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屑鉄の鉄拳  作者: ウィリアム万次郎
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第九話

 洞窟を光で満たした大男は乱杭歯を剥き出しにしながら、ジロヴァガーレに跪いた。ボロ布のような服を纏った大男が跪く姿はどこか滑稽ですらあったが、フィリアとしてはそれどころではなかった。


「お久しぶりでごぜえます、ジロヴァガーレ様。近頃全然いらっしゃらねえもんだから、てっきりオラのこと忘れちまったのかと…!」


 跪いた姿勢で頭だけを上げて、ほとんど泣きそうな形相で話す大男は、ジロヴァガーレの後ろに隠れるフィリアに気づいた。


「あれ、ジロヴァガーレ様、誰かと一緒ですか」


「おぉ、そうじゃ。ほれ、フィリア。隠れておらんと挨拶しておけ」


 暗闇の恐怖からは逃れられたが、今度は雲衝く大男への恐怖を味わっているフィリアを、ジロヴァガーレは自分の前に押し出した。押し出されたフィリアは、目の前にある大きな顔と対面し、その大きさに圧倒されながらも覚悟を決めた。


「こ、こんにちは。スカベンジャーのフィリアです。よろしくお願いします」


「おう、よろしく!オラはヒガンテっちゅうもんで、第八工房の長をやっとるんだ」


 大男・ヒガンテは跪いたままニカニカと笑ってフィリアに挨拶を返した。最初こそ大きさに恐怖を覚えたが、どうやら目の前の大男はとても気がいいようだと気づいたフィリアの体からは、幾分か力が抜けたようだった。ぎこちないながらも挨拶を終えた二人に、ジロヴァガーレが声を掛ける。


「さて、挨拶も済んだようじゃ。早速今日の要件じゃがヒガンテ、『遺物』のメンテナンスをしてくれんかのう」


『遺物』と聞いたヒガンテの目が輝いた。


「い、『遺物』〜〜〜!?オラ、これまでの人生で見たこともねえです!そんな物をオラが扱ってええんですか!」


「暴れるな!工房が崩れる!」


 フィリアの身の丈はあろうかというほどの大きさの拳骨を振り回しながら無邪気に喜ぶヒガンテをジロヴァガーレが嗜めた。素直にいうことを聞いて地面に座り込んだヒガンテに、ジロヴァガーレは滔々と言ってきかせた。


「こちらのフィリアが『遺物』の持ち主じゃ。どうやら品物には意志があるようだが、いかんせん全体がサビで覆われていてな。とりあえず、それを落とすだけでいいから、今日中に終わらせてくれんか」


 冷静になったヒガンテはジロヴァガーレの話に聞き入っている。


「『遺物』ともなると、おいそれと上で扱うわけにもいかん。じゃからこそのここであり、貴様じゃ。モノは小さいが、貴様ならなんてことはない作業じゃろう。頼んだぞ」


「わかりました!オラも久しぶりの仕事で腕が鳴ります。んじゃあ、フィリア、品物をここに出してくれ」


「は、はい」


 先ほどまでのはしゃいだ様子は何処へやら、一転して落ち着いて話しかけてくるヒガンテに、フィリアはロボットを見せた。


「オオキイ…!」


 先ほどからずっと何か呟いていたが、どうやらロボットもヒガンテの大きさに驚いていたようだ。


「ヒガンテだ、よろしくなあ。んで、オメェ自分の名前はわかるか?」


「ワカラナイ、ジロヴァガーレ、モ、ワカラナイ」


「そうかそうか!ジロヴァガーレ様でもわからねえってんなら、よほどのマイナーモデルかもなあ!」


「ヒガンテ、ナマエ、ワカル?」


「いんや、オラはわからねえけど、オメェの錆は落とせる」


「サビ!オトシテ、ホシイ!ジャマ!」


「そうだろうなあ、すんげえ分厚さだもんなあ。オラに任せとけ!」


 妙に分かり良く話すヒガンテにロボットも心を開いたのか、すぐに仲良くなってしまった。


「じゃあ、ヒガンテさん、よろしくお願いします」


 仲良くなった一人と一機を見て、これなら大丈夫だろうと判断したフィリアは改めてヒガンテに声をかけた。だが、ヒガンテが妙に照れ臭そうにしているため、不思議に思ったフィリアはその理由を聞いてみた。


「あの、どうかしましたか?」


「いんや、その、なあ?オラのことはヒガンテでいいぞ。敬語も使わねえでくれ、どうにも慣れてなくてなあ…」


 やたらとモジモジしながらそう言う大男に愛嬌を覚えたフィリアは、笑いながら快諾した。


「わかった!じゃあ、ヒガンテ、改めてこの子のことよろしく!」


「おう!」


 ヒガンテは元気よく返事をすると、そそくさと自らの後ろにあるスペースを整頓しつつ、何かを探し始めた。


 その様子を見たジロヴァガーレが呆れて声をかける。


「ヒガンテ、貴様なぜ仕事場を綺麗にしておらんのだ。今は確かに仕事の季節ではないが、整理整頓を怠っていい理由にはならんぞ」


「ひい、すみません。ジロヴァガーレ様。つい面倒でサボっちまいました」


 そジロヴァガーレに叱られながらも、ヒガンテは探し物を見つけたようで、嬉しそうな声を上げた。


「おぉ!あったあった!これがねえと、仕事が始まらねえんだ」


 そう言うと、見窄らしい洋服の上から大きなエプロンをかける。ヒガンテはエプロンについているポケットからこれまた大きな革手袋とルーペを取り出し、ロボットを検分し始めた。


「むぅん、確かにこりゃ錆が酷えなあ。まあ軽く洗浄して研磨して…」


 唇を尖らせながらロボットを見る顔はまるで少年のようで、ヒガンテが本当に喜びながら仕事に取り組んでいることがフィリアにも伝わってくるようだった。全体を検分し始めてから少しすると


「まあこれなら1時間くれえで終わると思います。その間、ジロヴァガーレ様はどうしますか?」


 と、ヒガンテが声をかけてきた。


「ふむ、1時間か…。我輩はここで待っていようかの」


「じゃあ私もそうします。」


「わかりました。それなら先に茶の準備をするんで、奥に行って待っててくだせえ」


 そう言うとヒガンテは体をゆさゆさと揺らしながら、洞窟の隅に向かっていった。


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