重い。
Line>ハルキです。
今、寮に戻りました。
心配掛けたね。
さて、どんな返答が返ってくるだろうか。
♪ツチツツ、ツツ
うわぁ。Line電話で来やがった。
岩井さんはそういう人だった。
「はい、ハルキです」
「ハルキの声。戻って来たのね。よかった」
「心配掛けました」
とにかく、話題を変えないと。
「ニュース見ました。
芸能事務所に入ったんだね」
「そう、エミリンと同じ事務所に
なったの。凄くない?」
「本当だよ」
「聞いたわよ。
エミリンと親戚って嘘だったのね」
あっ!その設定してたっけ?
忘れてたわ。
「フードコートで知り合ったって話しじゃない」
アイミーのやつ、全てを話したのか。
「ごめん。実はそうだったんだけど。
そんな話し信じないでしょ?
だから親戚ってことにしたんだよ」
「SNSの件、全て解決出来たんだね。
良かったぁ。
でも自宅の住所がさらされてる
から気を付けなよ。
変な奴いっぱいいるから」
「心配してくれてありがとう。
その件なんだけど。
事務所が所有するマンションに
1人暮らしすることになったの」
あぁ、知ってるとも。
オレが契約したマンションだからね。
「へぇ。芸能人みたいだね」
「芸能人です」
「私のマンションに来ない?
会って話がしたい。顔見たいし」
えぇ、やだよ。
面と向かってする話しって何?
怖ぇよ。
「事務所のマンションはヤバいでしょ。
週刊誌に写真撮られたら終わりだよ」
「私、アイドルじゃないから
男性と密会しても大丈夫」
密会って!
肩書はコスプレーヤーだったか。
失敗した。
清純アイドルにしておけばよかった。
「いやぁ。
それでもマンションで2人きりは問題だよ。
バレたら世間的に叩かれるって」
「なら、どこかで夕食はどう?
初ギャラ入ったから、お礼を兼ねて
ハルキをご馳走したい。
ダメ?」
そんなん言われたら行くしかないやん。
まぁ、メシならいっか。
「3日間何してたかも詳しく聞きたいし」
やっぱ、会いたくないです。
断わる理由が浮かばない。
「今からハルキの寮に迎えに行きます。
待ってて」
来るの?
あっ、通話が切れた。
どこで飯食う気だ?
ハルキは服持ってないぞ。
初ギャラをオレに使いたいだって。
何て人だ。
制服だと学校が特定される。
Tシャツ、短パンで行くしかないけど
どんな店だよ。
もう、どうなっても知らんぞ。
ーーー 40分後 ーーー
♪ツチツツ、ツツ
電話が来た。『寮の前で待ってます』と
一方的に言い放って切られた。
外に出ると、PMC社の車が待機していた。
運転手は顔見知りだ。
だってオレがボディーガード兼、
運転手として選任したのだから。
オレの格好を見て、岩井さんは触れなかった。
岩井さんもオシャレな格好ではなかった
ので少し安心した。
「すごい車だね。財閥令嬢かと思ったよ」
「なにそれ」
岩井さんはクスクスと笑う。
そして、オレをマジマジと観察する。
なんだよ、直視されると照れるんだが。
「また会えた。元気そうでよかった」
病院であんな別れ方したんだ。
生きて再会できるは思わんよな。
全ては前田が悪い。
怪しい集団で押しかけるから誤解するんだ。
15分ほど走ると、ある小さなフレンチ
店へと到着する。
どうやら目的地はその店らしい。
中へ入ると2人席が3テーブルしかない
個人経営の店であった。
岩井さんは店主と顔見知りのご様子。
テーブルには予約の札が置いてあり、
フォークとお皿が並べてある。
どうやら既に注文済みのようだ。
いいのかなぁ。
初めてのギャラを使っかわせちゃって。
「知り合いのお店ですか?」
「家族とよく来てたお店なの。
私の誕生日は必ずここだった。
懐かしい」
なんだか、とんでもないところに
連れて来られたぞ。
オレ、告白されるのか?
祝100話達成。
多くの人に読まれることを願って書き続けます。