9.復讐への道①
セピアは魔法を発現してから血の滲むような努力を重ねた。
決して妥協することなく、強さを求め続ける日々。
心身共に成長したセピアは、成人となる十六歳を迎えた。
「これはこれはセピア様ではありませんか」
成人になったセピアは早速魔導士団の元へと向かうと、団長に出迎えられる。
見下すような表情は昔と変わらず、一部の魔導士たちも影で笑っていた。その大半がセピアの幼い頃を知る者たちで、舐めているのがわかる。
「ご成人なされたようで、誠におめでとうございます。見た目は随分とご成長なさったようですね。あの幼いセピア様が懐かしく思います」
過去のセピアは萎縮し、黙って俯くことしかできなかったが、今は違った。
「そうですか」
セピアが作り笑いを浮かべながら素っ気なく返すと、その反応が面白くなかった団長は眉がピクッと動く。
「それより本日はどういった御用で? 以前、セピア様が魔法を発現させても我々魔導士団は受け入れないとお話したはずですが」
団長はセピアを決して受け入れるつもりはないようで、強気の発言だった。
「ああ、その件ですが……団長には今日限りで辞めていただくことになりました」
「なっ……仰っている意味がよくわかりませんが、公爵閣下は」
「すでに了承済みです」
セピアは魔法の訓練以外にも、この日のために水面下で色々と準備を進めていた。
まずは今の魔導士団を変えることが最優先だと考えたセピアは、団長を退任させようとしていた。
以前、アンバーが魔導士団長の弱みを握って脅しているのを覚えていたセピアは、団長を探っていると不正の証拠がいくつも出てきた。
(アンバー様は俺のために、この不正を報告せずに黙って……)
それは退任に追い込むことが可能な内容であり、成人になって十分に実力をつけたタイミングで父親に報告した。
父親の反応は想像以上に薄く、まるで団長の不正に目を瞑っているようだった。
しかし団長を庇うことはせず、『お前が魔導士団を率いる実力があると判断できたなら、団長の退任を許可する』と言い、セピアもその条件を受け入れた。
「団長に適した人物など今の魔導士団にはおりません。このままでは統率が取れず、魔導士団は崩壊してしまいますよ! よろしいのですか?」
「これからは私が魔導士団を率いるので問題ありません」
「セピア様が……? はっ、魔法を発現させたことで天狗になっているようですね。お言葉ですが、今のセピア様に魔導士団を率いる実力があるとは思えません」
「少なくとも貴方よりは、まともに率いることができると思います」
「ではセピア様の実力とやらを証明してもらいましょうか」
セピアの言葉に怒りを露わにした団長は、勝負を挑む。
団長は現在の魔導士の中で一番強いと言われていたが……決着はあっという間についた。
セピアが圧倒的な実力差で勝利を収めたのだ。
この時初めてセピアの実力を見た魔導士たちは、みな息を呑む。
「今の魔導士団は団長を筆頭に己の力に酔いしれ、怠慢が過ぎている。本当にこの国を守る気があるのか? 一度君たちに問いたい。何のために魔導士になった?」
セピアの表情からは魔導士団を変える覚悟が表れていて、その姿に感銘を受けた多くの魔導士たちは、セピアが団長の座をつくことに意を唱えなかった。
こうしてセピアは魔導士団の改革を始め、魔導士たちは実力をつけていった。
(そろそろ次の段階に進んでいいだろう)
セピアは魔導士たちの成長を見て、次の段階に進めることにした。
しかし──
「お前はふざけているのか⁉︎ 今後は魔導士も前線で戦わせるとはどういうつもりだ⁉︎」
セピアの行動に父親が強く反対した。
普段は魔導士団の訓練に一切顔を出さない父親がわざわざやって来て、セピアに怒鳴りつけた。
「今の魔導士たちは守られて当然だと思い込み、それが成長の妨げになっています。もちろん前線で戦うのは、私が問題ないと判断した一部の魔導士のみです」
「お前が騎士を死なせたくないだけだろう⁉︎」
「我々魔導士たちが前線で戦うことで、無駄な犠牲者は減らせます。それのどこが悪いのですか?」
「お前……魔法が使えるようになってから、随分と偉そうな口を叩けるようになったようだな!」
「……父上は勘違いしておられるようですね」
セピアはため息を吐いた。
「以前、父上は仰いましたね。騎士は魔導士たちを守るべき存在で、死んでも構わないと」
「当然だ。剣を振ることしかできない騎士と、魔法を使える魔導士では価値が違う」
「父上のような考えを持つ魔導士たちがあまりにも多すぎると思いませんか。勘違いも甚だしい」
セピアは訓練場の隅に置いていた剣を手に持つ。
「……どういうつもりだ」
「魔法が全てではないことを証明するいい機会です。父上、手合わせ願えますか」
「剣の手合わせだと? ふざけるな」
「いいえ。父上は魔法を使っていただいて構いません。私は一切魔法を使わず、この剣だけで戦います」
「なっ……ふざけるのも大概にしろ!」
こうしてセピアと父親の勝負が始まる。
この時魔導士たちの多くが、セピアに勝ち目はないと思っていた。
しかし、結果は違った。
セピアの剣が父親の首元に当てられ、セピアが勝利したのだ。
アンバーから教わった剣術は、決して無駄ではなかったと証明する場となった。
この日以降、息子に敗れたショックを隠しきれなかった父親は酒に溺れていき、当主の職務を放棄するようになった。
一方でセピアは仕事を肩代わりし、次期当主としても魔導士団長としても人望を集めていった。
そんなある日ついに討伐の命が下り、セピアはアンバーの死後以来、初めて討伐に参加することになった。




