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46.隣に立つ覚悟③

「あ、リラ様。改めてご結婚おめでとうございます」

「ふふっ、ありがとう。次はアイリスたちの番ね」

「はい」


 リラ様の言葉に、今日は迷わず肯定する。


「あら……そう、決めたのね」

「リラ様のおかげで自分と向き合い、答えを出すことができました」

「決めたのはアイリス自身よ。わたくしは何もしていないわ」


 リラ様は嬉しそうに笑い、何かあったらいつでも相談して欲しいと心強い言葉をかけてくれた。


「リラ!」


 二人で話していると、一人の令嬢がリラ様に声をかける。


「あ、今は王太子妃様ですね」

「気楽に話してちょうだい。わたくしと貴女の仲なのだから」


 二人はとても仲良さそうに話していて、友人なのだと察した私はすぐにその場を去ろうとした。


「アイリス、どこに行くの?」

「飲み物を取りに行って来ますね」

「でしたらわたくしも……」

「リラ様は主役なのですから、この場にいてください。リラ様とお話したい方もたくさんいると思いますので!」


 リラ様の邪魔をしたくなかった私は、ここから一人で行動することにした。

 セピア様の元に戻りやすいよう、飲み物を調達しようと思い周囲を見渡す。

 タイミングよく使用人がトレイに飲み物を乗せて、ちょうどこちらに向かって歩いていた。


「……あれ」


 声をかけようと思ったけれど、その使用人の様子がおかしいことに気づく。

 足取りがおぼつかず、トレイを持つ手も震えている。

 大丈夫かと思い近づこうとしたら、おもむろに顔を上げたその使用人と目が合った。

 その瞬間、背筋が凍る。

 使用人はニヤッと笑みを浮かべ──手に持っていたトレイを落とす。

 危険を感じた私は逃げようとしたけれど、ガシャンとグラスが割れる音がした時にはもう使用人が目の前にいた。


「残念だが一緒に死んでくれ」


 相手は胸ポケットから何かを取り出そうとし、咄嗟に目を閉じる。


「……アイリス!!」


 最後にセピア様の叫ぶ声が聞こえ、ふわっと何かに包まれた感覚がした直後、爆発音が耳に響いた。

 周囲の悲鳴と共に目を開けると、私は横たわっていて、セピア様の腕の中にいた。

 無事……だった? 近くで大きな爆発音が聞こえたのに……?

 なんだか嫌な予感がした。


「公爵!!」


 殿下が叫ぶと共に駆け寄ってきた時、私を抱きしめていたはずのセピア様の腕の力が抜ける。


「……え」

「無事、か」


 いつになく弱々しいセピア様の声。

 ゆっくりと上体を起こすと、力なく横たわるセピア様の姿があった。

 私を庇った時に負ったのだろう、背中が大きく損傷していた。


「セピア様……!」


 床にセピア様の真っ赤な血が広がっていくのを見て、これは致命傷だと気づくのに時間はかからなかった。


「セピア、大丈夫か⁉︎ おい、急いで神官を呼べ! 医者もだ!」


 呆然とする私の代わりに、殿下が指示を出してくれる。

 けれどきっと、医者や神官が到着する頃にはもう──間に合わないだろう。

 それに、治療を施したところでこの傷を治せるとは到底思えない。


「あの怪我……聖女様にしか治せないのでは?」

「治癒は聖女様しか……」


 周囲の人たちもセピア様の状態を見て、誰もがビリジアンに目を向ける。


「いいや、ダメだ。聖女は覚醒して間も無く、不安定なのだ」


 しかし国王はどこか青ざめた様子で、周囲の意見に対して否定の意を述べた。

 偽の聖女だとバレないためだろう。


「くっ、神官や医者はまだか! この国を守る偉大な魔導士を死なせるつもりか⁉︎」


 先程の爆発はきっと、私を殺そうとした国王がの仕業だろう。

 あの時の優しい笑みは、私を殺すことで全て終わることに対する感情を表していたのだ。

 しかしセピア様が私を庇って致命傷を負うという、国王にとっても想定外のことが起こり、明らかに動揺していた。


 ああ、無能なのはどちらだ。

 このままではセピア様が死んでしまう。そんなの絶対に嫌だ。

 迷いはなかった。

 覚悟はすでに決まっている。たとえ何も準備ができていない今、国王の前でこの力を使おうとも、それでセピア様を救えるなら──


「使う、な……」

「……え」


 セピア様の震える手が、私の服の袖を掴む。

 まるで今から私が何をするかわかっているような表情だ。

 ああ、セピア様は死を前にしても私のことを考えてくれるのか。


「いいえ、使わせてください。私はこれからもセピア様と一緒にいたいんです」


 これは嘘偽りない本音。

 今日、屋敷に戻ってから伝えようとしていた言葉の一つだ。

 セピア様の隣にいても恥じない人間になって、彼の気持ちに応えたい。

 どれだけ苦しい日々が待っていようと。


 そうして私はセピア様に向けて力を使う。

 金色の光がセピア様を包み、瞬く間に傷が癒えていく。


「あ、あの光は……」

「見ろ、怪我が治っていくぞ!」


 どよめきの中で、無事にセピア様の治癒を終えた。

 ホッと息を吐き、顔を上げると……驚きと共に本物の聖女を見つけたことに対して嬉しそうな、意地汚い笑みを浮かべる陛下と目が合った。

 聖女として生きていく覚悟をしてセピア様を助けたけれど、思わずゾッとする。


「まさか……そなたが」

「陛下」


 その時、殿下とリラ様が私を庇うように前に立ってくれた。


「今、会場は混乱しています。公爵の容体も心配です。残念ですが、今日はこれで終わりにしましょう」


 殿下の言葉にハッと我に返った様子の陛下は、セピア様を心配する素振りを見せながら「そうしよう」と言い、パーティーがお開きとなった。



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