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10.復讐への道②

 セピアは緊張していた。

 久しぶりの討伐が理由ではなく、クラレットに会うためだ。

 最後の討伐以降、セピアはクラレットを避け続け、見かけることはあっても言葉を交わすことはなかった。


(クラレット様は俺を恨んでいるだろう)


 アンバーを、大切な人を死なせた張本人なのだ。

 セピアはクラレットに合わせる顔がなく、今回の討伐では前線で戦うつもりだったため、きっと話すことはないだろうと思っていた。

 胸を締め付けるような苦しみと共に始まった討伐は、初めて魔導士も前線で戦うというもので騎士の多くは困惑していた。

 しかしセピアが想像していた以上の成果があり、レベルの高い魔物相手でも致命傷を負う者はおらず、皆軽傷で済んだ。

 それがきっかけとなって士気が上がり、驚くほどに討伐がスムーズに進んだ。


 その日の夜。

 セピアは自身のテントの中で服を脱ぎ、腕の怪我を確認していた。

 前線で上級の魔物が現れた時、怖気ついた魔導士を魔物の攻撃から守った時に負傷したものだ。

 思ったより傷が深く、顔を歪める。

 負傷した者はクラレットに治癒してもらっていたが、セピアは躊躇ってしまい、怪我を隠していた。

 明日以降支障がきたさないことを願い、布で傷口を縛ろうとした時、突然背後から声が聞こえてきた。


「やっぱり隠していたのね」

「……っ⁉︎」


 セピアが振り返ると、テントの中に入ってくるクラレットの姿があった。


「なぜ……」

「他の騎士や魔導士の怪我は私に治させておいて、貴方の怪我は治させてくれないの?」


 クラレットはセピアに近づき、迷わず怪我を治す。

 今までの痛みが嘘のように消え、あっという間に傷が癒えた。


「うん、これでもう大丈夫ね。どうして隠そうとしたの?」

「……特に問題なかったので」

「嘘。貴方の怪我が一番ひどかったわ」


 クラレットは呆れたように笑う。

 しかしその目はどこか潤んでいて、セピアは思わず目を逸らして服を着た。


「……セピア」


 名前を呼ばれただけでセピアは泣きそうになる。

 国王への復讐を誓った日、セピアは二度と泣いたり、弱い姿は誰にも見せないと心に決めた。

 その決意が、クラレットの前だとすぐに揺らいでしまう。


「大きくなって……元気にしていた?」


 クラレットは手を伸ばし、セピアの頭を撫でる。


「……っ、私はもう子供ではありません」

「私の前では大人ぶらなくていいのよ?」

「大人ぶってなんか……俺はもう成人して、立派な大人です」

「ふふっ、“俺は”ねえ?」


 成人を機に自分のことを『私』と言うように意識していたセピアだったが、クラレットの前ではつい素が出てしまい恥ずかしくなった。


「貴方と会えて良かった」


 クラレットは切なげな表情でセピアを見つめていて、その瞳からは今にも涙が零れ落ちそうだった。


「クラレット様は私のことを……」

「恨んでいるとでも思っているの?」


 クラレットはついに涙を流し、セピアの服を掴む。


「アンバーは最期まで責務を全うしただけだわ。貴方が生きていてくれて私は嬉しい。お願いだからこれ以上自分を責めないで……」


 セピアはつられて泣きそうになったが、自分にその資格はないと思い堪える。


「それから……ありがとう」

「え……」

「今日の討伐で、魔物と剣で戦うその姿を見て……アンバーと重なったわ。ずっとアンバーを近くで見てきたもの、すぐにわかった。貴方がアンバーの剣術を、意志を継いでくれたのだと」


 その言葉にセピアは胸が締め付けられる。


(違う……俺は、復讐のために……強さを求めて……)


 アンバーの意志を継いだわけではない。

 そう思うと、罪の意識が芽生えた。


「実は今回の討伐も気が重かったのだけれど、貴方のおかげでとても心が軽かった。本当にありがとう」

「お礼を言われるようなことなんて何も……」

「セピア。貴方は自分の想像以上に多くの人を助けているの。私だけではない。魔導士や騎士たちを見ていたらわかる。それだけは覚えておいて」


 涙を流しながらも笑顔を浮かべるクラレットを前に、セピアはそれ以上何も言えなかった。


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