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25.兄妹の過去と未来の約束②

「お気になさらないでください。むしろ感謝しています」

「本当……? けれど感謝ってどうして?」


 お義姉様の表情がパッと明るくなる。

 癒しを与えてくれたことに対する感謝の意を言葉にしたが、あえて言わないことにした。


「それより、私にお願いとはどういった内容でしょうか?」

「その前に……いくつか貴女に話しておきたいことがあるの」


 ふと、お義姉様の表情が真剣になった。

 ここからが本題なのだと理解した私は、息を呑む。


「貴女はクラレット様とアンバー様のことをどこまで知っているの?」


 アンバー様とは、クラレット様の夫にあたり、この国の前騎士団長だ。

 クラレット様から何度か話を聞いたことがあるけれど、私がアンバー様のことを知った時はすでに亡くなった後だった。

 そんなお二人のことを尋ねるのはどうしてだろう。


 その様子だと、おそらくお義姉様もお二人の過去を知っている。

 じゃあ……セピア様は?

 お義姉様が知っていてセピア様が知らない、ということがあるのだろうか。


「貴女も知っている様子ね」


 お義姉様の言葉にハッと我に返る。


「あの、セピア様は……」

「もちろんお兄様も知っているわ。きっと、わたくしたちよりもね」


 ドクンと心臓が大きな音を立てた。

 セピア様もクラレット様の過去を知っている──?

 ではどうしてセピア様は、国王に忠誠を誓っているの? 誓えるの……?


「国王に従っているお兄様が気になっている様子ね」

「……っ」

「そう、お兄様はまだ貴女に話していないのね」


 心を見透かされたような気分だ。

 いったいセピア様は何を抱えているのだろう。


「お兄様は貴女に話すつもりはないのかもしれないけれど……わたくしは貴女に知って欲しいの。聞いてくれる?」


 お義姉様の言葉に悩む間もなかった。


「聞きたいです。セピア様のこと、教えてください」


 もっと知りたい。

 私の知らないセピア様のことを。


「ありがとう」


 お義姉様は目を潤ませながら微笑み、なぜか私にお礼を伝える。

 それを言うなら私の方だというのに。


「わたくしたちの両親は愛のない政略結婚で、いつも関係が冷えていたわ。お兄様やわたくしたちに対して情などなくて、愛された記憶も正直ない。幼い頃から強い魔導士にさせる“道具”のような扱いをされて、幼い記憶は思い出したくないものばかり」


 お義姉様は淡々と話し始め、辛いや苦しいといった感情も感じられなかった。


「そんなある日、わたくしとお兄様は魔法の勉強だと言って、魔物の討伐に参加させられたことがあるの。その時に魔物に襲われていたところを助けてくれたのがクラレット様とアンバー様だった」


 お義姉様の表情が和らぎ、その時のことを懐かしみながら話しているのがわかった。

 私は黙って耳を傾ける。


「二人はわたくしとお兄様の命の恩人であり、その後はまるで親のように気にかけてくれて、心から慕っていたわ。特にお兄様は頻繁に討伐に参加させられてお二人と共に過ごす時間が長くて、わたくしよりも想いが強かったと思うの」


 私もクラレット様は母親のような存在であったように、お義姉様やセピア様にとっても同じだったのだ。


「お二人と過ごす時間は本当に幸せだった。けれど……アンバー様は魔物の討伐で亡くなってしまった。お兄様は自分が原因で死なせてしまったと思っているの」

「……え」


 アンバー様の死に関してクラレット様から聞いた話では、セピア様は一切出てこなかったため、思わず驚きの声をあげる。

 当時二箇所に分かれて魔物の討伐が行われ、クラレット様は強い魔物が多くて討伐レベルの高い方を、アンバー様は低い方に向かうよう国王に指示されたらしい。

 アンバー様が討伐に向かった地帯は弱い魔物が多い代わりに数が多く、体力勝負だが命の危険は限りなく少ないとされていた。

 しかし実際は強力な魔物が棲みついており、さらには数少ない夜行性の魔物で討伐隊が夜に眠りについた時に襲って来たという。

 その時に仲間を守るため、果敢に立ち向かったアンバー様は命を落としたと聞いていた。


「ですがアンバー様は」

「その討伐にはお兄様も参加させられていたの。そんなお兄様を庇ってアンバー様は命を落としてしまったようで……今もお兄様はそのことで苦しんでいる。いくら国一番の魔導士だと言われても、お兄様の傷は癒えないまま」


 直後、お義姉様は力強く拳を握って怒りの感情を表した。


「お兄様は何も悪くないに……悪いのは国王なのに。あいつは……国王は知っていた。アンバー様とお兄様が討伐に行った地帯に危険な魔物が棲んでいることを」


 裏で手を回し、討伐隊を危険な状況に晒す……あの国王ならやりかねない。

 けれど一つ疑問が残る。


「討伐隊は騎士団と魔導士団で編成されているんですよね……どうして自国の貴重な戦力を削るような真似なんかできるのでしょうか」

「捨て駒としか思っていないのよ。聖女さえいれば誰も戦いで死ぬことはないから。それに当時、お兄様は魔法が覚醒していなくて使えなかったの。すでに覚醒しないとおかしい年齢だったみたいで、お父様は国王と手を組んでわざと危険な討伐にお兄様を参加させて死の淵に立たせた」


 あまりにひどい仕打ちに、声すら出なかった。


「死んだら所詮その程度だとお父様は言っていた……不幸中の幸いと言っていいかわからないけれど、お兄様はアンバー様の死がきっかけとなって魔法を覚醒させたと聞いたわ。そのおかげで犠牲者はアンバー様だけだったと……そう、クラレット様が合流した時にはもうアンバー様は……」


 悔しそうに涙を堪えながら話すお義姉様を見ていられず、思わず止めに入る。


「お義姉様、これ以上はもう無理してお話しされなくても……」

「お願いだから聞いて。きっともう、お兄様を止められるのは貴女しかいないから」

「え……」


 セピア様を止める?

 それがお義姉様の言う“お願い”なのだろうか。

 どういうことか聞きたかったけれど、とても尋ねられる状況ではなかった。



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