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10.救いの手②

「目を覚まして!」


 必死で抵抗しようとするけれど、男二人の力に到底敵わない。


「お前、顔はそこそこ良いから一度は手を出してやりたいと思っていたんだ。見ろ、いつもは平然としてる顔が歪んでる」

「滑稽だな。泣き喚く姿が見れたら、さらにいいんだが……」

「いやっ……」


 そうして相手の手が私の服に触れ、反射的に目を閉じる。

 直後頭に浮かんだのは、公爵様の姿で──


「欲に塗れた神殿は危険だとわかっていて、君は何故助けを求めないんだ」


 夢かと思った。

 頭に浮かべた公爵様の声が本当に聞こえてきて、幻聴かと。

 けれど私の服を脱がそうとしていた神官の手が離れ、恐る恐る目を開ける。


「うぐ……」


 神官二人は影のような黒い靄で縛られ、私から引き剥がされていた。

 間違いない。これは闇の魔法だ。

 この魔法を使えるのは、今の神殿で公爵様しかいない。

 ドアの方に視線を向けると、殺気を纏った公爵様の姿があった。


「公爵、さま……」

「君には警戒心というものがないのか? このような夜に呼び出され、なぜ大人しくついて行ったんだ」

「どうして公爵様がそれを……」

「昼も危険な目に遭った君を放っておくわけがないだろう?」


 公爵様は私を抱きしめる。

 ふわりと温かな腕に包まれ、途端に安心感が芽生えた。

 そうか、公爵様はずっと私を心配してくれていたんだ。


「ありがとうございます……」

「怖かっただろう」


 チラッと公爵様の魔法に囚われた神官に目を向ける。

 口も塞がれており、声にならない声を上げながら暴れている。こんな男たちに私はやられっぱなしだったのか。

 そう考えると腹が立ち、公爵様から離れて神官のそばに行く。


「アイリス、何をして……」

「こんのクズ男め! 何が私だけ幸せになるのは許せない、だ? 自分で自分を不幸にしているんじゃない! 己を一生悔いろ!」


 思わず下半身を目がけて蹴りを入れる。

 もちろんしっかり二人ともに。

 男たちは涙目になりながら痛みに叫んでいるようだったけれど、縛られているため何もできない。

 さっきはこんな風に私を押し付けて抱こうとしてきたのだから、自業自得だ。


「……ふっ」


 怒りを発散させ幾分スッキリしていると、一部始終を見ていた公爵様は笑みをもらした。

 はっ、しまった! こんな恥ずかしい姿を公爵様に見られてしまったなんて。


「君は本当に私の想像を超える行動を起こすから、放っておけないな」

「ひ、引きました……? さすがに」

「まさか。君らしいと思ったよ。それより早くここを出よう。ああ、私の大切な婚約者に手を出した罪はしっかり償ってもらうから、覚悟しておくといい」

「ぐう……っ」


 さらにきつく縛り上げ、男たちが顔を歪める。

 魔法って本当にすごいんだな……。

 自分にはない力を前に圧倒される。


「怪我はないか?」

「はい! あの、本当にありがとうございました。公爵様がいなかったら、あの神官を蹴るなんてできなかったと思うので!」


 少しはスッキリした。

 これも公爵様のおかげだなと、心から感謝する。


「いや、礼など必要ない。むしろ私が謝るべきだ。本当は君を引き止めるべきだったのに、現行犯で罰することができるいい機会だと思って、君に怖い思いをさせてしまった。本当にすまない」

「そうだったんですね。ですが私もあの神官たちは痛い目に遭えばいいのにと思っていたので、やっぱり公爵様に感謝しないといけませんね!」


 確かに力が敵わなくて怖かったけれど、それ以上に相手に仕返しができて満足している。

 それに、公爵様が助けてくれたから、それだけでもう安心できた。


「それより魔法って本当にすごいですね! 闇の魔法なんて初めて見ました!」


 私にも魔法の才があれば、悪い奴らを一掃できたかもしれないのに。

 聖女の力も莫大だけれど、守る側のため先頭には不向きだ。


「……これは、大事な時に何もできなかった無能の証だ」

「え……」


 一瞬、公爵様の顔が苦しそうに歪んだ気がしたけれど……見間違いだったかもしれない。

 うまく公爵様の言葉も聞き取れず、それ以上は何も聞かないことにした。


「君にとって私は頼りない婚約者のようだしな」

「ち、違います! 私はただ公爵様に迷惑はかけたくないと……」


 慌てて弁解するけれど、どこか拗ねたような様子の公爵様にキュンとしてしまう。


「申し訳ありません……自分の考えが甘かったです。でも襲われそうになった時、頭に浮かんだのは公爵様で……そうしたら本当に助けに来てくださって……ありがとうございます」

「感謝しているのなら、次からは必ず私を頼ると約束してくれ」

「いいのですか……? その、たくさんご迷惑をおかけするかもしれなくて」

「君を守れるのなら本望だ」


 公爵様の優しさに涙が出そうだ。

 これほど私を案じてくれたのは、この世でクラレット様だけだと思っていた。

 けれど公爵様も私を案じてくれている。家族に見放され、クラレット様が亡き今は神殿で誰一人味方もいなかった私の心に、公爵様の優しさが染み渡った。


「やはり君をこのような危険な場所に置いておけない。今夜発つことにしよう」

「え、ですが明日の予定では……」

「今回の一件で神殿の責任は免れない。このくらい容認させる」


 『してもらう』のではなく、『させる』と言う辺り、権力の強い公爵様らしい発言だと思った。


「君はそれで構わないか?」


 それでも、私の意見には耳を傾けてくれる。

 それも身内にはとことん優しい公爵様らしい発言だった。


「はい! もちろんです。私を神殿から連れ出してください」

「ああ。では今すぐ私の屋敷に向かおう」


 今回も私は公爵様に助けられ、ついに神殿を出る時が来たのだった。



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