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23.お茶会②


「やはり事実ではなかったのですね」

「当然ですわ。セピア様は怪我を負わせた罪悪感から仕方なく婚約しただけですもの。ね、アイリス」


 私ではなく、なぜかビリジアンが噂を否定する。

 聞かれてもいない婚約した理由についても話し始めるなんて……本当にいい性格をしている。


「アイリスの言う通り、セピア様は本当に優しい方ね。この程度の怪我で貴女と婚約するなんて……価値なんてないのに」


 ビリジアンの怒りが伝わったのか、他の令嬢たちはどこか怯えた様子で彼女に同調した。


「ねえ、アイリス。セピア様のためを思うなら婚約を破棄するべきだわ。このままだと由緒正しきロドリアン公爵家に傷がついてしまうと思わない?」

「ですが偽りの肩書を持つ方と婚約して、後に嘘だとわかった時の方が傷がつくと思いませんか? 私はもう落ちるところまで落ちていますが、そんな私をセピア様は受け入れてくださったのですから破棄する必要はないかと」

「なっ……」


 遠回しに偽の聖女であることを示唆する発言をしたことで、ビリジアンの怒りを買う。

 そのまま私に手をあげればいい。

 ここは王宮だ。全員がビリジアンの味方ではないだろう。もし王宮の関係者がたまたま近くを通り、聖女が一方的に手をあげている姿を見かけて広まったら、威信が落ちるはずだ。


「貴女はわたくしを侮辱しているの⁉︎」


 ビリジアンがカップの中身を私にかけようとし、咄嗟に目を閉じる。


「何か騒がしいと思ったら、とても楽しそうな雰囲気のお茶会ね」


 しかしそれを遮るように、女性の冷たく鋭い声が聞こえてきた。

 声のした方に視線を向けると、そこには──


 息を呑むほど美しい女性の姿があった。

 艶のある黒くて長い髪に燃えるような赤い瞳の女性に、一瞬で目を奪われる。

 視界に映る彼女を例えるなら、そう……まるでセピア様を女性にしたような方だった。

 女性版セピア様……?


「オペラ皇后陛下……! ご、ご挨拶申し上げます!」


 すると令嬢の一人が深々と頭を下げて挨拶をし、他の令嬢たちも慌てたように続いた。

 オペラ皇后陛下という名を聞いて、ようやくわかった。

 目の前にいる美しい女性は、オパール帝国の皇后でありながら、セピア様の妹でもあるお方だと。

 もしかしてセピア様が会わせたい方は、妹である皇后陛下のことだろうか。

 慌てて私も挨拶をしたが、なぜかビリジアンだけはその場で固まっていた。


「それほど畏まらなくて結構よ。以前はわたくしたち、仲良くしていたでしょう?」


 すごい……セピア様に負けず劣らず、威圧感があって恐怖心を掻き立てられる。

 この場にいる誰もがオペラ皇后陛下に逆らえないと、瞬時に理解した。


「ねえ、ビリジアン。久しぶりね、元気にしていた?」

「……っ、お久しぶりです。皇后陛下」


 ビリジアンは顔が引き攣っていて、上手く笑えていない。

 過去に二人の間で何かあったのだと感じ取れる空気感だった。


「それにしても綺麗な金色の髪ね。まるで作り物のように美しい髪色だわ」

「なっ……いくら皇后陛下でも、聖女に対する侮辱は見過ごせません!」


 皇后陛下もビリジアンが偽の聖女だと知っているのだろうか。


 初代聖女が金髪金眼だったこともあり、金色とは聖女を象徴する神聖な色だとされていた。

 特に金色の髪は代々聖女に受け継がれているようで、歴代の聖女は皆金髪だったという。

 クラレット様も綺麗な金色の髪をしていた。

 しかしビリジアンは、元々鮮やかな緑色の髪をしていた。

 表向きは聖女の力が覚醒して金髪になったという設定だったが、あの髪は作り物だろう。

 それに覚醒すれば金髪になるというのも作り話だ。

 なぜなら私自身、聖女の力を覚醒させたにもかかわらず、髪が茶色のままだからだ。


「そうね──」


 その時、皇后陛下がビリジアンに耳打ちした。

 途端にビリジアンは顔色を変え、顔面蒼白になった。

 いったい何の話をしたのかわからなかったけれど、あれだけ偉そうだったビリジアンが急に大人しくなったのだ、相応のことを言われたのだろう。


「ふふっ、みんな黙ってしまってつまらないわ。そうだ、わたくしが余興をしてあげようか? たとえば……怪我をさせずにドレスを燃やす、というのはどうかしら? わたくし、魔法のコントロールにはとても自信があるの」


 笑顔で恐ろしい発言をする皇后陛下に空気が凍てつく。

 確か皇后陛下は炎魔法に特化しており、とても優れた魔導士だったはずだ。

 公爵様も炎魔法で妹の右に出る者はいないと話していたため、実力は相当なものだろう。

 あれほど傲慢な振る舞いをしていた者たちが圧倒され、怯えている姿は滑稽だった。

 なんて呑気なことを考えていると、皇后陛下と目が合ってしまう。

 直後、鋭く睨みつけられてしまい、ビクッと肩が震えた。


 それは敵意とも取れるほどで、もしかして何か無礼を働いてしまったのかと不安になる。

 正直そのような心当たりはないけれど……もしかしたら、セピア様の婚約者としてよく思われていないのかもしれない。


「興醒めね。みんな黙ってしまってつまらないわ。こんなお茶会、早く終わらせたらどうかしら。ちょうどこの子に用があったし……まあいいわ、借りていくわね」

「え……」

「貴女、わたくしについてきなさい」


 皇后陛下は私の目の前に立ち、冷たく言い放つ。

 私に拒否権などなく、ビリジアンの許可が下りる前に、皇后陛下は私を連れてその場を後にした。


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