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44.隣に立つ覚悟①

 王太子殿下とリラ様の結婚式の日。

 王都はまるでお祭り騒ぎだった。

 二人の晴れ姿を一目見ようと、王都に来た人たちも多く、いつもより人口密度が高くなっている。


「すごい人ですね……」


 騎士によって道を規制される中、私とセピア様は馬車で王宮に向かっていた。


「近い将来、国を支える二人だ。期待度も高いのだろう」

「これがリラ様の仰っていた……」


 私とセピア様の話題を消すため、二人の結婚は早められた。

 その効果は絶大だったようで、今の人々は私とセピア様のことなど頭から消えているだろう。

 きっとこれから、私は危険に晒される日が増えるのだ。


「あの、セピア様」


 今日が来るまで、どうするべきかずっと考えてきた。

 考えた上でようやく私は答えを出した。


「今日屋敷に戻ったら、セピア様にお話したいことがあります」

「……そうか、わかった」


 覚悟は決まった。

 あとはこの気持ちもセピア様に伝え、私は私なりに前を向いて歩んでいくだけ。

 私はセピア様にお礼を言い、笑顔を浮かべた。



◇◇◇


 結婚式では、互いを見つめ合う王太子殿下とリラ様がとても幸せそうで、私にも分け与えてもらったかのように心が満たされた。

 式が終わった後は王都で二人のお披露目があり、夜になると第二部として盛大なパーティーが開かれる予定だ。

 私とセピア様は王宮の一室で、パーティーの時間が来るまで待機していた。


「それにしても、国王陛下が欠席とは驚きました」


 実の息子である殿下の晴れ姿だというのに、国王が姿を見せることはなかった。

 代わりに国王の側近が、国王から預かったという祝いの言葉を述べ、特に問題視されることはなかった。

 しかし私の近くでその様子を見ていた貴族たちが、『最近陛下はよく体調を崩している』と話していて、今回もそれが原因ではと噂していた。


「パーティーには顔を出すと聞いている」

「そうなのですね……」


 てっきり今日は国王と会わずに済むのではと期待してしまったのもあり、気分がグッと下がる。


「では欠席した理由が緊急事態が起きたというのは本当だったんですかね?」


 それはそれで何があったのか気になってしまうけれど。


「さあ、どうだろうな」

「……?」


 セピア様は何か知っていそうな様子だったが、濁しているのを見る限り、あまり触れない方が良さそうだと判断する。


「結婚式はとても素敵で楽しかったのになあ」


 みんな殿下とリラ様に視線が集まり、私やセピア様が注目を受けることもなければ、参加していたビリジアンも大人しかった。

 しかしパーティーになると話が変わってくる。

 ビリジアンやティアン侯爵、国王に……と、注意すべき相手が多くて気が重い。


「パーティーも楽しむといい」

「はい。セピア様と初めて参加するパーティーなので楽しみたいです」


 これは本心だ。

 けれど純粋に楽しめないのは少し悲しく、つい嘆いてしまった。

 セピア様が隣にいてくれるのだ、きっと何事もなく終わるだろうと切り替えて参加したものの──


 私とセピア様が会場入りするなり、視線が集中した。

 まだ主役の二人が来ていないのもあり、余計に注目を浴びてしまう。


「公爵様だわ。とても麗しいお方ね……」

「やはりオーラが違いますわ」


 誰もがセピア様に釘付けだった。

 さすがはセピア様だ。一瞬にして多くの人を虜にしてしまうなんて……あまり良い気はしないけれど。


「ですが見てください、隣にいるご令嬢を」

「なぜ公爵様はあのような落ちこぼれの女を選んだのでしょう。ああ、一応ご令嬢? でよろしいのでしたっけ」


 最初はセピア様に対する賛美ばかり聞こえてきたが、ようやく私の存在が目に入ったのか、陰口が始まった。

 私の耳にまでしっかり届いているため、とても陰とは言い難いけれど。


「確か彼女の家は没落寸前だとか」

「しかも聖女候補だったんですって。神殿ではろくに神聖力も使えない無能と言われていたそうですよ」

「まあ、公爵様が気の毒だわ」


 やはり私の評価は最悪だった。

 貧乏貴族出身で、聖女候補だった落ちこぼれ。セピア様とは不釣り合いだ、と。


「……アイリス」

「私は大丈夫です、セピア様」


 今の私が不釣り合いなのは知っている。

 だからこそ私は、恥じずに堂々とセピア様の隣に立つため、覚悟を決めたのだ。

 それはこの程度の陰口で簡単に揺らぐものではない。


「しかし私の気が済まない。君を悪く言う人間を一人残らずこの目に焼き付けておこう」


 セピア様は冷たく睨みつけるような目を周囲に向け、私のことを悪く言っていた人たちが凍りつく。

 特に傷付いてはいないが、セピア様が黙らせてくれたおかげで気が軽くなった。


「セピア様!」


 しかし背後から猫撫で声が聞こえ、思わず「げっ」と言いたくなるのを必死で堪える。

 セピア様は眉をひそめたが、仮にも貴い存在とされる人物を無視するわけにはいかず、煩わしそうに振り返った。

 私も後に続くと、ビリジアンがこちらに向かっていた。


「見て、聖女様だわ」

「美しい……お二人が一緒にいると絵になるな」


 セピア様とビリジアンが並ぶと、私の存在がなかったかのように、二人を褒める声に包まれた。

 不自然なほどに周囲はセピア様とビリジアンがお似合いだと騒ぎ、二人が結婚した方がいいのではという流れが完成する。

 もしかして、これもビリジアンたちが仕組んだものだとしたら……。


「誤解を招くようなことはやめていただきたい」


 セピア様は不快感を隠そうとせず、ビリジアンに鋭い視線を向ける。


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