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屑鉄の鉄拳  作者: ウィリアム万次郎
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第七話

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「起きてる?」


「オキテル、フィリア、ネテタ」


 ロボットに先程まで寝ていたことを指摘され、フィリアは恥ずかしそうに頬を赤く染める。


「うるさいなあ、疲れてたんだから仕方がないでしょ。はい、挨拶して。あなたの名前がわかるかもしれない人だよ。鉄血商会の会長のジロヴァガーレ・ブルートさん」


 フィリアは手でジロヴァガーレを示しながら、ロボットに挨拶を促す。


「ジロ、ヴァガーレ、コンニチハ」


 ロボットは赤い眼を点滅させながら、礼儀正しく挨拶をした。ここまでの会話を静観していたジロヴァガーレが、やや驚いたような調子でフィリアに話しかける。


「フィリア、これはお前が拾ってきたのかね?」


 濃い緑の瞳にキラキラとした輝きを宿しながら、老人はロボットに近寄る。


「はい、屑鉄の山の中に埋まってて、そこから助けて拾いました」


「フィリア、タスケテ、クレタ」


「おぉ、そうかそうか、さぞ怖かったじゃろうて」


 いつの間にかロボットの目の前まで来ていたジロヴァガーレは、そう言いながら指輪を外し、ロボットの錆だらけの体を撫でる。どうやら、撫でながらロボットの機体の細部を確認しているようだ。一通り機体の確認が終わり、コンコンとロボットの頭部を叩いて、ジロヴァガーレは元いた場所に戻った。


「これは『遺物(レガシー)』じゃな」


 ジロヴァガーレは興味深そうにロボットを見つめ、顎髭を撫でながら、そう言った。


「『遺物(レガシー)』?」


 聞きなれない単語に、フィリアが首を傾げる。


「然り、『遺物(レガシー)』じゃ。『遺物(レガシー)』とは『大厄災』直後の50年間のうちに作られた機工を指す。実際に見るのは初めてか?」


「そうですね、話にも聞いたことはないです」


「ふむ、我輩とてそう拝むことはできん代物じゃ。何せ大昔の堆積に埋まっておるからな」


「私も初めて聞きました。『遺物(レガシー)』とは…」


「貴様は勉強不足じゃ」


 コルトの驚きを一蹴すると、ジロヴァガーレはロボットに向き直る。


「それにしても、異様に状態が良い。メーカーからして、我輩も図鑑でしか見た事がないほどだ。おそらく選り抜きの旧式だろうに、目立つ損傷は錆しかない。素晴らしい逸品じゃ!」


 ロボットが作られた年代を聞いて、フィリアも改めてその状態の良さに驚いた。まさか300年以上前の物品で、ここまで状態が良いものがあるとは思っても見なかったためだ。


「これだけ状態が良いと、骨董としての価値も生まれる故、売れば億は値がつくじゃろうな」


 それを聞いたコルトは眼を丸くした。億単位の品など滅多にない。そもそも記録にないほどだろう。


「だが売る気はないのじゃろう?我輩達としても、卸したとて買い手がつかんがな」


 哄笑しながらジロヴァガーレは言う。


「えぇ、売る気はないです…ちなみに、メーカーがわかるってことは、この子の型名もわかったりしますか?」


 だが、フィリアの興味は値段ではないところにあるようだった。


「うーむ、流石に錆を落とさんことには判断しかねるのう」


「錆を落とすことはできますか?」


 歯切れの悪いジロヴァガーレに、フィリアは畳み掛ける。ここに来て、フィリアのスカベンジャーとしての魂に火がついた。自分が偶然拾ったロボットは『遺物』と呼ばれる、どうやら大変に珍しい物品であるらしい、値段や価値ではなく、自分の隣に佇むロボットの正体はなんなのか。それを追求しなければスカベンジャーとして嘘というものだ。


 目の前の老人に、火がつくように焦らされていたことを認識しつつ、それでもフィリアは畳み掛けた。


「もし可能であれば、ジロヴァガーレさんが言った図鑑も見てみたいです。あ、錆を落とすところもご一緒したいかも…」


 まだまだ言い募ろうとするフィリアを、ジロヴァガーレは孫娘でも見つめるような目で見る。いつからか「会長」としか呼ばれなくなったが、昔は今のように名前で呼んでくれていたことを懐かしむジロヴァガーレの顔は好々爺そのものだった。


「あいわかった。錆を落とすのもそう時間はかかるまい、このまま作業に入ろうぞ。図鑑も後で貸してやろう」


「やったあ!」


 素直に喜ぶフィリアに、老人は目を細める。


「私もご一緒してよろしいでしょうか…?失礼とは存じますが、後学のためにぜひそちらのロボットを細かく見てみたく…」


 コルトの遠慮がちだが期待を隠しきれない申し出を、フィリアは快く了承した。それを見たジロヴァガーレは苦々しげにつぶやいた。


「我輩としては、こやつには一から商品の知識を学び直してほしいところだが、まあよい。それでは工房へ向かうかの」


 少々不満げなジロヴァガーレと、浮き足だったコルトの対比が面白く、フィリアはつい笑ってしまう。それを横目に、ジロヴァガーレはコルトを呼び寄せ、二、三耳打ちをした。青年は深く頷き、フィリアに向き直る。


「フィリア様。私はフィリア様から買い取った品物を納めに、一度倉庫へ向かいます。工房までは会長がご一緒するとのことですので、ご心配なく。それではお先に失礼いたします」


 フィリアに対し深く礼をすると、コルトは査定室から消えた。


「では我輩達も工房に向かうとするか」


「はい!」


 老人と少女と古びた機械も査定室から出て、「城」の地下にある工房へ向かった。


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