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26.兄妹の過去と未来の約束③

「国王も実の親も……わたくしたちのことを人として扱ってくれない。身を案じてくれたのはクラレット様とアンバー様だけだった。そんなお二人を苦しめた国王をわたくしは許せない。それはお兄様も同じ」


 そう、そこで最初の疑問だ。

 なぜセピア様は国王に忠誠を誓っているのか。


「けれど国王は、お兄様が自分に献身的に仕えていると勘違いしているわ。お兄様は弱体化していた魔導士団の改革に成功し、今では国王の命令で騎士団の訓練も見ているから、そう思うのも無理はないわね」


 騎士団の訓練と聞いてピンときた。

 セピア様が毎日のように外出し、忙しそうにしているのはそのためか。

 ただでさえ当主としての仕事や魔導士団の統率しないといけないのに、騎士団まで……負担があまりにも大きすぎる。


「昔は魔導士団と騎士団ってすごく仲が悪かったの。けれと今は魔導士団も騎士団もお兄様を慕い、その背中を追いかけ続けている一方で、無茶な任務を命じる国王に対して不満は募るばかり。今はお兄様が間に入っているおかげで何事もなく遂行されているけれど……これが何を指すのかわかる?」

「それは……」


 心臓が嫌な音を立てる。

 それは口にするのも躊躇われるようなことだ。


「この国の軍事権はお兄様が握っているようなものよ。もしお兄様が国王に反旗を翻せば、魔導士団はもちろん騎士団もお兄様側につくでしょうね」

「もしかしてセピア様は、謀反を……」

「今のところその予兆は見られないわ。けれど正直、わたくしもお兄様の考えていることがわからない。アンバー様が亡くなってしまってからお兄様は変わってしまった。周囲から冷酷無慈悲と言われるくらいにね」


 セピア様は自分の心を殺し、復讐のために強くなって今日まで生きてきたのだとしたら。

 孤独の中で闘ってきたのだとしたら──


「だからわたくしは貴女に感謝しているの」

「……え」

「だって貴女の話をする時のお兄様は、まるで昔に戻ったように笑うんだもの」

「私は何もしていません。むしろセピア様には助けられてばかりで、いつもご迷惑を……」

「そんなことないわ。お兄様は貴女が思う以上に、貴女に救われていると思うの。だからこれは貴女にしか頼めない“お願い”よ」


 お義姉様は私の手をそっと握る。


「お兄様をたくさん幸せにして。復讐なんてものから解放させてほしいの……お願い」


 セピア様は気づいているだろうか。

 ここにも、大切に想う人がいるってことを。


「約束します」


 誰よりも優しくて温かいセピア様に、これ以上苦しんでほしくない。

 私にセピア様を幸せにできるかなんてわからないけれど、寄り添うことはできる。


「私が絶対にセピア様を幸せにします……!」


 勢い余って言い切ってしまったけれど後悔はなかった。

 お義姉様は私の言葉を聞いて、涙ぐみながら嬉しそうな笑みを浮かべてくれた。


「ありがとう。お兄様と出会ってくれて」

「お礼を言うのは私の方です! 私はセピア様と出会えて、心から感謝しています」


 セピア様と出会っていなければ、きっと私は今も独りだった。

 クラレット様が亡くなってしまってから、誰かと一緒にいる喜びも、温かさも感じられないまま、神殿で孤独に生かされ続けていただろう。 


 一連の話を聞いて私も泣きそうになり、思わずお義姉様と微笑み合っていると、突然ノックもなく部屋のドアが開けられた。

 私たちは驚いて警戒しながら視線を向けると、部屋に入ってきたのは──


「オペラ、お前泣いているのか?」


 銀髪碧眼の男性だった。

 真っ先にお義姉様に声をかけていたけれど、その口調から誰なのかある程度予想がついた。


「陛下、話は終わられたのですか」

「ああ。無駄話の多い野郎だった。その後公爵に騎士団の訓練を見せてもらったが、そっちの方が有意義だったな」


 その男性の正体はオパール帝国の皇帝だった。

 慌てて挨拶しようとしたけれど、続いて部屋に入ってきた人物を見て固まってしまう。


「お兄様……!」


 私よりも先にお義姉様が反応を示した。

 そう、その人物とはセピア様だったのだ。

 私は挨拶どころではなくなり、どこまで話を聞かれていたのかと気になってしまう。


「オペラ皇后陛下」

「やめてくださいお兄様! 公式の場以外ではいつものように接してくださいませ!」

「……ふっ、相変わらずだな。オペラ、元気にしていたか?」

「お兄様に会えない日々が続いて辛かったです……!」


 お義姉様は、今にもセピア様に抱きつきそうな勢いだった。


「そうか」


 セピア様は柔らかく微笑み、お義姉様の頭にポンと手を置く。

 尊い場面に遭遇して喜びたいところだったけれど、いつから聞かれていたのかが気になってそれ以外のことは考えられなかった。


「オペラ……堂々と俺より兄を選ぶとはいい度胸だな」

「わたくしの一番はお兄様ですもの。どうかお許しください陛下」


 皇帝相手にも強気の姿勢を示すお義姉様は、セピア様から離れようとしなかった。


「オペラ。あまり皇帝陛下を困らせてはいけないだろう」

「お兄様まで……久しぶりに会えたのに、少しぐらいわたくしの相手をしてくれてもいいじゃないですか」


 頬を膨らませ拗ねているアピールをするお義姉様と、優しい眼差しを向けるセピア様。

 正直尊すぎていつもの私なら卒倒しそうな勢いだが……お義姉様やセピア様があまりにも通常運転のため、もしかして先程の話を聞かれていなかったのかと期待する。

 明らかに場違いな私は、ここは空気と化してこの場を凌ごうと思ったけれど……パチッとセピア様と目が合ってしまう。


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