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屑鉄の鉄拳  作者: ウィリアム万次郎
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第八話

コロナに感染して、後遺症なのか一日の睡眠時間が爆伸びして、異様に筆が進みませんでした…。とりあえずPCに向かえる程度には回復したので、ここからまた書いていきます。

「城」は地上に露出している部分が全てではない。蟻の巣のように、地下へと工房スペースが広がっている。ジロヴァガーレが今回指定したのは、普段は開かれることのない工房である、第八工房だった。


「我輩も第八を開けるのは久方ぶりのことじゃ。『遺物』はそう軽々と扱っていい代物ではないからの」


 どこか嬉しそうな声色でジロヴァガーレは呟く。


「第八は本来、巨大な兵器などを扱う際に開けるのじゃが、最近は兵器もなかなか発掘されんでな」


「つまりこの子も兵器ってことですか?」


 フィリアの疑問も当然である。老人の言によれば、今から自分達は兵器を扱う場所に立ち入るというのだから。だが、老人の答えは否定だった。


「いや、それは分からん。だが、第七以上では人目がありすぎる。『遺物』であるという時点で、それは秘匿しておくべきなのじゃよ」


「なるほど…」


 正直なところフィリアは『遺物』の価値をしっかりと理解できているわけではない。未知への好奇心で突き動かされているだけで、価値に関してはジロヴァガーレがこれだけ言うのだから、という甚だ無責任な認識をしている。とはいえ、普段開くことのない工房につれられる、というのはやはり尋常ではないことなのだろう、とフィリアは認識を新たにした。


「よし、昇降機じゃ。これで一気に第八まで降りようぞ」


 他愛もない話をしているうちに、フィリア一行は昇降機の前に着いていた。フィリアは老人と共に、無骨な骨組みが顔を見せる昇降機に乗り込んだ。ガコン、と鉤が外れたような音を立てて、昇降機は落ちていく。


「ウイテル…!トブ…!」


 昇降機特有の、体が浮くような感覚にロボットが驚いている。その様を見てフィリアは微笑んだ。落下する感覚は30秒ほどで緩やかになり、昇降機は静かに止まった。蛇腹状の扉が開き、暗闇がフィリア達を誘う。暗闇からは得体の知れない重低音が不定期に響いてきており、フィリアは無意識のうちに後退っていた。


「ふむ、彼奴め、明かりをつけておらなんだか」


 ジロヴァガーレは小さく舌打ちをすると、臆する様子もなく暗闇に足を踏み出した。少し待っていると、5mほど先にボウッと小さな灯りが灯った。ジロヴァガーレが松明に火をつけたようだった。


「こっちじゃ、段差がある故、気をつけるといい」


「は、はい」


 フィリアはロボットを抱いて、恐る恐る足を踏み出す。得体の知れないものは得意だが、暗闇は怖い。見るも珍しいフィリアの少女らしい一面だった。


「ゲッゲッゲ、我輩の後に続きなさい」


 フィリアは素直にジロヴァガーレの言葉に従う。暗い中に浮かぶ老人の顔は、普段より一層不気味であったが、響き渡る重低音と先の見えない恐怖で緊張しているフィリアにとっては、見知った顔がむしろ救いになっていた。


「ここは工房とは銘打っているが、実はただの洞窟でな。もともと「城」の下に広がっていた洞窟を拝借しているというわけじゃ」


「な、なるほど…」


 背筋に流れる汗を感じ取りながら、フィリアは頷く。湿度が高い洞窟とはいえ、フィリアがかいている汗の量は尋常なものではなく、病気の類いでなければ


「時にフィリアよ、お主もしや暗闇が怖いのか?」


「は、はい…実は…」


 そういうことになる。


「ゲッゲッゲ、長い付き合いじゃが、初めて知ったわい。あのフィリアが暗闇が怖いとは、誰も想像だにせんじゃろうて」


「私も恥ずかしいので言わないでください…」


「あいわかった、我輩もそこまで意地が悪いつもりもない。今から明かりをつけさせるが故、あと少し辛抱をしてくれ」


「はい…ありがとうございます…」


 地上とは打って変わって弱気なフィリアの返事が洞窟に響いた。ジロヴァガーレは手元の灯りを頼りに歩く。フィリアはそんなジロヴァガーレを追う。50mほど歩いたところで、ジロヴァガーレは立ち止まった。先ほどよりもずっと重低音は大きくなっており、フィリアは恐れを隠せない。ジロヴァガーレの手元の灯りには、なにか汚い布のようなものが照らされていた。


「ふむ、こやつ仕事がないからと寝ておるな」


 布のようなものを一瞥しながら、ジロヴァガーレは呆れたように呟く。そして、


「ヒガンテ!!!仕事じゃ!!!!」


 洞窟全体が揺れたかと間違えるほどの大音声でジロヴァガーレが叫んだ。後ろにいたフィリアは驚き身をすくめた。ジロヴァガーレはそんなフィリアにはお構いなしに、今度は目の前の布を杖で突き刺し始めた。よく見ると布の向こうには大きな塊のようなものがあるようで、老人の杖はなかなかの深さまで突き刺さっている。フィリアには、ついに目の前の老人の気が狂ってしまったようにしか見えなかった。


「早う起きぬか!我輩じゃ!ジロヴァガーレ・ブルートじゃ!」


 ジロヴァガーレが息切れしながらそう叫ぶと、洞窟中に響いていた重低音は消えた。そして、深い呼吸音のようなものが聞こえたかと思うと


「ジ、ジロヴァガーレ様〜〜〜、寂しかったでごぜえます〜〜〜!」


 と、低い声が洞窟中に轟いた。


「ふぅ、やっと起きたか」


 老人は息をつき、すっかり縮こまっているフィリアに向き直った。


「すまぬな、今明かりをつけさせる。ヒガンテ!明かりをつけてくれぬか!」


「へえ!承知しやした!」


 またもや低い声が洞窟に轟くと、なにか大きな物がのそりと起き上がり、落ち着きのない動きで動いている気配が伝わってきた。少しすると、洞窟の高い位置に灯りが灯った。


「これでええですか?」


 灯りには、ニカッと歯を出して笑う、身の丈10mはあろうかという大男が映し出されていた。


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