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15.初デート③

「どれも君に似合いそうだな」


 オーナーはまだまだやる気だったが、私が限界に達して少し休憩しているところに公爵様が姿を現した。

 けれど……公爵様はなぜか服装が変わっており、というより変装したレベルに変わっていて、まるでお付きの人のようなシャツにズボン、帽子といった質素な格好になっていた。


「こ、公爵様⁉︎ その格好は……」

「君もわかっただろう? 私がいれば皆を怯えさせてしまう。こうするのが手っ取り早い」


 いや、正直変装しても隠しきれない美貌が露わになっているけれど……それよりも、なぜ急に。


「そんな、公爵様が変装する必要はありません」

「すでに私が王都にいることは広まっているだろう。これ以上は君にも迷惑をかけてしまう」


 公爵様は何も悪いことをしていない。

 だからどうか、申し訳なさそうに話さないでほしい。

 その願いとは裏腹に、公爵様は言葉を続けた。


「すまない。王都に出かけるのを楽しみにしていたのに、私のせいでこうなってしまって」


 自分を責めるような言い方。

 どこか諦めたような公爵様の瞳は、私に向けられることはなかった。


「それなら私も変装します!」

「君が気にすることはない」

「では公爵様も気にする必要はありません。 周りが怯えるから、なんです? そんなの、公爵様はとても優しくて温かなお方だと知らないだけです!」


 なぜ公爵様が自分を殺す必要があるのか。

 それが慣れているような気がして、少し苛立ってしまう。


「なので公爵様らしくいてください。せっかくなので公爵様も服を見繕っていただくのはどうですか?」


 いつも黒を基調とした公爵様の服しか見たことがないため、他の格好をぜひとも見てみたい。

 というより、イメージカラーのような黒がさらに公爵様を怖いと印象付けているのではと思った。


「あの、公爵様の服もお願いしていいですか? この美しさが際立つようにお願いします!」


 オーナーに向けてお願いすると、彼女は目を見開いた後、すぐにハッとして笑みを浮かべる。


「かしこまりました。お任せください」

「待て、アイリス。今日は私ではなく……」

「公爵様は大人しく言う通りにしてください。この機会にたくさん服を揃えましょうね」


 少しラフな格好も似合うだろうし、明るい色の服も似合うに違いない。

 この際だからと思い、戸惑う公爵様の背中を押してたくさん試着してもらう。

 私がいい! と思ったものは全て買ってもらうことにした。

 ほぼ全部だったけれど……本当にどれも公爵様に似合っていて格好良かった。

 先程までは私が疲れていたけれど、今はたくさん試着させられた公爵様の顔が少し疲れて見える。


「そろそろ行きましょうか公爵様!」

「待て、君のドレスはまだ買っていないだろう」

「そうですよアイリス様。こちら全て購入でよろしいでしょうか?」

「もちろんだ」

「え、待っ……公爵様、さすがにこれほどドレスはいらないと言いますか」

「私の服は買わせておいて、自分のドレスは買わないなんて言わせるつもりはない」

「こんなにたくさん買っていただくのは申し訳なくて……」

「これは私の婚約者になってくれたお礼だ」


 割りに合っていないと思うのだけれど……ドレス一着でも高価で気が引けるというのに。


「では購入したものは全て屋敷に送るよう手配してくれ」


 けれど公爵様は折れてくれず、結局買ってもらうことになってしまった。

 そのまま服飾店を後にして場所に乗ろうとしていると、小さな子供の声が聞こえてきた。


「あの、こーしゃくさま!」


 パッと声のした方を向くと、そこには先程公爵様にぶつかった子供とその母親が立っていた。

 子供の手には再度アイスがあり、嬉しそうにニコニコ笑っている。


「さっきはぶつかってごめんなさい。アイス、ありがとう!」


 あまりの可愛さにキュンとする。

 さすがの公爵様もこの可愛さに心臓が射抜かれるだろうと思ったけれど、表情は硬いままだった。


「感謝するなら身を挺して君を守ろうとした母親に言うんだ」


 公爵様の視線は何度も頭を下げる母親へと向けられていて、どこか切なげな表情に疑問を抱く。

 何かその言葉には深い意味があるように思えた。


「貴女の取った行動に私は敬意を示そう」


 その時初めて公爵様は柔らかく微笑む。

 その笑みは、張り詰めていた空気を一変させた。

 どこか怯えながらその様子を見ていた周囲の人たちですらも、その笑みに見惚れたのか、少し緊張感を解いていた。


「ではアイリス、行こうか」

「あの、公爵様。このまま歩いて王都を見て回りませんか?」


 そうだ、もっと公爵様を知って貰えば良いのだ。

 恐ろしい人ではないとわかってもらえるまで、新たな表情をたくさん広まってほしい。


「しかし、それでは……」

「せっかくのデートなんですから、二人で仲良く歩きましょう。ね?」


 そう言って笑いかけ、公爵様の腕を掴む。

 仲良しアピールのためにしたつもりが、なぜか公爵様に顔を背けられてしまった。

 さすがに不敬だったかと思ったけれど、ほんのり耳が赤くなっているのがわかり、照れている様子だった。

 こんなことで照れるなんて、ギャップがあって可愛すぎではないだろうか。


「お腹空きませんか? 何か食べましょう」


 レストランで食事でも良いけれど、今日はたくさんの人に公爵様を見てもらおうと出店を見てまわる。


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