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18.知りたくて①

 翌日の朝の目覚めは、あまり良いものではなかった。

 昨日のデートは楽しかったはずなのに、国王と会ったことで思い出が黒く塗りつぶされた気分だ。


「アイリス様、おはようございます」

「おはよう、スカーレット」


 朝から気が重かったけれど、スカーレットの笑顔に癒されながら起き上がる。


「昨日はいかがでしたか?」


 心配してくれているのか、どこか気まずそうに尋ねられる。

 そういえば、昨日家に帰ってからは気分が暗く、ぼうっとしてしまい、スカーレットと話していなかったことを思い出た。


「とても楽しくて素敵な時間だった!」


 満面の笑みで返すと、スカーレットは安心したように息を吐いた。


「良かったです。お二人とも、帰宅した時のご様子が変でしたので……」

「初めて王都に出かけたから、はしゃぎすぎて疲れてしまったのかも」


 言い訳を並べるけれど、ふとスカーレットの言葉に疑問を抱く。

 様子がおかしかったのは公爵様も……?

 正直、昨日の帰り道は自分でいっぱいだったため、公爵様がどんな表情をしていたかわからない。

 もしかしたら、私の気持ちが沈んでしまったことで、心配かけさせてしまったのかもしれない。


「あっ、そういえば……」


 その時ふと、昨日公爵様に聞きそびれたことを思い出す。

 公爵様にとって、クラレット様とはどういう存在だったのだろうか。

 昨日、公爵様はとても大切な人を想うような優しい眼差しで、クラレット様(お墓)を見つめていた。

 二人の関係性を尋ねようとした時に、タイミング悪く国王が来てしまったため、それが叶わなかった。


「私って公爵様のことを、何も知らないなあ」


 知っていることといえば、若くして公爵家の当主になり、魔導士団の団長を務めていて、数多の魔法を扱える……といった、誰でもわかるような内容ばかり。

 そもそもロドリアン公爵家に嫁ぐというのに、この家についても知らないことが多い。


「よし、決めた。スカーレット」

「はい、アイリス様」

「私、今日は勉強する!」


 公爵様について知る以前に、未来の公爵夫人になる者としてまずはこの家の歴史に触れることにした。


「わっ、すごい本の数……!」


 スカーレットに案内されてやって来たのは屋敷の地下にある書庫。

 棚にはたくさんの本が並んでいて、思わず感動の声がもれた。


「公爵家の歴史について学びたいと仰っていましたので、こちらの棚になります」


 スカーレットはどの本棚にどの種類の本があるのか把握しているようで、すぐに該当の場所まで案内してくれる。

 その中から気になった本を数冊選び、部屋時間も忘れてを読み耽る。

 数冊よんだだけでも、ある程度ロドリアン公爵家について理解することができた。


 昔は、今よりも魔法を使える者がたくさんこの世界に存在していた。

 その中でロドリアン公爵家の初代当主は優れた魔導士で、様々な功績を残した結果『大魔導士』の称号を与えられた。

 存在する全ての魔法を扱えるだけではなく、その威力や操作力も群を抜いており、世界中が恐れる存在だった。

 当時の国王は敵になることを恐れ、彼を味方に取り入ろうと大魔道士の称号と併せて公爵の地位を与えた。

 そうしてロドリアン公爵家は歴史に名を残す魔導士を多く輩出し、繁栄を極めた一族となった。

 初代当主は黒髪翠眼の美しい容姿で、中でも黒はロドリアン公爵家の象徴となっていた。


「なるほど、初代当主は黒髪翠眼の美しい容姿……黒髪翠眼の美しい……」


 頭に浮かんだのは他でもない、公爵様のお姿。


「記録によると、初代当主と同じ黒髪翠眼を継いだのは、当主様が初めてだそうです」

「え……」

「黒がロドリアン公爵家の象徴になったのは、黒髪を持って生まれた方が強力な魔力を持ち、優れた魔導士になっていたからです。しかしながら、なぜか瞳の色まで遺伝する者はいなかったようです」


 スカーレットはどこか暗い表情で話していて、あまり良い意味ではないことを察する。

 黒髪翠眼の美しい公爵様。初代当主の特徴と同じ……生まれた時から偉大な大魔導士と同じ素質があるのではと、周囲からたくさん期待されていたのだろう。


「大変、だっただろうな」


 ただ髪と瞳の色が同じというだけで、魔導士という決められた道を歩まざるを得ず、そこに自分の意思は反映されない。

 私も神聖力を持っていたため神殿に売られ、期待され……無能だとわかった後は虐げられる。無情な世の中だ。


「当主様はご自身の運命を受け入れ、たくさんこの国に尽くしてきました。それなのに、まるで周囲は当主様を殺戮者とでも言うように恐れ、避けている……こんなのあんまりです」


 スカーレットの顔が悔しそうに歪む。

 この屋敷の使用人は皆、公爵様のことを心から慕っているのは、まだこの家に来て間もない私にも十分伝わっていた。


「こんなに素敵な使用人たちに囲まれて、公爵様は嬉しいだろうな。誰か一人でも理解者がいるのといないのでは全く違うんだよ」


 私は家にいてもずっと孤独で、居場所がないと思っていた。

 家族には愛されず、邪魔者扱いされ……本当は自分に神聖力があるとわかった時、嬉しかった。

 自分は価値のある人間なのだと思えたから。

 けれど家族には捨てられるように売られてしまい、この力がなければ誰にも必要とされないのだとすぐに虚しくなった。

 このまま生き続けても意味がないのではと思っていた時、出会ったのがクラレット様だった。

 理解してくれる人が一人でもいるだけで、私の世界は大きく変わった。


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