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6.絶望の淵①

 アンバーが魔導士団長を脅してくれたことで、セピアは心置きなく剣術を教わることができ、十歳になると下級の魔物であれば倒せるようになっていた。

 しかし魔法は発現することなく、公爵家での立場は悪くなるばかりだった。


「お兄様……!」

「オペラ?」


 ある日、セピアは部屋にいると、突然オペラがノックもなく入ってきた。


「どうしたんだ、オペラ」

「お兄様、行っちゃダメです……!」

「オペラ……?」


 オペラは半泣きになりながら、セピアに抱きつく。

 いつもと様子が違うオペラに、セピアは戸惑っていた。


「お兄様、また討伐に行くんでしょう……?」


 オペラの言う通り、セピアは父親に討伐参加を命じられていた。


「どうして知ってるんだ?」

「聞いてしまったの……お父様が、今回の討伐は危険で……お兄様が死んだらその程度だって」


 だから行かないでと懇願するオペラ。


(きっと父上がそのように仰るのは、今に始まったことではない)


 たとえ自分が死んでも父親は気に留めないだろう、というのがセピアの考えだった。


「大丈夫だオペラ。俺はもう、弱いだけじゃない」

「ですが……」


 オペラはまだ納得のいかない様子だったが、孤独だと思っていた家で心配してくれる人がいるだけでも嬉しかった。



◇◇◇


「こんなのおかしいわ!」

「落ち着くんだ、クラレット」


 しかし、今回の討伐は開始前から殺伐とした空気が流れていた。

 珍しくクラレットが取り乱していたのだ。


「落ち着けるわけないじゃない……! 絶対に裏があるわ!」

「俺は大丈夫だ。君は君の身を案じてくれ」

「けれど……」


 クラレットは今にも泣き出しそうで、アンバーは宥めている。


「ご安心ください、騎士団長殿」


 そんな二人の間に入るように話したのは、魔導士団長だった。


「聖女様には危険が及ばないよう、我々魔導士団が筆頭にお守りするので」


 今回の討伐は二箇所に分かれて行われるようで、クラレットは魔導士団長と共に強い魔物が棲む方を、アンバーは魔物が弱い代わりに数が多い方に向かうことになっていた。


「そうだ。騎士団長殿はぜひセピア様をお連れください。弱い魔物が多いようですので、実戦形式で教える良い機会ではありませんか?」

「なっ……ダメ! セピアは私たちの方に……」

「聖女様、我々が向かう方は危険度が高いのですよ。セピア様を怪我させたいのですか?」

「そんなの嘘よ! 絶対にアンバーたちの方が危険だわ!」


 セピアは三人の話の意味を理解できないでいた。


「クラレット、大丈夫だ。セピアは何があっても俺が守るから」

「だけど……」

「それとも俺が信用ならないか?」

「……っ」


 クラレットは納得いかない様子だったが、それ以上言い返すことはなかった。

 その後、討伐隊は二手に分かれて行動する。


「セピア。いつもはクラレットから離れるなと言っていたが、今日は俺から離れるなよ」

「わかりました」

「なんだ、俺じゃ不満か?」

「そんなことは……! ただ、クラレット様が気になって……」


 クラレットは最後まで不安そうにアンバーやセピアを見つめていた。


「大丈夫だ。討伐隊は二つに分かれてしまったが、こっちの部隊にも優秀な騎士や魔導士もいる。それに、セピアのことは俺が守ってやるから安心しろ」


 アンバーの笑顔はセピアに安心感を与え、今回の討伐も無事に終われる気がしていた。


「あと、今回の討伐が終わったら……クラレットとセピアに話したいことがあるんだ」

「俺も、ですか?」

「そうだ。だから今回の討伐はすぐ終わらせるぞ」


 一体何の話なのか。

 セピアには想像がつかなかったが、アンバーの表情を見る限り悪い話ではないのがわかる。


(話って何だろう……)


 セピアは内容が気になり、今すぐ尋ねようかと思ったが、そのタイミングで魔物が現れた。

 最初に話していた通り、魔物のレベルは比較的低く、中にはセピアでも倒せる魔物もいた。

 ただ、その数が普段の討伐に比べて多く、体力勝負に近かった。


「疲れた……!」


 その日の討伐が終了となり、山中で野営する。

 セピアはアンバーと一緒に休んでいたが、いつも以上に疲労が蓄積し、倒れ込むように横になった。


「セピアには大変だったみたいだな?」

「そりゃ俺はまだまだなので……! これからもっと強くなって、アンバー様を超えてみせます!」


 セピアはずっとアンバーの背中を追い続けていた。

 誰にも言ったことがないが、セピアの夢はアンバーのような騎士になることだった。

 不思議と魔導士への未練はない。


「……そうか。それは嬉しいな。セピアもだいぶ成長したなあ。今日も魔物を倒せていたし、剣も上手く使いこなせていた。これからどんどん強くなっていくだろうな」


 アンバーは嬉しそうに目を細めて笑う。

 そんな風に褒めてもらえて、セピアは嬉しかった。


「なあ、セピア」

「はい、アンバー様」

「君は……セピアは、騎士に興味はあるか?」


 愛おしそうな眼差しを向けられ、セピアは胸がくすぐったくなる。


(思い切って話してみようかな……俺は、騎士になりたいって)


 その時アンバーはどのような反応をするだろうかと考えただけで、鼓動が速まった。



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